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兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
第四章.フィアトム城防衛編

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77.スキル発表会

 

 ショックが大きくてあまりちゃんと聞いていなかったのだが。

 つまりは自分の普段の戦い方とリミテッドスキルを、一人ずつ順番に発表していこうという話になっていたらしい。


「もちろん他の人に自分の奥の手を話すのは気が乗らない人も居ると思う。でも今はそんなこと言ってられる状況じゃないよ。このメンバーで協力して危機を乗り越えなきゃならないんだから」


 ヤガサキが胸に手を当ててそう語ると、うんうん、と何度もアサクラやワラシナが繰り返し頷く。

 残りの一人・アカイは顰めっ面で腕組みをしながら突っ立っているが、反対意見を述べる様子はない。

 不満には思っているがだからといって労力を割いてヤガサキと言い争うつもりはない。印象としてはそんな感じだ。


「ここにいる全員、リミテッドスキルを持ってるのか?」


 念のため質問だけ飛ばしてみると、ヤガサキはすぐに頷いた。


「うん。私が知ってるスキルはワラシナさんだけだけど。アカイさんとアサクラくんも覚えてるって聞いたよ」


 今のはただの確認だ。

 俺としてもアカイと同様、ヤガサキの意見に反対するつもりはない。

 それより逆にこの状況を利用させてもらおう、とそう考えた結果、いの一番に俺は挙手していた。


 周囲の視線が一気に俺へと集まる。


「さっきの非礼のお詫びとして、まずは俺から話していいかな」

「もちろん。ありがたいな」


 にこりとヤガサキが口元に笑みを浮かべる。相変わらず真意が読めない表情だ。


 ただヤガサキには申し訳ないが、俺は馬鹿正直に自分のリミテッドスキルのことを話すつもりは毛頭なかった。

 何故ならこの場において、むざむざと手の内を明かす意味など無いからだ。メリットどころかデメリットしかないと言っていい。


 そもそも「相手のリミテッドスキルを奪えるスキルなんだ!」などと説明しようものなら、この集団において自分がどのような扱いを受けるか。さすがにそれくらいの想像はつく。

 となると必然的に、"略奪虚王(リゲイン)"以外のスキル名を口にしなければならないわけだが――「じゃあ今使ってみて」なんて言われる可能性もあるのだから、スキル名を捏造するのも憚られる。

 そうなるとやはり、今覚えている中で、話してもデメリットの少ないスキルを述べるべきだろう。


 俺は今まで奪ってきたスキルの持ち主の顔を一人ずつ頭の中に思い浮かべた。

 その中でも特に警戒心が強く、絶対に、元クラスメイトの誰にも自分のスキルを明かしていない人物の顔が一人だけ浮かんだ。

 同時に、自然と口を動かす。


「俺のリミテッドスキルは"矮小賢者(アナリスト)"っていうんだ」

「アナリスト。どんなスキルなの?」

「さっき使った《分析眼(アナリシス)》の効果を増幅させるスキルだ。たまにリミテッドスキルが見られることもあるから役立つっていうか」

「つまりさっきのは、チサのスキルを勝手に見ようとしたんですね……?」


 眼鏡の位置をくいくいと指で直しながら、俺からして右側に立ったワラシナが指摘してくる。

 俺はわざと苦笑いを作って頷いてみせた。


「いつもの戦い方としては、相手の能力を《分析眼(アナリシス)》で推し量ったあとに戦うようにしてる。武器は短剣。たまに片手剣を使うこともあるけど」

「なるほどなぁ。相手が強ければ逃げりゃいいわけだし、結構便利なスキルじゃん」


 アサクラも深く頷いている。ヤガサキはずっと微笑んだままだ。

 周りの反応を見る限り、どうにか信じさせるのには成功したようだ。


 ――もちろん、彼女たちに話したのは嘘だ。

 全てが嘘というわけじゃないが、まるっきり事実でもない。


 俺自身のスキルは別にあるし、トザカから譲り受けた《分析眼(アナリシス)》は強力で、魔法さえうまく発動させれば相手のリミテッドスキルどころか、他のスキルや習得魔法全てを一挙に覗くことができる破格性能のスキルだ。

 そんなことには気づいていない様子で、アカイが顎をしゃくる。


「でも、全然直接的に強そうなスキルじゃないね。そっちは?」


 顎先で指名されたユキノは、無表情でてきぱきと答えた。


「"兄超偏愛(プリズン)"というスキルです。兄さまのみにしか効果の無い回復・支援魔法が使えます。それ以外にはいくつか光魔法が使える程度です」


 簡潔な説明ではあるが、その言葉に嘘偽りはない。

 ユキノ自身は、自分のスキルのことを隠す必要はないと考えているようだった。


「……ああ、それでナルミみたいなのも何とか生き残ってこれたの」


 アカイの言葉に、ユキノが明らかにむっと顔つきを険しくさせた。

 もちろん俺にとってはアカイがそう思い込んでくれたほうが有り難い。

 というか実際、ユキノの力がなければここまで生き残ってこられなかったわけだし、別に間違った認識でもないのだ。


 ……さて、これで俺とユキノの説明が終わった。

 次はヤガサキかアサクラあたりだろうか。アカイは未だに不機嫌そうだし。


 何となくそう思い、気を抜いた直後だった。


「――――モンスターが居るのはどうして?」


 その声は矢のように素早く俺を射抜いた。


「二人のどちらかが《魔物捕獲(テイム)》を覚えてるの? それともそちらの小さな女の子かな?」


 ヤガサキが、明らかに作り笑いとわかる表情を貼りつけ、俺たち三人の顔を順番に見遣る。

 ユキノは全く動揺していなかった。俺はどうだろう。もしかしたら少し、表情筋が強張ってしまったかもしれない。


「ちいさなおんなのこじゃなくて、こなつはこなつだよー」

「ふふ」


 ヤガサキは幼げなコナツに微笑んでみせたがそれだけで、コナツの名を呼び直すこともなかった。

 それから彼女は俺のことだけをひたすら見つめた。いかにも挑戦的に、それでいて揶揄するかのように。

 少しの隙も見せては食いつかれる。そんな緊張感が背筋を這い上がる。

 それでも何とか声は震えずに済んだ。


「覚えてるのは俺だ。ハルトラも、俺のテイムモンスターだ」

「そうなんだ。どっちも無属性魔法だから矛盾はないね」


 どっちも、というのは《分析眼(アナリシス)》と《魔物捕獲(テイム)》のことを指しているのだろう。

 ヤガサキはそう話を締め括った。それ以上、追及してくることもない。


 だが――俺がヤガサキに感じる、何か得体の知れない……不穏とも呼ぶべきいやな感覚は増していくばかりだった。

 やはりコイツは一筋縄ではいかない。今はただこんな少女が味方であることに、ただ安堵するばかりだった。


「それじゃあ次は私の番かな」


 俺の焦燥を知ってか知らずか、次はヤガサキが名乗りを上げる。

 一瞬の沈黙を挟んで、


「……ナルミ、おれたちもまだヤガサキさんのスキルは教えてもらってないんだ」


 レアだぜ、とひそひそ話しかけてきたのはアサクラだ。そうか、と俺はぞんざいに頷く。

 この場の誰より――否、この場に居ないミズヤウチを含めても、俺が最も気になるのはヤガサキのリミテッドスキルだ。


 一字一句たりとて聞き逃せない。静かに集中を高めていく。


「私のリミテッドスキルは"再興再証(リバース)"っていうの」

「リバース……」


 再生とか、復活という意味のある言葉だったはずだ。語感からすると回復系のスキルだろうか。

 しかし続くヤガサキの言葉に、その場に揃った俺たち全員が度肝を抜かれることとなった。


「スキルの効果は()()()()こと」

「……はぁ……?」


 そう声を洩らしたのは誰だったのか。


「文字通り死んでも生き返る。それだけだよ」


 ヤガサキの口調こそ静かで、いっそ冷たくもあったが、その意味がようやく脳に浸透してきたとき――俺が抱いたのは、「そんなのアリ?」という頭の悪い感想だった。


「それ――すっげぇチートスキルじゃねぇ?」


 自分のことのように目を輝かせて言うのはアサクラだ。


「だってさ。生き返るって反則じゃん。マジで最強じゃん。天下取れるヤツじゃん!」

「ごめんね。そうでもないんだよね」


 囃し立てるように言い募るアサクラだったが、すぐにヤガサキがその勢いを火消しに入る。


「実はもう使っちゃったから。このスキル強力すぎて一回限りしか発動できないみたいで」

「え……えぇ~~!?」


 明らかにガッカリと肩を落とすアサクラ。

 しかし騒ぎ立てるアサクラと異なり、ワラシナはおずおずと控えめに問うた。


「一度目に使ったのって、もしかして……前に血蝶病の人たちに追われたときに……?」

「うん。一回殺されちゃってから生き返ってお城に帰ってきたの」


 何でもないようにヤガサキがそう言うと、「そうだったんだぁ……」とワラシナは声を震わせた。

 それどころか、よく見ると泣いている。急に泣き出した少女の姿に、アサクラなんかはわかりやすくビビッていた。


「大変だったんだ、チサ……それなのに私、無闇にすごいすごいって騒いじゃって……」

「そんなことないよ。私の帰りをワラシナさんが喜んでくれてうれしかったし」


 言葉を交わす二人の近くで、今まさに無闇にすごいすごいと騒いでいたアサクラがすごすごと引き下がる。さすがに気まずかったのかもしれない。


「だからリミテッドスキルはもう使えないんだけど。武器としては弓矢はわりと得意な方かな」


 それでヤガサキの発表は終わりだった。


「すごいですね、ヤガサキさん。私も兄さまを死から復活させる究極の魔法を覚えたいし覚えるべきでは……いえ、でも私の役目は兄さまを守り抜くことなのだからそもそもそれでは本末転倒……」


 ユキノも俺の隣で何やらブツブツと呟いている。よほどヤガサキのスキルに衝撃を受けたのだろう。


 そして、その次に自然と目線を集めたのは、先ほどまでギャーギャー騒ぎ立てていたアサクラだった。

 当の本人はといえば、不思議そうな顔で俺たちを見回し、最後に人差し指を疑問符でいっぱいの自分の顔に向けた。


「……え、おれ?」


 ウンウン、と何人かが首肯する。


「いやいや! おれのは別に、全然大したものじゃなくて……最近覚えたばっかりだし。ヤガサキさんのあとだと言いにくいっていうか、言いたくないっていうか、本当に言いたくないんだけど」

「いいから早く言って」

「えぇー……」


 アカイに雑に急かされ。

 明らかに渋々とだったが、アサクラはそのスキル名を小さな声で口にした。


「…………ア、……"目覚時計(アラーム)"」

「え?」


 聞き間違いかな?




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