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兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
第四章.フィアトム城防衛編

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72.身体検査

 

 思いがけないことを訊かれた、というようにアサクラが目を丸くする。


「ち、違うけど」

「それは証明できる?」

「えーっと……」


 困り顔でアサクラは少し離れた位置に立つアカイを見遣る。二人の関係性が窺えるようだ。


「あたしらに全裸になれとでも?」


 アカイが鼻を鳴らして言うと、他の女性陣も軽蔑するような目を俺に向けてきた。


「そうだな。痣の確認方法としては、それが一番手っ取り早いんじゃないか?」

「…………」


 負けじと言い返すと、一瞬アカイは怯んだようだった。

 アカイの言った通りだ。それ以外に目の前の相手の痣の有無を判別する画期的な手段はない。

 今この状況で、無条件で信頼しろというのは無理な話だった。

 ただ、こういう話し方をしてしまうと、反発されるだろうと口にする前から予想してもいた。


「そういうならあなたたちだって充分に怪しいじゃない。ネムノキだって、あなたを連れてくるって息巻いて出て行ったのに一緒に居ないし。本当はもう殺しちゃってるんじゃないの?」

「おい、アカイ……」


 予想通りにアカイが突っ掛かってくる。アサクラは俺とアカイの間でおろおろしていた。

 やはりネムノキが俺たちの元にやって来たのは行き当たりばったりではなかったわけだ。彼はいわゆる案内役に任命されていたのだろう。

 俺は簡潔に事のあらましを説明する。


「ネムノキとはシュトルで会って、一緒に船でフィアトムに渡ってきたけど港で別れた。諸事情あって城には戻れないだとかどうとか言ってたけど」

「そんなの嘘に決まって――」

「ネムノキくんはこの城から離れたかったみたいだし。あながち嘘でもないんじゃない?」


 そうアカイの言葉を遮ったのはヤガサキだった。

 ここに来て彼女が発言するのは初めてだ。自然と俺たちの目線は彼女に吸い寄せられる。


「ナルミくんたちをフィアトムまで連れてきてくれたのがさ。たぶん彼なりの私たちへの義理立てだったんだよ」


 その声は決して大きいわけではないが、不思議とよく耳に馴染み、聞きやすい音色をしていた。

 ヤガサキチサ。赤みがかった茶髪を頭の後ろで二つに束ねた少女だ。確か吹奏楽部に所属していた。

 身長が高く、可愛いというよりは顔立ちも相まって綺麗、という印象を見る者に与える。このメンツでは一番話が通じやすそうだし、一番侮りがたい相手とも言えそうだ。


「……ヤガサキさんがそう言うなら、それはそうかもしれないけど」


 その証拠というべきか、ヤガサキがやんわりとでも発言したことでアカイの勢いも多少は落ち着いている。

 こうなってくると、アカイ相手ではなくヤガサキを先に説得した方が良さそうだ。


「ヤガサキ。今後の話を円滑に進めるためにも、痣の確認は早めにしたい」

「そうだよね。私もナルミくんの意見には賛成。男女で分かれて確認しようか」


 呆気なく同意を取りつけられ、しかもこの後の段取りまで口にするヤガサキに俺は驚いた。

 驚いたのは他のメンバーも同様だったらしい。アカイなどは口を開けわなわな震え、ワラシナも眼鏡の先で瞳を見開いている。

 アサクラはヤガサキの言葉の意味がよく分かっていないのか、「うん?」とそんな仲間たちを見回すだけだ。


「でも女子側はともかく男子側は二人じゃ困るよね。二人が結託していたら困るもの」


 内心で舌を巻く。何でもないことのように言っているが、それにすぐ思い当たる時点でヤガサキは頭の回転も悪くない。


「えっと……何の話をしてるんだ?」


 置いてけぼりのアサクラに説明したのはユキノだった。


「痣の有無を男女それぞれに分かれて確認するということです。兄さまとアサクラさんが裏切り者同士だと困るので、確認方法をどうしようかという話で」

「ちょ、ちょっと。本当にやるの?」


 慌てたのはアカイだった。だがヤガサキはこくりと頷くとアカイに向かって言う。


「疑いを晴らすには必要なことだから」

「えー……」

「男女別だから大丈夫。お城の兵士さんを呼ぼう。男子の方はその人に確認してもらえばいいから」

「わ、私はチサが言うならいいですよ」


 それまで黙っていたワラシナがそれだけを早口で言う。

 ただ一瞬、違和感があった。

 ワラシナは「チサ」とヤガサキを名前で呼んだ。だが元々ワラシナは、仲の良い友達相手でも苗字にさん付けで呼んでいた記憶があったが……。


「じゃあまずは女子から始めよう。このホールの隣に空き部屋があったはずだからそこを借りて確認しようね」


 しかしそれを追求する暇もなく、ヤガサキは段取りをつけてその場を軽やかに取り仕切っていったのだった。

 ちなみにその間、隅にちょこんと立っていたミズヤウチは一言も喋ることはなかった。



 +     +     +



 まずは時間のかからない男子側から、空き部屋で確認を行うこととなった。


 男子の方の確認は兵士二人も交え、数分と経たずすぐに終了した。

 男同士で脱ぐのを躊躇うわけもないので当然だ。俺も注意深く観察したが、アサクラの日に焼けた肌には蝶の形をした痣は見つからなかった。


 そして女子側。

 こちらに関しては、ユキノだけでなくコナツとハルトラも痣チェックに参加することとなった。

 誰でも血蝶病になる可能性があるし、ハルトラに関しては、「人間が血蝶病で魔物になったのでは」とアカイが疑い始めたからだ。

 アカイたちと共にユキノを一人にさせるのにはひどい不安があったので、これは逆に俺にとっては好都合だった。


「こういうとき、ほんと遅いよな女子って」


 別室に向かった女子を待っている間、手持ち無沙汰だったのかアサクラが馴れ馴れしく話しかけてくる。

 彼は同意を求めていたのだろうが、俺には別に訊きたいことがあった。


「アサクラは、アカイたちのことは一度も疑わなかったのか?」


 先ほどの遣り取りからも察するに、どうやらこいつらはお互いの痣の有無を一度も確認していなかったらしい。

 アサクラは「何でそんなこと訊かれるんだろう」みたいな不可解そうな顔をしたが、首を捻りつつも答えてくれた。


「ああー……、おれらはカンロジさんと一緒に、血蝶病のヤツらから逃げてきたメンバーだから。

 少なくとも、一緒に脱走したメンバーは血蝶病ではないワケじゃん?」


 つまり、アサクラを始めとしてアカイ・ヤガサキ・ワラシナ・ミズヤウチ――それにネムノキ・ハラ・アラタは、全員が当時の脱走メンバーに含まれていたということか。


「なるほどな。その脱走したクラスメイト、他には誰か居た?」

「ああ。えっと、カンロジさんがリーダーみたいな感じで、みんなをまとめてくれてさ……。

 それで何だっけ? メンバー? ええっと。サノとテジマは居たけど、洞窟行く前に抜けちゃってさ。あのあと大丈夫だったんかなぁ。

 あとはイシジマだな、イシジマ。カンロジさんが連れてきたんだよ、乱暴者でも一応役に立つはずです、とか何とか言って。顔はかわいいのに、度胸があるよなあの子……」


 あまり答えには期待していなかったが、警戒の様子もなくスラスラとアサクラは答えてくれる。俺に痣がなかったので安心しきった様子だ。

 それに今まで女性だらけでそれなりに苦労してきたのか。彼には既に、俺に対して勝手に仲間意識のようなものが芽生えているらしかった。


 ネムノキは計算尽くでカンロジとイシジマの名前しか洩らさなかったが、それに比べれば重要情報の大盤振る舞いである。

 これでほぼ、血蝶病に罹ったクラスメイト――黒フード十五人の正体は確定できたといっていい。後でユキノにも伝えなければ。

 上手くいきすぎて笑みさえ浮かびそうになるが、それはやめておいた方が良さそうだ。

 可能であればアサクラからはこれ以上の情報を引き出しておきたい。


「その、洞窟っていうのは……」

「待たせてごめん」


 だが、残念ながらそう思い通りには運ばなかった。

 アカイたちを引き連れてヤガサキが戻ってきたのだ。


「誰にも痣はなかったよ。そっちはどう?」

「おれもナルミも、もちろん痣はないぜ」


 アサクラは胸を張ってそう答える。少しだけ空気が緩んだ。

 隣まで寄ってきたユキノも密かに俺に向けて頷いてみせたので、どうやら間違いないらしい。

 この場に揃った、三年二組所属の七人は誰も血蝶病には罹っていない。


「これでようやく本題に入れるね」


 ヤガサキは改めて、全員の顔をゆっくりと見回してから……後ろに立つワラシナを振り向いた。


「ここからはワラシナさんが話すよ」

「は、はいっ」


 ヤガサキに名指しされたワラシナは裏返った素っ頓狂な声を上げた。

 だがその段取り自体は、どうやら最初から決まっていたらしい。

 ワラシナは前に出ると、その場の全員からの視線を一身に受け……それでも背を向けようとはしなかったからだ。


 彼女は眼鏡のつるに両側から触れながら、緊張しきった面持ちで言う。


「私、――占いが得意なんです」




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