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兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
第三章.刺客襲来編

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65.反撃の一手


 俺は操舵室に足早に向かいながら、デッキで起こった出来事をユキノに語った。


「そうでしたか……タカヤマくんたちが、この船を襲っていたんですね」


 ユキノは少し考え込む素振りを見せてから言った。


「彼らの狙いはやはり兄さまなのでしょうか?」

「それっぽいことを、タカヤマは口にしてた。けど……」


 タカヤマの言葉が真実だとすると、俺がこの船に乗り込んだことで他の乗客を危険な目に遭わせたとも言える。


 でも、何故タカヤマたちは俺の居場所が特定できたんだろうか?

 昨日、フィアトム行きの船に乗ることだって、ネムノキに言われ突発的に決めたことなのだ。

 素直にその事実を鑑みるなら、ネムノキがタカヤマたちに俺の情報を売ったと考えるべきだろう。


 ……が、それならデッキで俺を包囲した時点で、ネムノキは俺を裏切ってタカヤマに味方すれば良かったはずだ。その方が手っ取り早いし確実なのだから。

 実際は違った。ネムノキは俺と共に逃げたし、今は再びデッキに戻って冒険者の支援を行っている。彼が裏切り者だとしたら行動がちぐはぐすぎるのだ。


 だとしたら――今回の襲撃には何か、俺の想像もつかないような秘密が隠されている。そんな気がしてならなかった。


「そっちはどうだった? もう船の中にかなりの魔物は侵入してるのか?」


 雁字搦めになった思考を一旦リセットするためにも、話題を替えてみる。

 ユキノは俺の少し後に続きながら答えた。


「はい、何羽かに遭遇しました。ハルトラが蹴散らしてくれたので私は何ともありませんでしたが、乗客の中には怪我人も居ます」

「その人たちは今どこに?」

「食堂の方に集まってもらっています。警備として冒険者の方に五人ほど残ってもらいました」


 かなり的確にユキノは不測の事態にも対処していたようだ。

 昨夜の食事のときに確認した限り、食堂には窓もなかった。そう易々と魔物たちに突破されることはないだろう。


『クエエッ』


 話している間にも、どこかの客室の窓から侵入したのか。

 鳥型の魔物が廊下の角から現れ、俺を視界に捉えた途端に一直線に飛んできた。


「!」


 立ち止まっている暇も、考えている暇もない。

 俺は足の速度を緩めることなく、どちらかというと速めてそのまま魔物に向かって突っ込んでいく。


「兄さま!」


 それでも問題ない。狭い室内では、空を飛ぶ鳥よりも人間の方が圧倒的に有利に動ける。

 その利点を活かしきって、真っ直ぐ飛んでくる鳥をしゃがんで避けつつ、その無防備な背に思いきり短剣を突き刺した。


『ッッグエェ!』


 ずぶり、とその肉体を半ばまで貫いた短剣を引き抜くと、鳥は明らかに勢いを失速させて床に叩きつけられる。

 そのままピクピクと痙攣する魔物の横側を通り越して、ユキノがゆっくりと廊下を渡った。

 廊下は舞い散った鳥の羽や、乗客の落とし物などが散乱していて、気をつけないとすぐ何かに足を取られそうになるのだ。


「兄さま、お見事です! ユキノは思わず見惚れてしまいました」


 実際につい数秒前まで手を組んで目をきらきら輝かせていたのがユキノである。俺は苦笑した。


「あんまり持ち上げないでくれ。でも多分……もう一つ、反則技みたいなのも使えると思う」

「反則技、ですか?」


 俺は頷く。

 今回はユキノがすぐ後ろに居たこともあり、その方法は試せなかったが。


「この魔物たち、誰かに使役されてるわけじゃない。タカヤマたちのリミテッドスキルによって操られてるわけではないんだ」

「あ……」


 同じ思考に辿り着いたらしいユキノが「なるほど」というようにしきりに頷く。


「反撃の一手、ですね」


 そう――俺の予想が正しければ、まさしくその一手は労せずして打てるはずなのだ。

 俺は妹に微笑んで、それからすぐ目の前の扉へと向き合った。


 乗客のほとんどは食堂に避難したか、あるいはデッキにて魔物と交戦中なのだろう。

 ほとんど誰ともすれ違うことはなく、俺とユキノは操舵室に到着していたのである。


 ドアに耳を当てて確かめてみるが、厚いドア越しでは物音の類は聞き取れない。

 やはり直接、操舵室に入って状況を確認する他なさそうだ。


「何があるか分からない。ユキノは俺の後ろに居てくれ」

「はい、兄さま」


 ユキノが俺の背に隠れたのを確認してから、俺は一息にドアを押し開けた。



 +     +     +



 ――あー、だいぶ疲れてきたなぁ。


「光よ。えっとぉ、今こそ荘厳なる祝福を。万来の導きを以て、彼の者らの傷を癒してねぇ……《全体回復(リザレクション)》~」


 ネムノキが唱えると、戦う冒険者たち全員の足元を覆うほどの黄金色の魔方陣が床面に浮かび上がる。

 そこから、大地が命を芽吹かせるように光の輪が広がり、傷ついた人々の身体を傷を治し、回復させていく。

 凄まじい奇跡の光景だったが、それを巻き起こしている本人はといえば、ぜえぜえと肩で息をしている最中だったりする。


「あんな適当な詠唱なのに回復量がえげつなくて逆に腹立つな」

「……文句言うなら入らなくていいからねぇ」


 二つのパーティ、その内の一つに当たるパーティリーダーの男が軽口を叩いてくる。

 実際にこの詠唱、かなり疲れるので正直これ以上使いたくはない。これでもう三連続だ。

 本当は《小回復(エイド)》とか《中回復(ヒール)》とかの、使い勝手の良い回復魔法を覚えていたい。しかしネムノキが使える回復魔法は《全体回復(リザレクション)》と《大回復(キュア)》のみなので、致し方ない。


 魔法とは、キ・ルメラに住まう人々が使うことのできる奇跡のような力だ。

 でも、決して無尽蔵ではない。ゲーム画面のように分かりやすくMPとかで表現されたりはしないが、魔法の連続行使は身体に負担がかかる。何度でも連続で使えるわけではない。


 しかしデッキでの戦いの様子はといえば、ネムノキの希望とは異なりこちらが押され気味だった。


 タカヤマたちは大型の鳥に乗ったままで、積極的に攻撃を仕掛けてはこない。高みの見物って感じだ。

 しかしその配下の鳥たちは先ほどからギャーギャー鳴きながら降下してきては、こちらをくちばしや鋭い爪で襲ってくる。とにかく数が多いどころか、どんどん増えているような状況で、何羽か倒してもすぐにそれ以上の数が補充されてしまうのだ。


 《全体回復(リザレクション)》のおかげでそれこそ致命的な怪我人は出ていないが、それもいつまで保つか微妙なところだ。

 誰かが役割をサボれば、たぶんすぐにでも戦線は崩れる。


 あーあ……、とまたネムノキは溜息を吐く。


 シュウちゃんに頼まれたからには頑張って良いとこ見せよぉ。それで褒めてもらお~。

 ……と思って、意気込んでデッキに舞い戻ってきたというのに、こんなに重要なことを失念していたとは。


「ここで頑張っても、別にシュウちゃんには見てもらえないじゃんねぇ……」

「おーい! 頼むよお前、回復魔法使ってくれー!」


 またおねだりをされて、ネムノキはさらに深い溜息を吐く。

 ついでにネムノキを狙って降りてきた鳥を、手にしたままのキャンバスをブン投げて追い払った。いい加減重かったし。


「たすけてえ、たすけてえ~!」

「ン……?」


 聞き間違いかと思ったが、頭上から記憶の片隅に覚えのある声が降ってくる。


「あー……」


 何だっけアレ。

 ……そうだ、確か、シュウの近くでコロコロしてた金色の小さな物体。彼はコナツとか呼んでいたハズ。

 そのコナツがなぜか、鳥の足に掴まれてきゃーきゃー言いながら船の上を大きな楕円を描いて旋回していた。


 一応確認してみるとタカヤマたちもちょっと困った顔をしている。

 ということは恐らく、


「……新手の遊び?」

「絶対違うだろ! 助けてって叫んでるし!」


 首をのほほんと傾けるネムノキに、弓使いの低身長の男が喚く。

 そうなのか。つまりあのコナツはピンチってことらしい。

 そのとき、ネムノキの頭にひとつの名案が閃いた。


「……あのちっこいのを助ければ、シュウちゃんもボクに感謝しちゃうかも!」

「よくわからんが早く助けてやれ!」


 言われるまでもない。「おーい」とネムノキは空中のコナツに向かって手を振った。


「あ、なんかきもちわるいひと!」


 意外に余裕なのか、コナツはこちらを指で指して叫んでいる。誰かと勘違いしているようだ。


「受け止めてみるから、降りてきてくれないー?」


 口の横に手を当ててがんばって自分なりの大声を出してみる。

 コナツは「ええっ」と不安そうな声を上げた。


「きもちわるいひと、へなへなしてるのにこなつをきゃっちできるのー?」

「無理かもだけどぉー、それなりに頑張ってはみるからさぁー」

「いーやー!」


 何故か拒絶されてしまった。なんという我が儘な子どもだ。


「グルアッ」


 そんな遣り取りをしている内に、後方のデッキの出入り口から巨大な猫がやって来た。

 一瞬、新顔の魔物かと冒険者たちの間で緊張が高まるが、その猫のことならネムノキが知っている。


「あれ、ボクの親友のテイムモンスターだから気にしないでねぇ」

「はるとらだぁ! はるとらぁ、たすけて~!」


 こっちが丁寧に説明している間にコナツは勝手に猫のほうに助けを求めている。

 呼ばれた猫は空に浮かぶコナツの姿を確認してか、一所懸命になにかを鳴いた。


「ギニャ! ニャウニャウ」

「なぁに? はるとらなんていったのー?」

「『自分には無理ッス。ここはソラくんに任せたほうがアンパイ』って言ってるよぉ」

「うそだぁ~しんじないもん!」

「こいつらやる気あるのか……?」


 あまりに和気藹々とした雰囲気に耐えかねたのか、タカヤマがぼやく。

 それは恐らくタカヤマの背後に居るツチヤや、ネノヒもそうだったのだろう。 少なからず、毒気を抜かれてしまっていた。


「《魔物捕獲(テイム)》!」


 だからその場に居る誰もが。

 響いた声に、その先に続く言葉に対しても――反応が一段遅かった。


「女の子を抱える鳥の進路を邪魔して、船の近くまで追いやってくれ。それとお前たちは、あのデカい鳥を囲んでくれ! 攻撃はしなくていいから」


 声の主は、()()()に居た。


 デッキからはかなり離れている。

 場所はちょうど船の正面に位置するので、恐らくは操舵室のちょうど真上だろう――船の上に立って、こちらを一心に見つめている。


 一番早かったのはネムノキだろう。


「あ、シュウちゃんだぁ!」


 見上げる先。

 六羽もの羽ばたく魔物を従えたシュウが、そこに立っていた。




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