表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
第三章.刺客襲来編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/234

46.コナツちゃん、デビューならず

 

 昼食を済ませた後、俺たちはさっそくシュトルの冒険者ギルドに向かった。


 積荷を運搬するためのものか、いくつもの倉庫が建ち並んだ一角を抜けた先にギルドがあった。

 中は空いていて、冒険者の姿はまばらだ。そしてやはりというべきか、この街のギルドにもちゃっかりと喫茶スペースは用意されていた。


「こんにちは、ようこそシュトルのギルドに」


 良かった。またてっきりエンビさんが「おやおや」とか言って出てくるかと思ってた。

 初対面の受付(やはり執事)さんに用件を伝える。茶髪の優男風だ。


「この子の冒険者登録をしたいんだけど」

「かしこまりました。そちらのお嬢様のリブカードをお借りしたいのですが」


 俺は後ろで物珍しそうにきょろきょろしているコナツを振り返った。


「コナツ、リブカードは持ってる? こういうヤツなんだけど」


 胸に提げた二枚のカードをシャツの下から取り出して見せてみる。

 しかしコナツはふるふると首を横に振った。


「? こなつ、かーどもってないよ」


 え、そうなの?


「どこかにおいてある?」

「ううん。ずっともってないよ」


 コナツに嘘を言っている様子はない。たぶん本当に、カードのこと自体よく知らないのだ。

 俺とユキノはレツさん経由で王様からリブカードを配布されたので、あまり意識していなかったのだが……この世界の人間なら誰もが例外なくカードを所持している、というわけではないらしい。


「リブカードって、どこかで発行とかできたり……しないですかね?」


 前の世界でいう、いわゆるポイントカードみたいな感じで。

 とはさすがに言えなかったが、縋るような目で見ると、男性は顎に手を当てた。


「そうですね……出来ないわけではないんですが、この街では少し難しいかもしれません」

「と言うと?」

「リブカードは、生まれ月に教会に赤子を連れていくと司祭より賜ることができます。紛失した場合は、いくらか献金はかかるでしょうが再発行もできますし。しかし……シュトルの教会は、現在は封鎖されています」

「封鎖、ですか」


 男は神妙な顔で頷く。


「そうです。一週間ほど前のことですが……教会が何者かによって襲撃され、司祭は現在も行方不明になっているんです。

 ここだけの話ですが――いくつか、気になる目撃情報もありまして」


 男はそこで黙ってしまう。

 俺はいくらかの硬貨を男の手に載せた。

 情報にお金がかかるのは当然のことである。

 男はちらりと硬貨の色を確認してから小声で続ける。


「……何と、その不届き者の身体には、蝶の這うような痣があったとか」


 ――血蝶病!


 ぞく、と背筋が粟立つ。

 それが本当だとしたら――レツさんの睨んだ通り、マエノたちは今もこの街に潜伏している?


「教会が襲撃される、なんてかなりショッキングな事件だと思いますが……それにしてはこの街の皆さんは、あまり怯えた様子もないんですね」


 ユキノが淡々と言うと、受付の男は肩を竦める。


「彼らも港町の人間ですからね。襲撃者が怖いからって海に出るのはやめませんよ。それに街中では、()()だ、という声も少なからずありましたから」

「天罰……ですか」

「これ以上は、私からは」


 男はやんわりと首を振る。

 もうこの後は話す気はない、ということらしい。


 俺はどうにか他の情報を引き出せないものかと再度、口を開きかけたのだが。


「ん?」


 腰のあたりを誰かに引っ張られて振り返ってみる。

 コナツがうるうると潤んだ、不安そうな瞳で見上げてきていた。


「ねえ、こなつ、ぼうけんしゃになれないの……?」

「ああ、えっと」


 そうだった。

 コナツはもともと冒険者登録を行うのを楽しみにしていたのである。

 しかしここに来て、よくわからないカードのことを訊かれて、次は難しい顔をして周りが話し出してしまったので不安だったのだろう。


「大丈夫だよ、次の街なら問題なく登録できるだろうし。何なら近いうちにハルバンに帰ってもいいんだから」

「うん……」


 コナツのためにも、もっと早めに確認しておけば良かった。完全に凡ミスである。

 

 しかしこのままこの場に留まっても意味は薄そうなので、俺たちはギルドを出た。

 すぐさま提案してみる。


「一度、教会に行ってみよう」

「例の、襲撃された教会ですか?」


 ユキノの問いかけに頷きを返す。


「何かヒントとか、手がかりが残されてるかもしれない。早いほうがいいと思う」


 血蝶病に罹ったクラスメイトたちは、手段を選ばず今後も俺たちを狙ってくるだろう。

 それならば、こちらは積極的に情報を収集する必要がある。人数で完全に負けている以上、引いてばかりではいずれ追い詰められる。


 それにレツさんたち騎士も、この噂を嗅ぎつけて教会を調査している可能性もある。

 合流できれば、彼ら以上に信用に足る味方もそうはいないだろう。


 一瞬、エノモトが死に際に指差した――レツさんとユキノの顔が、頭に浮かんで消える。

 今、二人を疑う理由はない。あれも恐らく、エノモトが俺の判断を鈍らせるために仕掛けただけの罠なんだろう……。


「兄さまがそうされるなら、もちろんユキノはついていきます」


 ユキノは迷う素振りもなく俺の提案を肯定してくれた。

 こんな妹を疑う兄など、あっていいはずもない。俺は短く礼を述べた。


「ありがとう。コナツもいいかな?」

「うん。いいよー」


 よく分かってなさそうだったが、コナツもけろりとした顔でオーケーを出してくれた。


「ハルトラ、危機的な状況だと判断したときは巨大化してユキノたちを守ってくれ」

「ニャア」


 元気よく返事をするハルトラの頭を撫でる。

 ユキノやコナツも攻撃魔法を覚えてくれたのは非常にありがたいが、やはりハルトラの圧倒的な戦闘力は大きく頼りだ。


 いつ、どこから、敵の毒牙が狙ってきているか分からない。

 マエノたちのリミテッドスキルは手に入れたいが、同時にその得体の知れないスキルこそが、最も恐ろしい強敵のようにも思える。


 俺は街に入ったときよりも気を引き締め、短剣の柄にそっと手を置いた。



 +     +     +



 目的地はギルドのすぐ近くにあった。


「ありました。あそこですね」


 ユキノが白い指で指し示す先――辿り着いた教会には、まったく人気がなかった。

 こんなに賑やかな街だというのに、その一角にだけ、人の気配がしないのだ。


 見たところどこかが壊れたり、崩れたりしているというわけではないのに。

 不自然に静かで、その建物の周辺でだけ時間が止まってしまったかのように。

 まるで廃墟だった。ここは管理を放棄され、見捨てられた建物なのだ。


 しかし俺の認識には少しばかり誤りがあった。

 正確には、教会の玄関のあたりにぼぅっと佇んだ、亡霊のような少女がいたからだ。


「あの子は……?」


 歳の頃は、俺たちより少し上くらいだろうか。

 紫色の髪の毛を二つに縛り、耳の横にだらんと垂らしている。

 白いケープのような、裾の長い服を着て、胸には十字架のネックレスをつけていた。

 俺たちの存在にはまったく気づいていないらしく、どこか遠くを見るようにして、口を閉ざしたまま立ち尽くしている。


 目配せすると、すぐに意図を察したユキノが彼女に近づいていった。


「こんにちは」


 明るく挨拶された少女の肩が、びくりと震える。

 彼女が顔を上げるのを待ってから、ユキノは後ろ手に踏み込んだ。


「私、ユキノと申します。こちらは兄のシュウと、コナツ。それにハルトラです」


 てきぱきと俺たちの紹介を終えたユキノが、にっこりと柔らかく微笑みかける。

 少女の蒼白だった顔色が赤みを帯びた。ユキノの美貌には男女問わず虜にする魅了スキルでも備わっているのかもしれない。


「あ……わたし……エリーチェ、です」

「エリーチェさん、ですね。初めまして」

「は……初めまして……」


 俺はそう頭を下げた少女のことを、ユキノの少し後ろで見つめた。


 とにかく顔色の悪い女の子だ。

 よく見ると顔立ちは整っているものの、菫色の瞳の下にも大きな隈がくっきりと浮かんでいるので、如何せん体調が悪そうな印象を受ける。

 ユキノはまったく動じる素振りなく、不思議そうにこてんと首を傾げてみせた。


「エリーチェさんは、ここで何をされてらっしゃったのですか?」

「あ……えっと……」


 ユキノの質問に、エリーチェさんは眉を下げて悄然としてしまった。


「わたしの、お父さん……が、いなくなってしまって。何か、ここに来れば、わかるかもって」


 彼女の語りはゆっくりしているというか、緩慢としていてひどく聞きにくい。声も小さく掠れているので尚更だ。

 しかしその意味するところは明らかだった。俺は思わず一歩踏み出して彼女に問うた。


「エリーチェさんのお父さんは、もしかして――この教会の司祭?」

「は、はい……そう……」


 ビンゴ。

 さっそく重要人物の関係者と遭遇することができた。このチャンスは活かしたい。

 俺はおろおろと手を繰り返し揉んでいるその人に、なるべく穏やかな口調で話しかけた。


「俺たち、ハルバンから来たんです。ハルバン城の騎士に頼まれて、この事件の調査に来ました」

「え……騎士様に……?」


 一応、嘘ではない。本当のこととも言いにくいが。

 俺の言葉に、エリーチェさんのびくびくと怯えた態度も多少は和らいだようだった。「騎士」というワードの効果だろう。


「何でもいいんです、何か事件のことでご存知のことはありませんか?」


 父親が失踪した人間に対して、もしかしたら不躾な質問だったかもしれない。

 しかしエリーチェさんは特に気分を害した様子もなく、考え込むように頬に手を当てた。


「んっ、と……その、そう……ですね……」

「はい」

「これ、お母さんにも言ってない……ですけど」


 何度もごにょごにょ言い淀みながら、最終的に彼女はこう言った。


「わたし、犯人を見た……と、思います」


 ユキノと顔を見合わせる。

 ユキノはエリーチェさんには悟られぬよう俺に向かってゆっくり顎を引くと、落ち着いた声音で言い放った。


「もう少し詳しく、お話お聞かせ願えませんか?」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ