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兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
第三章.刺客襲来編

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45.お披露目会

本日から第3章に突入します。引き続きよろしくお願いいたします。



 まずはギルドでコナツの冒険者登録を行おう、と考えていたのだが。


 向かってみたところ、ハルバンのギルドは珍しく閉まっていた。

 貼り紙によると「新規事業開拓のため臨時休業します」とのことらしい。その言い回しに、自然と思い浮かんだのはエンビさんの笑みだった。またどこかしらか奔走しているのだろう。

 一度くらいはオトくんにも挨拶しておきたかったのだが……まぁ致し方ない。

 旅支度を済ませ、俺たちはさっそくハルバンを出発した。


 シュトルは、ライフィフ草原を越えた先にあるという大きな港町だ。

 必然的にそこに辿り着くには草原を通り抜ける必要がある。


 三人と一匹で出発すると、数十メートル進んだところで青スライムの群れに遭遇した。

 いつも通り俺は前に出て対処しようとする。しかしその日は、いつもと違った。


「この程度の魔物、兄さまのお手を患わせるまでもありません」


 踏みだそうとした俺より先に、ユキノが前に出たのである。

 先ほど宿屋で言っていた「ばばーんとお披露目」のとき、ということだろうか。

 しかし初めてのクエストをこなすとき――青スライムにぽよぽよ弾かれ涙目になっていたユキノの姿は今でもよく覚えている。

 さすがに「じゃあよろしく」と気軽に頼むことはできず、俺は両手を口の横に当てて後ろから呼びかけた。


「ユキノ~……転ばないよう気をつけてね……」

「ご心配なく兄さまっ! ユキノ、そう簡単に転んだりはしませんからっ」


 そうだろうか。ふつうに心配。

 なんか初めて三輪車に乗るわが子を見守るような気分……。

 何かあったときのためにすぐに駆け寄れるようにしよう――と腰の短剣に手を伸ばした、その瞬間。


「光よ、走れ――《光源流(ライトニング)》ッ!」


 シャラン、とユキノが手にした杖を慣らす。

 杖の先端についた二つの大きな鈴から、バチバチッ! と音を立て、雷のようなものが鋭く放たれた。


 あっという間の出来事だった。

 前方に広がっていた青スライムの群れ――その過半数が消失している。

 間違いない。ユキノの魔法を喰らって、跡形もなく消し飛んだのだ。


 俺はユキノと抉れた地面とを何度か交互に見比べた。

 そして感激のあまり、ユキノのすぐ傍に近寄ってしまった。


「すごい。すごいよユキノ!」

「えっ」

「今の魔法。前にオトくんが言ってた《光源流(ライトニング)》だよね? いつのまにマスターしてたなんて!」

「そ、そうなんです。実は」

「しかも威力も抜群だし、かなり広範囲を攻撃できる魔法だったよね! 敵の数が多いときとか、すごく頼りになると思う」

「え、えあ……」


 ただ素直な感想を伝えただけなのに、ユキノは真っ赤な顔で黙り込んでしまった。

 あれ? どうしたの? と聞く前に、横合いからぴょんぴょんコナツが飛び出してくる。


「おねーちゃんばっかずるーい! こなつだっておにーちゃんにいーとこみてもらいたいんだけどっ」

「コナツも何か魔法を覚えたの?」


 俺は思わずわくわくした顔で聞いた。

 前に《分析眼(アナリシス)》で視た際は、確か《小回復(エイド)》しか覚えてなかった気がするけど。

 コナツは俺の問いかけにえへん、と自慢げに胸を張る。


「そうでーす! いまからやるから、ちゃんとみててね?」


 ちなみに先ほど衣裳屋で服装を見繕ったコナツの格好は、紺色を基調としたマリン服のようなワンピース。

 ユキノと同様、というより肩も脚も出てしまっているのでさらに防御力の面では劣りそうなのだが……本人が気に入っているようなので良しとしよう。それにかわいいのは事実だし。


 コナツが必要ないと言い張るので、特に彼女には武器や防具は買い与えていない。

 そのため、俺はまだコナツは攻撃魔法の類は習得していないと思っていた。のだが――


「かぜよ、きりさいちゃえ! 《ういんどらんす》!」


 両手を空に掲げた彼女を中心として、突如と風が巻き起こる。


 風魔法の《風刃(ウインドランス)》!


 光魔法だけでなく、コナツは風魔法が使いこなせるのか。

 驚く合間にも、巻き起こった風の渦のようなものを、コナツは勢いよく残りのスライムたちに向かって叩きつける。

 スライムの液状の体が次々と風の刃で切り裂かれていく。俺はその光景にひたすら見入ってしまった。


「どう? どう? こなつもすごいでしょ?」


 残っていたスライムを全て倒してみせたコナツが、褒めてとばかりに寄ってくる。

 俺は思わずその小さな頭に手を伸ばし、ゆっくりと撫でてやった。ふわふわの金髪は弾力があり、手の平に心地よい。


「二人とも頑張って特訓したんだな。偉い偉い」

「えへへー。それほどでも?」

「兄さまにお褒めいただき、恐悦至極です……」


 ユキノは未だ何かのショックを受けているのか、俺とコナツが接触しても特に気づいていない様子である。

 しかし「どこまで気づかないかな」なんて試すほど俺も馬鹿ではない。手を離すと、コナツはちょっぴり不満そうだったが、すぐに「はるとら、こなつすごいでしょー?」とハルトラの方に向かっていった。子どもの興味は移り変わりがはやいのだ。


「あの、兄さまはレツさんとどのような特訓をされていたのですか?」

「ああ。俺の場合、誰かのリミテッドスキルを奪わないと新しい魔法は手に入らないんだけど」


 少し復活した様子のユキノが、興味津々の表情で尋ねてくる。

 彼女たちの華々しい活躍っぷりに比べれば、俺の成長というのは若干地味めかもなのだが――それでも、レツさんとの特訓にユキノが興味を示してくれるのは純粋に嬉しいことだ。


 俺は腰に挿した短剣を手に取り、何度か手の中で弄びながら、


「その代わり、アクティブスキルの種類や練度はだいぶ鍛えられたよ。そうだな、例えば――」


 目につくスライムはすべて二人が倒してくれたので、めぼしい標的が見つからない。

 そこで俺の目に止まったのは、コナツの《風刃(ウインドランス)》がスライムごと裂いていた地面の土だった。

 一箇所が抉れて、穴が開いたみたいになっているのだ。


 俺はその穴目掛けて、左手の人差し指と中指の間に挟んだ短剣を――鋭く放った。

 狙いから一切のズレなく、穴にすっぽりと嵌まる形で短剣が地面に突き立つ。

 一挙手一投足を見守っていたユキノが目を輝かせた。


「投擲ですね!」

「そうそう。"小剣上級"のおかげで、当たりやすくなったんだ」


 試したわけではないが、今なら百発百中くらいいけそうだ。完全に気分的に、なんだけど。


「私も、実は特訓中にナイフ使いのおじさんに会ったんです」

「ナイフ使いのおじさん?」


 初耳だった。そんな人と会っていたのか。


「ええ。酒臭くてヒゲが濃くてぐうたらしたどうしようもないおじさんだったのですが、投擲の技術だけは優れていたんです」


 うわ、ぼろくそ言ってる。

 しかしそれでもユキノが一言褒めたということは、本当に大した実力者なのだろう。


「へえ、俺もちょっと会ってみたいな」

「根無し草のようでしたので、こうして草原を進んでいれば遭遇するやもしれませんね」


 とユキノは何だか嫌そうな顔で言っていたのだが、結局そのナイフ使いのおじさんには道中出くわすことはなかった。

 休憩を挟みながら平原を進み続け、俺たちは数時間後――シュトルに辿り着いていた。


 港町シュトル。

 ハルバンには劣るものの、港町なだけあり盛況なところで、人と物資とが行き交っている。

 大通りを歩く活気に満ちあふれた人々の様子を見回してみるが、先行したレツさんたち、それに元クラスメイトの姿も見当たらない。念入りに探す必要がありそうだ。


「おにーちゃん、こなつおなかすいたー」


 コナツがお腹を抑えて空腹を訴えてくる。


「アンナさんの言っていた串揚げ、ちょっと気になるよね」

「そうですね……でも串揚げなら夕食の方が良いでしょうか?」


 確かに。俺たちの世界の串揚げと同じタイプの食べ物であるなら、けっこう胃にもたれそうだ。


「兄さま、あそこに大衆食堂のようなものが見えます」


 ユキノが指し示す方向を見てみる。

 モルモイの小料理屋「とと屋」に比べると、三倍ほどに大きな店だ。

 昼時で混んでいるようだが、席数も多いので回転ははやいだろう。


「わかった、ならあそこで昼食だ。その後はシュトルのギルドで、コナツの冒険者登録も済まそう」

「承知しました」

「いいから、ごはんー」


 いよいよ空腹が限界を超えてきたのか、コナツがぶーぶーと唇を尖らせていた。はいはい、ただいま。

 



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