表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
最終章.兄妹の反逆編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/234

208.鳴海周2

 

「何ボソボソ言ってやがんだ? おい」


 突き飛ばされ、僕は数歩ふらついたが、真っ直ぐイシジマを睨みつける。

 イシジマはニヤけ笑いを浮かべつつ、そんな僕の眼前に何かを突きつけてきた。


 ――リブカード。


 この世界での自身のステータスが可視化されたカード。習得しているスキルや魔法は、このカードで確認することができるという。

 イシジマのそれは白いカードだった。奇しくも僕と同じ、無属性魔法の使い手ということか。

 その、宙に浮かび上がる青い文字列を目で追って――僕は目を見開いた。


「……"絶大災害(カタストロフィ)"……?」

「そうだ。どんなスキルか分かるか?」


 口の端を歪めるイシジマ。僕はただ黙って、そのカードを見つめ続ける。


「台風でも大津波でも、その地形に見合った大災害を望んで引き起こせるスキル――だってよ。わりと最強クラスなんじゃね? これ」

「やっぱイシさんは流石だよな」


 両脇を固めるカワムラとハラも自慢げに肩を竦める。彼らの図体で、イシジマのカードの内容はうまく隠されているようだ。

 それに彼らの話し声も、遠巻きに僕たちの様子を見守るクラスメイトたちには聞こえない程度の声量に調整されていた。イシジマも、他のクラスメイトたちに自分の切り札を知られるのは、得策ではないと気づいているのだろう。


 ……いや、そんなことはどうでも良くて。


 ――何だそれ。


 この世界でならイシジマ相手にも戦える。

 そんな風に思い込んだ数分前の自分が馬鹿みたいだった。

 僕のスキルは――そうだ、冷静になって考えてみれば、まるっきり実用性には欠けている。

 それは1回限りの奇跡を起こす類のスキルだ。とてもじゃないが、イシジマに対抗できる要素が思いつかない……。


「兄さん」


 硬直していた僕の腕を。

 そのとき、後ろから歩み寄ってきたユキノががっしりと掴んだ。


「な……!」


 文句を言う暇もなかった。

 ユキノの力が、思いがけず強かったのもある。

 そのまま僕は、ユキノに引きずられるようにして礼拝堂を出たのだった。



 +     +     +



 礼拝堂から出てもユキノは立ち止まらず、迷いない足取りで長い廊下を突き進んでいった。

 そのまま、どうやら城――らしい建物の玄関口から外へと出る。

 映画で観るような中世ヨーロッパめいた街並みが眼下に広がっていて、月明かりに照らされたその光景に気を取られるのも束の間、さらにユキノに腕を引っ張られる。

 僕はそこで、我に返った。


「おい、何のつもりだよ」


 腕を力任せに振りほどく。

 振り返ったユキノは、やはり見馴れた、臆病な少女の顔をしていた。

 そこでようやく、僕は先ほどまで自分にひっついていた手が震えていたのにも気づいたのだが、言及する間もなくユキノが言い放った。


「兄さん、私と組んでください」

「……は……?」


 何の話だ?

 呆気にとられる僕に、ユキノは必死に言い募る。


「元の世界では私たちは既に死んでいて、これからはこの世界で生きていかなくちゃならないんですよね。それなら私は、兄さんと一緒に居たいんです。どうか私と、パーティを組んでください」


 それから頭まで下げられ、僕はしばし呆然とした。

 いつも――僕には、コイツのことがよく分からない。

 面白半分で暴力を振るってくるイシジマや、クラスメイトへのアピールとして親切なフリをするマエノ。

 そんな奴らよりよっぽど、ユキノという女は、おかしい。

 コイツの青い目には――僕の姿は、いったいどんな姿で映っているんだ?


「……お前が、何を期待してるのか知らないけど」


 頭を振って、溜息を吐く。

 頭の芯が痛んで、また頭痛だ、と嫌になってくる。明日は雨なのかも知れない。それも、どうでも良いことだけど。


「僕と組んで何になる? 僕のリミテッドスキルが何なのか分かってるのか?

 僕のスキルは"再興再証(リバース)"――効果は()()()()。たったそれだけなんだぞ?」

「勝てます」

「……はぁ?」

「勝てます。私と組めば、兄さんは誰にだって負けません」


 ユキノはどこまでも真剣だった。

 そして彼女が真剣であればあるほど、僕の感情はスゥと冷めていくようになる。

 黙って身を翻そうとした僕の動きを、ユキノが止めた。


「信じられないのであれば、私のリブカードを見てください」


 ユキノが差し出してきたのは、恐ろしいほど暗い闇に包まれた一枚のカードだった。

 何か、手に取ることさえ躊躇うほどの不気味さを醸している。

 僕は戸惑ったものの、その戸惑いを悟られたくはなくて、引ったくるようにしてその手からカードを奪った。

 そうして、浮き出る文字を見つめる。


「"狂気監獄(プリズン)"……」

「スキル効果は、切断と束縛です」


 分かりやすく言うなら――とユキノはさらに続ける。


「対象を狭い空間に縫い止めて、固定する。そのままその空間に閉じ込めることもできます」

「……箱、みたいな感じか?」


 僕が興味を示したのに気づいてか、ユキノがこくこく頷く。


「そうです。小さな箱に閉じ込めるのです。自力で出られず足掻く相手を、一方的にめった刺しにだって、できると思います」


 イシジマのスキルを知ったときよりも強い衝撃が、脳天から爪先までもを貫いていた。

 他のヤツのスキルが分からない以上、まだ何とも言えないが……それはかなり、強力なスキルなんじゃないか?


「……例えば、だけど」

「はい」

「相手の一部を拘束することはできるか? 手足だけ、頭部だけ、肩口だけ……とか」


 ユキノは数秒考えて、こくりと頷く。


「まだ試してはいませんが――できると思います」

「その空間内に居る間は、相手は自由に動けない?」

「そうです。文字通り()()しますので。一部を拘束した場合、その部位だけは動かすことができなくなるかと。……試してみますか?」

「いや、いい。……それなら」


 それなら、イシジマを相手にするとして。

 ヤツが自分のスキルを使う前に、口元を含む部位をユキノに捕捉させてしまえば、もうそれでこちらの勝ちは決まりだ。

 考えるとニヤつきが止まらなくなってくる。僕は意気込んでユキノに訊いた。


「大人数相手に同時に使うことはできるか?」


 次はユキノは申し訳なさそうに首を左右に振る。


「そうか。……でも充分だ」

「兄さん?」


 ユキノはまた、うろうろと不安そうな顔つきになっている。

 そんな義妹に向かって、僕は言い放った。


「いいよ。僕と組もう、ユキノ」

「本当ですか……!?」

「ああ。でもひとつだけ訊きたい」


 本当は、礼拝堂から連れ出される前に訊きたかったことだ。


「お前と組めば、確かに僕は負けないかもしれないな。でも、お前のメリットは何だ?」

「メリット、ですか?」

「そうだ。僕のスキルはお前のスキルと相性が良いってわけでもないよな。今頃クラスの奴らはパーティ分けの話なんかもしてそうだし。奴らに混ざって、より強そうな人間を見つけた方がお前にとってよっぽど――」

「えっと……よく、分からないです」


 ユキノはすっかり困った顔をしていた。

 ならもう良い、とさっさと話を切り上げようとしたが、


「だって、私にとって兄さんはひとりですから」


 そう言われ――息を呑む。

 じっと、ユキノの表情を見つめる。観察する。

 しかし仄かに微笑んでさえいる綺麗な顔には、嘘や偽りは何一つなくて。


 海は広くて空は青いとか。

 太陽は東から出て西に沈むとか。

 砂糖は甘くて、塩はしょっぱいだとか。

 なんだかユキノはそれらと同じく至極当たり前みたいに言った。


「妹は兄と居るものですよね」


 次の日は予想通り、朝から雨が降った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アルファとベータのシュウ君の違いはソラ君と会ったか会わないかの違いですかね(-ω- ?)次回もドロドロ劇楽しみに待ってます(≧∇≦)b
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ