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兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
番外編Ⅱ

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番外編4.アサクラ日記1


本日から番外編Ⅱに入ります。全部で3ストーリーの予定です。



 あー……。

 ……何から書こうかな。


 とりあえずペンをにぎってみたはいいけど、まだ思いついてないや。

 おれ、もともと日記とか作文とか苦手で、しょっちゅうコウスケが書いたのパクったりして、先生にバレて怒られたりとかしてたし。

 だから今も、こんなの意味あんのかな? ってちょっと悩んでるんだけど、でも、書いてみることにする。


 っていうのも、もう、ナルミやウッチャンや、姫さん……ユキノちゃんにも、会えないかもしれないし。

 おれが死んだ後に、ナルミたちがこのエルフの国にやって来る可能性も結構あるらしいって、聞いたからさ。……それは嫌だけど、でも、いざ、そうなったときのためにこれを書いてみる。


 結局、何から書こうかな? 読みにくかったらごめん。

 ……うん。思ってることを率直に、つづってみようと思うよ。


 ナルミが知りたいのは、きっとこの2年間のことだとは思うけど。

 でも、まずは、あの話――アカイのことだ。

 赤井夢子(アカイユメコ)の話をさせてくれ。おれが好きだった彼女の話を、少しだけさせてほしい。


 ナルミは知っちゃっただろうけど、おれ、前にアカイにフラれてるんだよね。

 中2の頃。季節は夏で、学校の帰り道だった。

 あの頃のアカイは髪が長くて、ポニーテールにしてて、それが右に左に揺れる動きが、おれは好きだったんだ。

 で、「暑いね」ってアカイが振り向いたときにその髪の毛がさらっと靡いて、汗で濡れた首筋にぴたってくっついたんだ。

 なんでか自分でもよくわかんないんだけど、そのときおれは「好きだ」ってぽろっと言ってたんだ。まぁ、ソッコーで振られたけど。


 アカイはコウスケのことが好きだった。それはおれ、最初からわかってたんだ。


 もともと、アカイはさ、ずけずけと物を言う子だったから……同性の友だちが全然いなかった。

 おれとコウスケは保育園からずっと一緒でさ。コウスケは面倒見の良いヤツで、出席番号が近いアカイにあいつが最初に声を掛けたんだ。

 かわいそうだから、って感じじゃなくて、一緒に弁当食う? 机近いし? みたいな。

 そういう自然な感じで、誰かに手を差し出せるのがコウスケの良いところで、アカイが惚れるのも正直納得だった。おれはそうやって、自分から積極的に動けないヤツだったから、コウスケはすげぇなって思ってたんだ。


 それから何となく3人でつるむようになって、だけど、アカイはやっぱり寂しかったんだと思う。

 当然、おれとコウスケは男子で、アカイは女子だったから。体育の時間とか、どうしても別行動になるとき、アカイはいつも1人でぽつんと立ってた。


 誰かと組まないといけないときは、同じく余ってたユキノちゃんとよく組んでたみたいだ。

 おれはバクゼンと、ユキノちゃんも友だち少ないみたいだし、2人が仲良くなれればいいなぁとか思ってたけど、まったくそんな感じにはならなかった。

 ユキノちゃんはアカイと居ると愛想笑いしかしなかったし、アカイはもっと最悪だ。ずっとフキゲンそうに顔を歪ませてた。感じ悪すぎだった。

 ありゃあ無理だ、とおれはよく頭を抱えて、2人のことを見てたんだ。(ユキノちゃん、これ見て怒ってたらめっちゃゴメン)


「あたし別に、アラタがいればいいし。あとついでにアサクラが」


 というのがアカイの口ぐせだった。うん、これを捻くれてて失礼でかわいい、と認識してた時点で完全におれの負けです。


 ――アカイのことはぜんぜん語り足りないけど、一度、現在のことに話を戻そう。


 その後、おれたちは修学旅行に行くバスの中で死んじゃったとかで、異世界にやって来たんだよな。

 でもここに来て、おれにとって最大の誤算だったのは、まず、コウスケが死んでしまったことだった。


 血蝶病になっちゃったクラスメイトの傍は危ないってカンロジさんがみんなをまとめて、おれとコウスケとアカイは、彼女と一緒にハルバニア城から逃げたんだ。

 でもシュトルという街で、カンロジさんは「お疲れ様でした」とか言って、さっさとどっかに行っちゃったんだよ。置いてかれたおれはボーゼンとしたけど、やっぱりそこでもコウスケが引っ張ってくれて、何人かでフィアトムに向かう船に乗ったんだ。


 フィアトム城にやって来て、王様はおれたちを保護する代わりに自分を助けてくれって言ってきて、おれたちは言われるがままに働いたよ。

 ヤガサキさんが……つまり、カンロジさんが、そういう方向に議論を進めてたっていうのもあるんだと思う。いつの間にか、そういうことになっていたんだ。


 アカイはリミテッドスキルを使いたがらなかったし、おれのはご存知、戦闘には不向きな目覚まし時計ってことで、おれたち3人の中でまともに戦えるのはコウスケだけだったんだ。

 でもそこでも危険なことばっかりだった。あるとき、大量の魔物に追われて、もう、どうしようもなく追い詰められて、3人で逃げまどってたとき……横を走ってたコウスケが突然言ったんだ。


「ここは俺が食い止めるから先に行け!」


 そう、ネタかと思われるかもしれんけど、マジでそう言ったんだ。ハッキリこの耳で聞いた。

 おれはね、やっぱり、コウスケってすげぇ!って思った。アニメかゲームの世界みたいだった。

 でもそれをさ、アイツ、堂々と言ってのけるんだよ。さも当然みたいに言うんだよ。ヒーローだった。コウスケはすごく、すごく、格好良かった。本当に。


 おれは泣いて嫌がるアカイを無理やり連れてその場から逃げ出した。

 次の日、様子を見に行ったら、コウスケはもうそこに居なかった。おれは口に出して言わなかったけど、魔物に喰われて死んじまったんだ、って思ったし……きっとアカイも、それに気づいたんだろう。


 それからアカイは、今まで以上に笑わなくなった。

 それに他人への態度も、露骨に悪くなった。まるであの、三年二組の女王サマ・ホガミアスカだ、とおれは何度思ったことか分からない。

 ホガミを参考にして、より悪くて嫌な子を演じてるみたいな、そんな印象を受けてた。でもどうすることもできなかったよ。


 いつか、アカイがぽろっと零した言葉をおれは思い出した。


「コウスケ、年上の人と付き合ってるんだってね。どうしてあたしじゃなかったんだろう。ねぇ、理由わかる?」


 そんなことを自分が振った相手に言ってのけるのが、アカイの恐ろしいところでもあるし、おれの好きなところでもあるんだ。

 他の人にはわからないかもしれないけど、おれは、本当に、そんな不器用で身勝手な彼女のことが心底好きでたまらなかったんだよ。


 ……………………でも。


 傷ついたアカイを置いて、おれは、フィアトム城から逃げてしまった。

 実際はその場に残るつもりだった。だけどアカイは無駄死にを許さなかったんだな。

 アカイの手に突き飛ばされた瞬間、そう悟った。アカイはおれよりもずっと強い女の子だったんだって。

 おれの友人は、2人とも、格好良かった。自分が情けなくて、仕方なかったよ。

 どうして自分が生き残ってるのかわからないんだ。あの3人の中で最初に死ぬのは、弱くて格好悪いおれであるはずだろうって、今でも思うんだ。

 こんなことを書くだけで、涙が出てきて、手が……どうしようもなく震えるくらい、おれは強い人間じゃなかったから。


 コナツちゃんが召喚してくれたっていう扉の先には、知らない世界が広がってた。

 どこ見ても大自然で、ジャングルかよって感じで、困った。落ち込んで、悲しむヒマさえないんだって気づかされた。

 何せ呼びかけてもナルミも誰もいないし。それどころか人の気配もしないし。これはまずいんじゃないかって思い始めた矢先、イソギンチャクみたいな形の魔物に襲われて、這々の体でその場を逃げ出した。


 三日三晩、追いかけっこをしていたと思う。


 今思い出そうとしても、頭にもやがかかったみたいになって、実はよく覚えてない。

 それくらいキツい記憶だったんだろう。森を巡回してたリセイナ姐さんが発見してくれなければ、おれはそのままボロボロで樹海の中を彷徨って、死んでたかもしれない。

 何せ身体が穴ぼこになっていたんだ。追われて、溶かされたり、刺されたりするうちに傷を負ってた。だから、死んでたかもっていうか、姐さんがいなかったら間違いなく死んでたよ。


 おれは姐さんに救助されて、すぐにエルフの村に連れていかれることになった。

 集落があるって聞いて、正直、期待した。姐さんはナルミたちのことを知らないと言ったけど、おれは何となく、彼女が嘘を言っているように思えたんだ。

 ナルミだけじゃない。もしかしたらアカイだって、って思いもあった。あのままナルミと一緒に扉を渡って、ここに居るのかもって。


 死にかけながら村に運び込まれたとき、そこで、ものすごくきれいな女の子が息せき切って駆け寄ってきた。

 そしてぎゅっと抱きつかれたんだ。無我夢中で。おれはあまりの出来事に、びびりすぎて、そのまま固まってたけど。だって女性に抱きつかれるのなんて、小さい頃に母親にハグされて以来だぜ?


 ユキノちゃんなんかは、クラスどころか学年、いや地区、いやいや全国屈指の美少女だ、なんてよく騒がれていたが、その子も負けないくらいきれいで可愛い子だった。

 おれも男だから、何というか、悪い気はしなかった。知り合いかもわからんけど、どうやらおれの無事を知って泣いているらしいその子に、ちょっとした好意を覚えていたくらいだ。

 でも気になる点があった。


「おにーちゃん。しゅうおにーちゃん。あたし、ずっと、待ってた……おにーちゃん、……おそすぎだよ、おにーちゃん」


 同じような言葉を口にして、ぽろぽろ涙の粒を落とすその子は、よく見たらコナツちゃんだった。年上に見えたけど、確かに面影があったんだ。

 そして明らかに、ナルミの名前を連呼していた。鈍いおれもそこでようやく気づいたんだ。

 ああ、コナツちゃん、おれとナルミを見間違えているぞ……と。


 おれたちそれなりに、背格好は近かったしね。

 おれの身なりはかなりボロボロで、身体も自由に動かせずにぐったり横たわっていたわけだから、コナツちゃんは間違えてしまったんだろう。

 あとさ。これはずっと言おうと思ってたんだけど、おれの下の名前は「ユウ」でナルミは「シュウ」じゃん?

 つまり、2人合わせて「優秀」ってことだよね。スゴくね? ……ああごめん、これはマジでただの無駄話。


「おれ、ナルミじゃなくてアサクラだよ、コナツちゃん」


 このまま騙してるみたいになるのが忍びなくて、おれは恐る恐るとそう名乗った。 

 反応は劇的だった。その子は数秒後には飛び退いて、おれの顔をまじまじと見つめて、呆然とした顔をした。

 今でもあの、希望が丸ごと絶望に変わっていって、虚ろに変貌していく……表情を、しょっちゅう思い出す。

 おれは申し訳なくって、ひたすら謝ることしかできなかった。




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