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兄妹転生 ~チートだからって調子に乗らず、クラスメイトは1人ずつ私刑に処します~  作者: 榛名丼
第六章.兄妹の決別編

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139.お久しぶりです

 

 俺たちはそのまま、扉の中へと入っていった。

 一瞬とも、永遠ともつかない時間がその一歩に凝縮される。


 そして次に足を踏み出し、辿り着いたのは――


「…………ここが、スプー?」


 ――そのはずだ、と思う。

 リセイナさんも認めていたように、コナツの魔法に失敗はなかったはずだ。


 でも、俺が知っているスプーとは随分違う。

 周りを警戒するように見回していたナガレが、静かな口調で問うてきた。


「シュウは、ここに来たことがあるんだよね?」

「ああ。ザウハク洞窟でマエノたちに襲われた後、しばらく身を隠してたのがスプーだったんだ。でも……」


 確かに、俺たちが居候させてもらってた頃から、スプーは裕福とは言い難い村だった。

 作物の実りは少なく、その日収穫できた野菜や乳製品を、近所で分け合って食べるような所だったのだ。

 でも人々が身を寄せ合って暮らす、温かみのある村だ。


 それが今、目の前に広がるものは。


 家屋は潰され拉げて、まともに建っている建築物はほぼ無いと言っていい。

 小さな村には瓦礫が散乱していて、もはや跡地と呼んだほうが差し支えないのではないか、と恐ろしくなる。


 まるで巨人が両足を無造作に踏み出して荒らし回ったかのような光景だ。

 秋の涼やかな風が、ただ土埃を立てて通り過ぎていく。あまりに物悲しく、胸が締めつけられた。

 目を凝らす限り、家と共に潰されてしまった人はいないようには見えるが……それにしても人の気配がない。みんな避難しているのだろうか?


 そんな変わり果ててしまった村のすぐ近くに、俺たちは立っていた。


「……魔物の暴れた跡だ。すでに村は崩壊してしまったのだな」


 俺にとっては左手に立つリセイナさんが、隠せない哀切の滲む声で言う。

 その隣にはアサクラと、ユキノも居る。ホガミだけは少し距離を置いて、ぼんやりとした顔で壊された村を見つめていた。


「ここで呆けていても仕方がない。まず騎士団の連中に合流するぞ」


 冷たく言い放つのは、俺たちの未練を一度ここで切るためだろう。

 リセイナさんの言葉に俺は頷きかけて、しかしそこで立ち止まる。


「え? 騎士団と合流……するんですか?」

「当然だ。我々は超大型モンスターの討伐に来ているのだから」


 リセイナさんはわざと、「討伐」という単語を再度使ったようだ。

 今度は、ホガミはその言葉を訂正しようとはしなかった。


「飛び入り参加というわけにはいかないだろう。騎士団の連中が数日間かけてモンスターを弱体化している。彼らには敬意を払って行動すべきだ」

「なるほど……」


 リセイナさんの言うことはもっともだ。何やかんや、彼女はこの異世界に来て出会った人の中でも数少ない常識人の1人である。

 そのすらっと長い足を向ける南東の方角を確かめれば、数百メートルほど離れた場所に野営のテント群を発見した。その数は一〇個ほどだ。

 何人か、近辺には騎士の姿も見える。明日にモンスター討伐の任務を控えているからか、忙しなく歩き回る人が多いようだ。


 だけど騎士団というからには……やはり、俺の頭に思い浮かぶのは、赤髪の騎士の背中だった。

 もしかしたら彼も、そこに居るんだろうか? そう思うと気持ちが逸りそうになるが、短絡的に走り出すわけにもいかない。


 俺はそのままリセイナさんに続いて歩きだそうとしたが、 


「お2人さん、お熱いですねぇ」


 振り返ったアサクラが生温い笑みを浮かべ、妙にのったりとした敬語で話しかけてきた。

 俺は慌てて手を離した。しまった、自然と手を繋いだままだったのだ。

 ナガレはといえば、離した両手を合わせてもじもじしている。

 頬に愛らしい朱色が宿っているのをまともに見てはいられず、俺は少々早足でアサクラに追いついた。


「おまえ、そういう茶々みたいなのやめろよ。相手するの疲れるから」

「疲れる!? いま疲れるって言った?! ムードメーカーに向かって信じられない! パワハラじゃん!」

「パワハラではないだろ……」


 肘をつつきながらこっそり言うと、めちゃくちゃデカい声でキレられる。音量を抑えた意味が皆無だ。


 そんな下らない遣り取りをしている内に、テントが大きく見えてくる。

 警戒されるのではないかと思いきや、周りで動き回る騎士たちはリセイナさんの顔を見るなり陽気に声を掛けてきた。


「おっ! お久しぶりです」

「副団長なら、奥のテントですよ~」

「ありがとう。助かる」


 話しかけてくる男たちに毅然と返すリセイナさん。

 俺の目から見ても格好良い姿に歓声が上がる。うん、気持ちはわかる。


 しかもよくよく見れば、リセイナさんは普段のくすんだ金髪ではなく、黄土色のような髪の色になっていた。

 光の当たり具合で気づかなかったのか、俺たちに古代魔法をかけたとき既に、自身の髪色も変えていたらしい。

 ぴんと尖っていた耳も見当たらないので、その変化も済ませているんだろうか。何というか、仕事にソツがない人だ。


「リセイナさんって、騎士たちと知り合いなんですか?」


 訊いてみると、表情を変えず、


「まあな。別に仲が良いというわけでもないが」


 実に素っ気ない返事が返ってきた。

 それにしてはかなり慕われているというか、好奇心いっぱいに見つめられている気がするが……本人はそういうものには無頓着らしい。


 そこからも迷うことなく、テント同士の合間を縫ってリセイナさんは進んでいく。

 俺は置いていかれないよう、やっとの思いでついていく。振り返るとアサクラとナガレは俊敏についてきているが、ユキノとホガミは若干遅れていた。


「二人とも、だいじょう――」

「心配ありません、兄さま」

「アンタに案じられるほど落ちぶれてないわよ」


 意味合いは同じはずが、まったく正反対の表情と語彙が返ってきた。

 ……まぁ、本人たちがそう言うなら大丈夫か。そこは信用することにして、俺は遅れを取り戻すために早足で駆ける。


 数分と経たず、黄色いテントの群れの中で1番大きな代物の前に辿り着いた。

 そこでもリセイナさんは天幕の傍らに立つ兵士2人を会釈で黙らせ、さっさと中に入っていってしまう。


「えっ、ちょっと……」


 これはさすがに大丈夫ではないんじゃ?

 傍若無人ともいえるリセイナさんの振る舞いに、俺も些か困惑を隠しきれずにいた。

 見張りの騎士に頭を下げつつ、天幕を恐る恐ると捲ってみる。


 すると、


「フォード、会議中にすまない。邪魔するぞ」

「……ン? あれ、リセイナさん?」


 リセイナさんに呼ばれ、椅子に座っていた誰かが振り返った。


 立ち上がると、長身のリセイナさんより頭一つ分大きい。

 以前と異なり、オールバックに整えた髪を撫でつけ、口元には人懐っこい笑みを浮かべている。


「いいよ別に、会議なんて大したことはしてない。でもどうしたんスか、定期連絡にはまだ――」

「いや、今日は入隊を希望する若者たちの引率だ」

「ヘエ? アンタが人を連れてくるとは珍しい」


 追いついてきたアサクラがリセイナさんの発言に「えっ?」という顔をした。

 俺も初耳だったので、同じような顔つきになっていたと思う。でも今はそれよりも、もっと大事なことがあった。


 その人はリセイナさんの後ろに立つ俺たちへと自然と視線をスライドさせる。

 順に眺め、ふーん、と無声音で呟くと同時に逸らされた目が……また、ぎこちなく俺まで戻ってきた。


「………………おう?」


 ぱちぱち、と瞬きしてから。


 ゴシゴシゴシ、とその赤髪の騎士は目元を擦る。

 そしてまた俺を見遣る。ゴシゴシゴシ。強い眼光で睨むように見てくる。

 ふと、訝しげに目を細めた。


「……何だ、見間違いか。2年前に行方知れずになった知り合いによく似てると思ったが」

「見間違いじゃないですよ。お久しぶりです――レツさん」


 万感の思いを込めて、その名を呼んだ。

 彼の身体が硬直し、唇が動き出すまでには、およそ六秒ほどの間が空いた。


「…………………………シュウ?」


 その天幕に居たのは、レツ・フォード――俺の憧れの騎士だった。



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