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屋敷探検!

「お嬢様?昼食の用意が出来ましたよ?」

「ひいゃっ!」


いきなり声を掛けられて思わず変な声を出しながら、私は勢いよく引き出しを閉めた。

不審そうな目でアンは見てるけど、そりゃそうだ。中に何が入っているのかアンも知らないならともかく、この引き出しの中身はアンも把握してる。

何でそんな隠し事があるみたいに閉めるのか、理解不能なんだろう。私だって何でこんな必死に閉めたのかわからないよ。


「お嬢様?」

「いや、大丈夫。カードの整理してただけ」

「…そうですか。昼食を食べに行きませんか?この後屋敷を見回るんですよね?」

「はーい」


大丈夫って、意味が分からん。部屋にいて、カードを見てるだけなのに大丈夫じゃなくなる事なんてそうそうないよ。

だけどアンはそんな私に別段突っ込むこともなく、流してくれた。アンのスルースキルは日に日に上がっているような気がする。

それが嬉しいのか悲しいのかはちょっとわからないけど。

促されるままドアを出ようとして、私はチラリとカードの仕舞ってある引き出しを見た。

元ネタを探そうねとアンと約束したから、伯爵にもらったカードは全部あの引き出しに入っている。

会っていない頃は毎日貰っていたし、こっちに来てからも帰って来る度に貰っていたから結構な量になっていた。

いつもなら貰ったカードは何にも考えずに上に積んでくだけだけど、昨日のカードは何となく上に積まずに横に除けて置いておいた。

そして昨日から結構な回数それを眺めてはニヤニヤしてるって訳。

まあ気持ち悪いのはわかってる。わかってるよ!だからアンがいきなり来た時あんなに焦っちゃったんだよ。

だけどアンに説明しても昨日の感じが全然伝わらないんだから一人でニヤニヤするしかないじゃん。


「気分いいですね。そんなにカードが嬉しかったんですか?」

「うっ、別にそんなに気分いいわけじゃないから。それにカードが嬉しかったわけじゃないし」

「昨日はあんなに熱く語ってましたのに」

「もう持ち出さないでってば」


昨日、侯爵が自分の部屋に戻った後、確かに私はテンション高くアンに上手くいったと捲し立てた。

だけどね、実際言葉にしてみると自分でもびっくりするほど何にもなかったんだよ。

あれ?私何でこんなので上手くいったと思ってたんだ?って自分でも思うほど。私がそう思うんだから、テンション高く捲し立てられたアンなんてもっと疑問に思ったと思う。

一生懸命説明しようとすればするほど何か話は変な方向に行っちゃって、最終的にアンの中では結局カードが嬉しかったんですねっていう話に落ち着いてしまった。

全然違うのに。カードが嬉しいんじゃなくてそこに行くまでの過程が大事なのに。雰囲気を読んでくれ!って言いたかったけど、その場にアンはいなかったんだからしょうがない。

一晩寝た今となってはあんなにはしゃいでた事が少し恥ずかしくなって、あんまり言わないようにしている。


「ですがまさかお嬢様と恋愛関係の話が出来るとは思ってもいませんでした」

「まあ、リリアは体が弱かったからそれどころじゃなかったしね」

「リリアお嬢様ともですが、お嬢様ともです」

「私もお父様の屋敷にずっとこもってたし」

「それもそうですが、性格的に」

「…人が必死に流そうとしてるのに、アンは私に喧嘩売ってるの?」

「いえ、売ってません」

「それに、これって恋愛関係の話かな?」


確かに侯爵と少し本音で話せて嬉しかったよ。でもさ、これって恋愛とは違わない?

何ていうかさ、恋愛ってもっと強烈なものなんだよね?ほら、相手の事を好きすぎて眠れなくなったり、ご飯も喉を通らなくなったり。

だけど今のところそうなりそうな気配はないと思う。そもそもそんな恋愛をしたことなんてないし、自分がそんな恋愛をするなんて考えられないけど。

それとも普通はそんな感情なんて持たなくて、私に聞かせてくれた子たちが誇張して話してただけなんだろうか?


「お嬢様?」

「まあいいや。まずは屋敷探検だよ」

「はい」


そんな考えてもしょうがない事をつらつら考えるよりも、まずは目の前のやるべき事をやらなきゃね。

とにかく今日侯爵は私の屋敷を見回った話を聞きに来るんだから、ちゃんと病弱リリアとして話せるように情報収集しなきゃ。

そう考えながら、私はいつも通りおいしい昼食を食べた。







「よーし、今から屋敷探検を始める!番号!」

「いち!」

「………に」

「…………」

「うわー、レオン。アンって乗り悪いー」

「本当に!でもベルトの乗りもギリギリじゃないですか?」

「…早く行きましょう」

「っていうか、4人くらい目測で確認して下さいよ」


探検と言ったら鉄板の番号で人数確認をしたら、ベルトルトがぎりぎり、アンなんて乗ってもくれなかった。

それだけじゃなく、今も冷めた目でこっちを見てる。本当に乗り悪い。


「こういう人数確認ってよくあるじゃん。さらっと乗ってくれたっていいのに。

 でもまあ、自分で言っといて何だけど、ベルトルトが乗ってくれるとは思わなかったよ」

「お嬢様みたいな番号を取りたがる上官はどこにでもいますので」

「それは心から同情します」

「…出発しようか」


どうやら私は平凡な奴が権力を持った時のテンプレ行動をしてしまったらしい。

でもちょっとやりたくなっちゃうんだよ!アンたちもきっと私の立場になったら言いたくなるよ?「番号!!」って!

…ならないか。

そんな事を嬉々としてアンやベルトルトが言いだしたら逆にちょっと怖い。

幸い毒舌のベルトルトもそれ以上嫌味を言う事がなかったから、私たちはさくっと屋敷探検に行くことにした。






「…………」

「…どうしましたか?お嬢様。さっきまで楽しそうにしてらしたのに」

「…だってさ、一応聞くけど、ここ何の部屋?」

「客室です」

「この隣は?」

「客室です」

「その隣は?」

「客室です」


何人客を泊める気なんだよ!!

食堂を出て初めの方はよかった。ここが応接室ですとか、私たちの私室ですとかだったから。

あー、前の屋敷と並び順が変わってないねーとか、ちょっと広くなったんですよとか和気あいあいと屋敷探検をしていた。

だけどね?その後!その後からはこの部屋は?客室ですのオンパレード!

ここは宿屋か何かかよってくらい客室があるの。っていうか、ここに客はそうそう来ないはずだよね?何でそんなに客室がある訳?


「客室というより、この辺りは空き部屋と言った方がいいですね。

 本来なら住み込みの使用人が使う部屋ですから。そちらは通いの使用人の休憩室でしょうか」

「いないじゃん」

「だから空き部屋です」


私がリリアでいる限り、客室も使用人の部屋も多分必要ない。

だけど開けて見た部屋は今からでも使えそうなほどきれいに整っていた。


「…客室とか空き部屋は飽きたよ。それ以外の部屋だけ案内して」

「わかりました」


とっさに謝りそうになって、私はその言葉を呑み込んで探検の続きを促した。

私の勝手でこんなところにまで連れてこられて、使う事のない部屋を最低人数にも達してない人数できれいに整える。

そんな無駄な事をやらして申し訳ないと思うんだけど、謝っても私の自己満足になるだけだろうし、そんな事を言ったらアンに氷のような目で見られてしまう。

そんな私の考えを知ってか知らずか、アンは軽く首を縦に振り、屋敷の奥の方へ案内してくれた。


「ここは遊戯室ですね」

「うっわあ…。何か映画に出てくるセットみたい」

「えいが?」

「いや、気にしないで。こっちの話」


その部屋は何と言うか、『ザ・遊戯室』という感じの部屋だった。

手前にはビリヤード台やトランプの置いてある机があって、奥にはバーカウンターみたいなものがある。

お店みたいにいっぱいお酒が置いてあるんだけど、ここに来る人はいないだろうし、あのお酒の賞味期限とか大丈夫なんだろうか?

それともお酒って腐らないの?ワインとか何年物とか言って重宝されてるみたいだし、あんまり腐らないのかも。


「私ビリヤードってやってみたかったんだよね」

「あ、じゃあ俺教えますよ!」

「仕事中だ、バカ」


ビリヤード台を撫でながらそう言うと、レオンが嬉々として先生役を買って出た。

そしてベルトルトに冷たく一蹴される。

だけどビリヤード台を勝手に使う訳にもいかないだろうし、何といっても歩くことさえままならないリリアがビリヤードなんて出来るはずない。


「せめてビリヤードが出来るくらい回復したいな」

「そうですねえ、それくらい回復すれば庭も大手を振るって歩けるでしょうしね」

「そしたら俺教えますから!」

「そんなにビリヤードがしたいなら外へやりに行けばいいだろう。それにお前は教えられるほど上手くない」

「ベットに言われたくないし!それに俺のビリヤードの腕は中々なもんですからね、お嬢様」

「次行きましょうか」


レオンはまだギャーギャーと文句を言ってるけど、アンはそんなことは意に反さず部屋を出るように促す。

まあ無視されたレオンも慣れたもので部屋を出るなりケロッと普通に戻った。


「次ってまだあるの?結構な部屋飛ばしてここまで来たけど」

「はい、次で最後ですが」


ずらっと並んだドアをすっ飛ばして来たここは屋敷の奥の方で、その奥と言ったら後一つしかドアはない。

それも見た感じそこまで広いようには思えないし、何の部屋だろう?

私が思うに使用人の待機部屋か何かかと思ってたんだけど。

そんな事を考えながら奥のドアを開けた私は、部屋の中を見た途端奇声を上げながら駆け入った。


「うっわあ!図書室だ!!」

「ええ、あまり大きなものではありませんが」

「いやいやいや!お父様の屋敷よりは大きいし」

「旦那様も侯爵様もあまり収集欲はないようですね。ここに置いてある本も個人的なものが多いですし」

「ほんとだ。何か手書きっぽいのもあるし。あ、これお父様の屋敷にもあった!続きなんて出てたんだね。何かおどろおどろしい題名の本もあるし」


アンはそんなに大きくないと言ったけど、本棚が三列もあったら結構大きくない?図書館じゃないんだから個人の家にしたら十分だと思うんだけど。

そんな事を思うながら適当な本を抜き出そうとしてはたと気づく。

アンはここを個人的なものといっていたし、私もそう思う。そんな侯爵の本棚に私が勝手に触ってもいいんだろうか?


「ねえ、アン。これって触っていいのかな?」

「特別注意は受けてませんからいいと思いますが」

「…うーん」


アンはそう言ってるし、私も侯爵に特別注意は受けてない。もしも触っちゃだめだったら自室の時と同じように一言注意が入ったと思う。

そういう事忘れるような人にはみえないし。


「…やっぱり聞いてからにする」

「それがいいですね」


でもやっぱり私は聞いてから触ることにして泣く泣く抜きかけの本を元に戻した。

別に侯爵はいいと思ってるかもしれないけど、そこは礼儀だよね、うん。私だって自分の本を読まれたって全然構わないけど、勝手に読まれてたとなったらもやっとするだろうし。3冊しか持ってきてないけどさ。

侯爵は急ぎの仕事が出来なければ今日も帰って来ると言ってたし、待つとしてもせいぜい3、4時間だ。


「うううう…」

「そんなに読みたいなら読んだらどうですか?」

「聞いてからにする!!」


後ろ髪引かれまくりな私にそう言ったベルトルトに半ば逆切れのように返して、私はのろのろと部屋を出たのだった。


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