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人形令嬢?(アル視点)

アル=国王です。

昼を大分過ぎた頃、普段はあまり人が来ない時間のはずなのにノックの音が聞こえて、俺は気を引き締めた。

予定が入っている奴は大体いつ頃来るか頭に入ってるから、面倒な用だったら嫌だなと思ったのだ。だって今日ディーがいないし。

ちょっと重めの声を作って「入れ」と答えると、ドアから顔を出したのはなんとディーだった。


「失礼いたします」

「………」

「…どうした?」

「いや、それこっちの台詞何ですけど」


何で婚約者と会うって言ってたお前がここに来てるわけ?


「え?え?何?もしかして何か失礼なことしてバルのおっさんに叩き出されたとか?」

「何を言っているんだ、貴様は」


別に国王になったからって態度を変えられても困るけど、さすがに貴様はないんじゃない?

まあそんなことを言ったら嫌味のように丁寧な言葉で話してきそうだから言わないけどさ。それに俺はそんなに気にしてないし。

でも本当にどうしてディーがここにいるんだ?


「だってお前今頃令嬢のお守りのはずだろ?こんなところに来れるはずないじゃん」

「その令嬢とヴァイスハイト子爵が執務に戻ってもいいとおっしゃったのでな。戻らせてもらう事にした」

「何しでかしたの?」

「何もしていない」


絶対零度の視線で俺を見てくるディーだけど、いまいち俺は状況を把握出来なかった。

だって婚約だぜ?普通だったら今日どころか、2、3日拘束されてもおかしくないのに、ほんの少しの時間会っただけで解放されるなんてありえない。

もしかしてこんな視線でバルのおっさんの娘を見て、怖がらせてしまったんじゃないの?

屋敷に引きこもって必要最低限以外の人間としか会ってない令嬢にディーの氷の視線はきついだろ。

バルのおっさんには悪いが、たくさんの人間とコミュニケーションをとってない人間はどこか歪む。俺の妹みたいにね。

どうなってるのかは想像できないけど、初めて会うに近い他人がディーじゃ上手くいかなくてもしかたない。


「ドンマイ!」

「だからその俺が初見を失敗したような言い方はよせ」

「えー?っていうか、引きこもり病弱令嬢だろ?成功なんてするはずないじゃん。良くて失敗しなかったって程度でしょ」

「……………」


ここで否定が来ないって事は、少なくとも初見が成功したというわけではないらしい。

まあこんなところに来てるって事は当たり前なんだけど。


「俺本当にバルのおっさんの娘の事少しも知らないんだけど、どんな娘なの?」


バルのおっさんは大柄だし、筋肉もがっちりついてる。顔は悪くはないけど、男らしい顔つきだからそこから女の顔を想像することは難しかった。

バルのおっさんの顔に髪を長くしただけの令嬢を思い浮かべて少し笑ったところで、質問にはすぐに返事をするはずのディーが黙っている事に気付き首を傾げた。


「ディー?」

「……人形のような…娘だった」

「はあ?」


容量の得ない言葉はディーらしくもない。

印象が及第点にしろ、最悪にしろ、聞けばつらつらと俺が会わなくても姿が想像できるんじゃね?ってくらい端的に特徴を話すディーからは想像も出来ないくらい曖昧な言葉だ。

どうしたんだ?と思ってディーを見ると、珍しく困ったような顔をしていた。


「何?珍しく変な顔して。人形ってバルのおっさんに抱えられでもしてたわけ?」

「いや、動作はゆっくりだが自分で歩いていた」


良くなってきてるって聞いていたけど、引きこもり令嬢に馬車はきつかったか。そう思ったけど自力で歩いてはいたらしい。


「じゃあ何でそんな曖昧な事しか言わないんだよ」


抱きかかえられて満足に顔さえ見れなかったって言うならディーの言葉もわかる。でも自分で歩いて一応は言葉も交わしたんだろ?だったら何でいつもみたいにさっさと印象を話さないんだ?


「あまり表情が変わらなかったから人形のようだと思った」

「ああ、そうなんだ」

「最初は少し頬が赤くなっていたから、そう悪い印象じゃないと思ったんだが」

「お前を前にしたらほとんどの令嬢が赤くなるだろ」

「だがその後は子爵との別れの時以外、まったく感情が読めなかった」

「へぇ…」


爵位を持った令嬢というのは本当に呆れるくらい表情を隠すのが下手だ。不満も喜びもすぐに顔に出る。なのにディーが感情を読めないなんて少しおかしかった。


「まるで人形のように何も感じなかったんだ」

「だから人形みたいだったって?」

「ああ」

「お前いきなり暴言でも吐いたんじゃないの?」

「そんな事するか、馬鹿者」


だってディーを前にした年頃の娘が反応しないなんて、そんぐらいしか考えられないじゃん。

こうやって聞いていても、その令嬢がどんな娘なのか全くつかみきれない。それはきっとディーの中でも印象が掴み切れてないからだろう。


「あ、じゃあ見た目は?バルのおっさんの娘だからそう期待は出来ないんだけどさぁ」

「………小さかった」

「お前初対面の婚約者の胸ばっかり見てんじゃねーよ」

「お前と一緒にするな!身長が小さかったと言っているんだ!」


とりあえず性格の事は置いておいて、見た目を聞けば何となく感じが掴めるかもと質問を変えると、帰ってきたのは一言。

男二人の執務室でその言葉を言われたら、おっぱいにしか結びつかないだろ。あー、病弱って言ってたもんね。肉は付かんかったのかと同情したら、ディーは珍しく声を荒げて怒ってきた。


「紛らわしい言い方をすんなよ。大体見た目って言ったらまず顔だろ?言うのが気まずいほど悪かったの?」

「全く紛らわしい言い方をしてはいない。…それに人形のようだと言っただろう。それなりに整っていなければそんな言い方はしない」

「へー、マジで?バルのおっさんに似てる?」

「似ていない。どちらかと言うと正反対だ。髪も瞳も黒で髪は腰位まで伸びていた。体つきは華奢で背は俺の胸元位までしかなかったな」

「そりゃ小さいな」


サイズで言うと13かそこらくらいか?大柄でがっしりとしたバルのおっさんとは確かに正反対だ。まあ男と女を比べてもしょうがないんだけど。


「背もだが全てが小さいんだ。手を添えた腰なんて両手で掴めてしまいそうなくらいだった」

「そりゃコルセットしてるからだろ」

「令嬢はコルセットをしていない」

「えー?ああ、そっか」


あんな息の詰まるもん、身体の弱い令嬢が出来る訳がない。文字通り息が詰まって死んじまう。

あはは、笑えねー。


「何にしろ、あんまり悪くないみたいじゃん」

「は?」


俺がそう言うと、ディーは虚を突かれたような顔をした。

そんな顔は珍しいから吹き出すと、からかわれたと思ったのかムッとした顔をする。


「だってそうだろ?令嬢の話なんて一瞬で終わって執務に戻れって言われるかと思ったけどさ、結構な時間続いてるし」

「そんなに長い時間続いていないだろ」

「えー?お前にとって印象が悪かったら『話すに値しない』とか言って瞬殺してたって」

「…………」

「感情が掴めなかったとかはおいておいて、ディー自身の印象は良かったんじゃねーの?」


つーか否定の言葉が出なかったのだから、悪いはずがない。

ディーは目線を外しながら考えた後、俺の方を見た。瞳からすぅっと色が消え、なのに口端は上げて微笑みのような表情を作る。

これじゃあどっちが人形なのかわかりゃしないだろ。さっきまでの無表情の方がよっぽど人間味があるし。


「そうだな、悪くないのかもしれない。だがそんなもの今考えなければ思いつかないほどどうでもいい事だ」

「はあ?どうでもはよくないだろ?これから一生暮らしていく相手だぞ」

「そうだ。一生面倒みると約束した。だから印象など良くても悪くても大切にしていくさ」


その言葉にはまるで感情なんて入ってなかった。

俺が隣国に対して、「キナ臭いけど良好に付き合って行こうと思ってるよ。隣の国っていうのはどうしても変わらないものだしね」とか言うのと同じトーン。


「そんな事より遅れた書類を片づけるぞ」

「あいあいさー」


ディーは結構女性軽視するところがある。まあアメに群がるアリみたいに寄ってこられちゃ好きになんてなれないだろうけど。

俺がいくら女の子は柔らかくて温かくて癒されるよと言っても、冷ややかな目で「そんなもの他の物で代用できる」とか言うくらいだもん。

でもちょっとつつきすぎて余計意固地になっちゃったかな?ごめんね、ディーの婚約者さん。

あははーと心の中で謝るけど、別に本気で悪いと思ってる訳もない。

ディーが誰かに恋をした!とかならともかく、結婚攻撃除けの書類上の婚約者なのだ。そんなのディー以上に興味がある訳ない。

ディーに急かされるまま俺は謝罪ごと令嬢の事を頭の隅に追いやり、さぼり気味だった書類と格闘することにした。



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