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風雲あかし城  作者: Master of Reality☆黒い安息日
四番目物【雑能】
59/60

イワンのばか Иван-дурак


 今のアーカシ市役所には、眷属と複製人間しかいない


 複製人間はロボットのようなものだ

 元となる人間の願望が強く打ち出され

 自身の行動に疑いを持たない


 眷属は邪神となった市長の体を培養して作られた

 いわば市長の複製とも言える存在だが

 魚類のような顔つきで身体能力も高く

 もはや人間と呼ぶべきか悩ましい


 ただ、その眷属にあっても

 前市長、アーカシ・ウォンターナの体から作られた者は

 元となったアーカシ姫の人間性を残していた



 今は亡き政策局 秘書課の信濃守千代丸は

 生前、気に入った眷属に名前を付けることがあった

 例えば諜報員のルリヲ (本当はルリだが)

 他にも総務局のシモン

 環境産業局のタラス

 福祉局のイワン、などがいる


 名を与えられた眷属は、全てアーカシ姫の眷属

 その中でも

 シモン、タラス、イワンの三人は、仲が良かった





 邪神と成り果てた市長が

 市の運営に口出しすることはない

 特に前アーカシ姫の時代は完全な放任主義で

 市役所の職員も安心して働くことが出来たのだが


 旧支配者、再選した海野アケミが邪神となってからは

 市長の代行を名乗る連中、「明石だんご協会」や

 シスターを名乗る修道服を着た怪しい人物が

 頻繁に市政へ口出しするようになり

 人口は激減、財政も破綻寸前である





 総務局のシモンは頭を抱えていた


 市税を徴収しようにも市民がいない

 加えて職員も足りず事務が追い付かない

 有能だった人材は悉く退職して市を去り

 残るのは短絡思考の複製人間ばかりである

 シモンはイワンに助けを求めた



「人材を分けてくれないかイワン、別に福祉が滞ったところで、誰も困らないだろう?」


「いいとも、いいとも、空いた人員をそちらに送るよ」



 イワンは快 (こころよ) く協力を申し出たが

 一言付け加えた



「だがシモン、誰も困らないのは間違いだ、自分が病人じゃないから病院はいらないという理屈は、あまりに幼稚だということくらい、わかるだろう?」


「失言だった、イワン、許してくれ」


「いいさ、じゃあ神様がお前をお守り下さるように」



 神様?

 だがアーカシ市には邪神しかいない……





 環境産業局のタラスは頭を抱えていた


 海洋外来物の研究と処分を目的として

 ある程度の武装を容認された処理課の特殊部隊

 だが現市長の代行を名乗る連中は軍隊化を目論み

 明らかに対人を目的とした過剰な兵装を追加した

 抗議すれば連中は、局の予算を減らすと圧をかける

 タラスはイワンに助けを求めた



「いっしょに抗議してくれないかイワン、別に福祉の予算が減ったところで、なんとかやりくりできるだろう?」


「いいとも、いいとも、俺も抗議に付き合ってやろう」



 イワンは快 (こころよ) く協力を申し出たが

 一言付け加えた



「だがタラス、福祉の予算を減らすということは、守るべき未来を削ることになるんだぞ、セーフティネットのない世界で、誰が安心して生きられるのか」


「失言だった、イワン、許してくれ」


「いいさ、じゃあ神様がお前をお守り下さるように」



 神様?

 イワン、お前はそんなものを信じているのか……





 イワンは働いた

 身を粉にして働いた

 人員は減り

 予算は削られ

 それでも知恵を絞り、汗を流して頑張った


 程なくして

 シスターの気紛れで福祉局は解体され

 イワンは都市局へ配置転換された

 そこで任された職務は地下墓地の建造だった


 心配になったシモンとタラスは

 イワンの様子を見に地下墓地へ顔を出した


 イワンは建造中の

 無数の墓に囲まれた中央で

 息絶えていた


 心労、そして過労が原因だろう


 働けばなんとかなる

 頑張ればなんとかなる

 そう信じていたイワンの善意を

 シモンが、タラスが、シスターが利用して

 イワンは力尽きたのだ


 自己犠牲をいとわなかったイワンは、バカだったのか?

 シスターなら、そう言えるかもしれない

 彼女は人を超越した魔人なのだから



 だがシモンとタラスにそれが言えるだろうか


 

 聖者でも超人でも魔人でもない

 凡人の死

 彼を取り囲む

 墓碑銘のない

 イワンの墓




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