どこか私を連れていって、遠く高く放り投げて、くれ
信濃守千代丸は空腹だった
南木景樹は、魚のような顔をした男と密談をしている
真面目な話らしい
そこに割り込んで飯をくれと言うのもいかがなものか
仕方なく台所で冷蔵庫を開ける
ラインナップが寂しい
だが、千代丸は知っていた
南木景樹の部屋には隠し冷蔵庫があることを
その冷蔵庫は非常に小型で
隠れ家を移動する度に持ち運んでいる
よほど美味いものが入っているに違いないと
千代丸は前々から目を付けていた
千代丸が南木景樹に部屋に入る
たしかこの辺に……あった、これだ
小型冷蔵庫
取り出して中を開けると
銀のボールに
銀の匙 (さじ)
ヨーグルトソース?
信濃守千代丸、指ですくってペロリとなめる
乳酸のわずかな酸味が口内から鼻腔を抜け爽やかな香気が
ふ
ん
わ
り
と
体
を
包
み
込
む
は時たい付気といしかおか何し達とへ脳てがやが覚感なうよ
あ
これはマズい
ど
こ
か
へ
飛ばされる
飛ばされる
飛
飛
飛
ば
さ
れ
る
◇
月の裏側にいた
そこは生い茂る森林で
満天の夜空
パチパチと火の粉を飛ばし
焚火が燃える
信濃守千代丸の前で
老婆が薪をくべている
「……おばあさん、ここは何処なのかしら♡」
「善悪の彼岸だよ」
「……おばあさん、あなたは誰なのかしら♡」
「成れの果てだよ」
「……成れの果て? 誰の? もしかして、私のかしら♡」
「ふふふ……」
ユラユラと炎が踊り
焚火は燃える
信濃守千代丸の前で
老婆が静かに問う
目指すのは、真理かい?
到達すれば、地獄だよ?
「……真理とか悟りとか、クソくらえよ♡」
「ふふふ……」
「……そんなもん挫折を美化する言葉遊びよ♡」
「ひひひ……」
「……地獄もクソもないわ、あるのは現実、それだけよ♡」
「うきききき……」
「……だから私は妄想に沈めるの、世界を♡」
──── 現世は夢 夜の夢こそ真 (まこと) ────
風景が変わった
白銀の世界
雪が降りしきる
(Snowblind)
老婆が素足で焚火に入り
立ったまま燃やされていく
黒い炎が立ちあがる
(Sabbath Bloody Sabbath)
老婆の哄笑が響き渡る
愉快だ
愉快だ
諸人の成れの果て、魔人
魔人の成れの果て、神
神の成れの果ては、【 読者 】即ち【 観測者 】
【 創造主 】など【 観測者 】無くして存在しえず
【 神 】など所詮【 人 】の観測無くして存在できない
神話の神秘性とは、読者数に比例する
これが真理だ悟りだ、あーはっはっはっはっはっはっは!
急速に「覚め」ていく感覚
信濃守千代丸は目覚める前に
老婆へ問うた
「……おばあさん、最後にお名前を聞かせて♡」
哄笑する老婆
黒い炎に焼かれ
白い灰になる
それはもはや
雪と区別がつかない
だが笑わせてもらった褒美として
一言、名を明かして白銀に散った
「黒い安息日……」
◇◇◇
バシッ!
バシッ!
「おい、千代丸、しっかりしろ」
南木景樹は
自室で泡を吹き白目で倒れている千代丸を介抱していた
とはいえBL的耽美な光景ではなく
平手で頬をぶちまくる地獄絵図
田亀源五郎的世界観としてはアリなのかもしれないが……
「痛ッ! ちょ! 何すんのよ♡」
千代丸、反撃のアッパーカット
それはクロスカウンターで南木景樹の顎に入り
彼はもんどりうって吹っ飛んだ
それは廬山昇龍覇を放つドラゴン紫龍のようであり
JETの文字が浮かんでいれば河井武士のようでもあった
「千代丸、お前これを口にして無事だったのか」
景樹が手にするのは
銀のボールに入った白いヨーグルトソース
千代丸が無事かどうかは弱冠の疑問も残るが
ひとまず彼はアーカシ市に帰ることが出来たようだ
「ん~、とりあえずソレは Sweet Leaf ではないわね♡」
「何を言ってるんだ千代丸?」
「危うく Heaven and Hell の彼岸に飛ばされたわ♡」
「とりあえず休め、千代丸」
「でも、Die Young するのはまだ早いわね♡」
【付録】
https://drive.google.com/file/d/1sCKYXGKao4_VblJqFKwI5LocLOqLdiRB/view
「Heaven and Hell」+「Paranoid」のカバー
2016年頃のライブ
ベース・筆者 (黒い安息日)
内容の詳細というか備忘録↓
https://book1.adouzi.eu.org/n2751jm/33




