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風雲あかし城  作者: Master of Reality☆黒い安息日
一番目物【脇能】
12/60

貴族令嬢、帰宅する


 南木景樹はヨーグルトを作っていた。


 食用ではない。



 忍び集団、唐櫃 (からと) 衆が用意した六甲牧場の牛乳を、エスカルゴ女学院の研究室で培養した特殊な乳酸菌で発酵させる。


 ダンウィッチ株と呼ばれたこの乳酸菌は、隕石に付着していたとされており1万度を超える高熱にも耐える。宇宙より飛来した生命の起源 (パンスペルミア説・宇宙汎種説) を裏付ける存在かもしれないが、南木景樹の与り知る所ではない。



 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前



 南木景樹が九字を切る。さらに真言のソースコード (呪文) を加えると、ヨーグルトは発酵し、やがて銀色に発光する。


 食用ではない。


 だが食わせてやる。

 アーカシ市長に腹いっぱい馳走してやる。

 この、「ヨーグルト=ソース」を。


 銀に輝く「ヨーグルト=ソース」で、忌まわしき旧支配者を瀬戸内の「塩」に戻してくれよう。


 今は無き、妹のために。


 南木景樹は復讐を誓う。彼の妹は亡くなったのではない、「無くなった」のだ。

 その存在が、「無くなった」のだ。

 それが「奪われた」ものだと気付いたのは裏六甲で……



「……何者だ」



 人の気配。南木景樹は脇差の柄に手をかける。

 室内では長い打刀 (日本刀) より使いやすい。



「翔子っす、有馬翔子っす」



「……入れ」



 隠し扉が開く。

 女忍者、有馬翔子が部屋に入る。



「貴族令嬢、黒い安息日をギョウ・スーで保護、帰宅させました」


「……そうか」


「帰りに二人で赤ラ―のラーメン食べました」


「……そうか」


「炒飯セット食べました」


「……そうか」


「餃子をサービスしてくれました」


「……そうか」


「ばり美味かったっす」


「……そうか」



 有馬翔子は楽しんでいた。淡々と返事する南木景樹が、段々とイラついているであろうことに。人をからかうことは本当に楽しい。だがガチギレして脇差を抜かれる前に、程々で止めておこう。その見極めもまた、楽しいのだ。


 だが、有馬翔子は見誤っている。


 南木景樹、実は楽しんでいた。

 かつて妹がいた頃の懐かしさを、有馬翔子の煩わしさに感じているのだ。



◇◇◇



「ただいまでしてよ、ホーホホホ!」



 貴族令嬢・黒い安息日は宮殿に帰った。自宅はいい、最高だ。


 黒い安息日はネットカフェが嫌いではない。以前住んでいた宮殿の近くに快活クラブがあり、最初は怪しい店かと訝しんでいたが (だって名前が……) 試しに行ってみたら存外に楽しめた。


 しかし無尽蔵に読める漫画はともかく、別に自宅で再現、いや、よりグレードアップした豪華なネットカフェが自宅なのでは、と当たり前の結論に達するのも早かった。


 あと、食事が高い。お酒など論外。そしてヘッドフォンが煩わしい上に音がチープ。


 あたりまえだが自宅は好きな食事を好きなだけ食べられるし、圧倒的に安い。お酒も大容量を常備している。仕事柄スピーカーの音質には自信があるし、ヘッドフォンもいらない。


 さらに言えば掃除や洗濯、料理も手軽に済むよう工夫してある。この工夫こそが自宅に住む最大の楽しみであり、愛着がわく所ではないか。


 呼吸するように余計なものを捨て、必要なものを得る。使わない家具より快適な寝具、山積みの本より電子書籍。巨人の進撃を阻む壁の如きCDの棚も、1TBに満たないフォルダーに収まった。


 自分だけが使いこなせるガジェット、自分だけが楽しめるギミック、それが自宅であり、心と体の延長線上にある、この世で最もパーソナルな空間なのだ。



「さて、ご飯でも……あれ?」



 米が、無い。

 炊飯した米が無いのではなく、精米自体が「無くなった」のだ。

 その存在が、「無くなった」のだ。

 それが「食べきった」ものだと気付いたのは二日前……



「しまった!米を忘れてましてよ!」



 お米を食べるのは二日に一度、それも麦飯+雑穀米の黒い安息日は白米の消費が遅い。とはいえ日本人の主食たる米を切らしている状態は不安で落ち着かない。


 余談だが米の歌といえば打首獄門同好会より筋肉少女帯が頭に浮かぶのは我ながらいかがなものか。なお打首獄門同好会「猫の惑星」PVは必見、筆者は100回以上見た。猫の住む星に僕らは生きている。



「米を、米を探しにいきますわよ!」



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