第84話:帰還、そして新たな目覚め
―墜落の空艦、再誕する魔竜将―
崩壊する空艦《黒翼改》。
ミーナとリィナは脱出魔法を発動し、カイルを背負ったまま光の中へと飛び出した。
幼い姿となったリィナは必死に魔力を繋ぎ、ミーナの支援で脱出陣を維持する。
「もう少し……耐えて……!」
リィナの声が震える。
だが光は彼らを包み込み、地上へと導いていった。
一方、蒼穹の戦場。
セレナはルゥの背に乗り、フィンを抱きしめながら急降下していた。
雷竜陣の一閃はザルグを打ち砕き、フィンを奪還することに成功したのだ。
「フィン、もう大丈夫……!」
セレナの声に、フィンは弱々しく微笑んだ。
だが――黒煙の中に、まだザルグの影が残っていた。
砕けた右腕を抱えながら、彼は虚空を見上げる。
『……選べ。器を捨て、我と一つになるか。さもなくば、ここで消えるか』
魔竜《ヴァル=ネグロス》の声が、彼の意識に響く。
ザルグは血を吐きながらも、笑った。
「力だ……力こそが全て。ならば、魂ごと喰らえ。私は魔竜将となろう」
黒炎が彼の全身を包み、魔竜の顎が胸に刻まれる。
肉体は変形し、鎧と鱗が融合し、瞳は漆黒に染まった。
《完全融合――魔竜将ザルグ=ネグロス》
その姿は、もはや人でも竜でもない。
魔竜そのものが人の器を得た、災厄の存在だった。
セレナは振り返り、空に浮かぶその影を見て息を呑む。
「……まだ終わってない……!」
ルゥが咆哮を上げ、空気が震える。
だが今は、フィンを守り抜くことが最優先だった。
「退くよ、ルゥ! 今は仲間と合流する!」
雷光を纏いながら、セレナとルゥは地上へと降下していった。
背後で、魔竜将ザルグの咆哮が空を裂いた。




