第7話:囚われの館
王都の空は、辺境とは違っていた。
灰色の雲が低く垂れ込め、風は冷たく、石畳の街路は静かに濡れていた。
私はルゥと共に、グランディール家の門をくぐった。
「セレナ様、お帰りなさいませ」
使用人たちは丁寧に頭を下げたが、その瞳に温かさはなかった。
この家は、私を追い出した場所。
そして今、私を“王子の妃”として迎え入れようとしている。
「ルゥ様のために、特別なお部屋をご用意しております」
案内されたのは、広く美しい空間。
天井は高く、壁には魔力障壁が張られていた。
ルゥは警戒するように鳴き、私の袖を引いた。
その夜、彼の部屋には結界が張られ、私のもとへ来られなくなっていた。
私は何度も扉を叩いた。
「ルゥ、聞こえる? 大丈夫?」
中から小さな鳴き声が返ってくる。
けれど、結界はびくともせず、私の魔力では破れなかった。
その夜、私は中庭に出て、ルゥの部屋の窓を見上げた。
そこに、もうひとつの視線があった。
グランディール家の塔の窓――
父グレゴールが、静かにこちらを見下ろしていた。
その瞳は、昔と変わらず冷たく、感情を見せなかった。
けれど、確かに私と目が合った。
私は視線を逸らさなかった。
ただ、左手の指輪に触れながら、静かに立ち尽くした。
その瞬間、グレゴールは窓の奥へと姿を消した。
まるで、何かを確かめたかのように。




