第54話:死の淵、最深部
―魔物のコアと、異形の成長法―
洞穴の奥。
腐敗した空気が肺を焼き、魔物の気配が絶えず揺れていた。
リィナが魔力視で周囲を探りながら答える。
「伝承にある。大魔道士アレスが作った前時代の遺産――
本来は訓練用のダンジョンだった。魔導騎士団の極限修練場」
カイルが壁にもたれながら苦笑する。
「訓練場にしちゃ、ずいぶん殺意高ぇな」
リィナが頷く。
「今は閉窟されてる。理由は……敵が強すぎるから。
魔物の強さが制御不能になって、封印されたの。
でも、ここで生き延びれば魔力器が拡張される。
倒した魔物の“コア”――つまり心臓を食べることで、レベルアップが見込める」
ミーナが眉をひそめる。
「心臓って……臭すぎて無理」
カイルが剣で死骸を突きながら言う。
「食べるんだ。生きるためだろ。焼けば多少マシになる」
しぶしぶ一口かじったミーナが、顔をしかめて呻いた。
「うわ……“孫が消えた歌”っていう毒草よりまずい……!」
リィナが魔力視でミーナを見つめる。
「でも、魔力が流れ込んでる。器が広がってる」
カイルが立ち上がる。
「なら、食って、斬って、登るだけだ。
ここが最深部なら、出口は上にしかねぇ」
リィナが静かに言う。
「確か、50階層。今がその底。
ここから一層ずつ、魔物を倒して、コアを食べて、登るしかない」
ミーナが炎を灯しながら言った。
「地獄の訓練場……やるしかないか」
洞穴の奥で、魔物の気配が再び蠢いた。
死の淵は、最後の試練を用意していた




