第29話「戴冠と再生」
第一章:静寂のあと
ヴェル=ノクスが消えた空は、まるで深呼吸をしたかのように静かだった。
黒い霧は晴れ、王都の空に朝の光が差し込む。
けれど、広場には瓦礫が散らばり、魔導士たちの疲弊した姿があった。
「被害は……大きいけど、最悪は避けられた」
ミーナが魔力計を見ながら言った。
「王都の魔力、安定してる。空も……呼吸してるみたいだ」
カイルが剣を収め、空を見上げる。
リィナは風をまといながら、静かに広場を歩いていた。
「風が澄んでる。空が、痛みを癒してる」
セレナはルゥの背に乗ったまま、静かに広場を見渡した。
人々が、少しずつ顔を上げていた。
恐怖の中に、希望が芽吹いていた。
「私たちの絆が、王都を守ったのね」
セレナが呟くと、ルゥが静かに鳴いた。
それは、誇りの音だった。
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第二章:玉座の決断
王宮では、緊急の評議会が開かれていた。
アルベルト殿下は、玉座の間に閉じこもったまま、誰とも口をきかず、魔力の暴走を抑えられずにいた。
「王都を守る力を失った者に、玉座を委ねることはできません」
評議員の一人が静かに言った。
「王都を救ったのは、レオニス殿下と空翔ける者たちです」
別の声が続く。
レオニスは、玉座の前に立ち、深く頭を下げた。
「兄は、かつて王都を導こうとした。
けれど、その道を誤った今、僕が責任を引き継ぎます」
その言葉に、王宮は静まり返った。
そして、誰もが頷いた。
「王位継承の儀を、今ここに」
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第三章:戴冠の儀
王宮の大広間。
玉座の前に、レオニス殿下が立ち、王冠を受け取った。
その瞳は、誇りと責任に満ちていた。
「この国を、絆で守る。
力ではなく、信頼で導く。
空翔ける者たちと共に、新しい時代を築く」
その宣言に、王都の民たちが静かに頭を垂れた。
そして、セレナが玉座の隣に立った。
王妃としてではなく――空翔ける者として。
「私は、王妃として選ばれたのではありません。
私自身が、この国を選びました。
空翔ける者として、誇りを守る者として」
リィナは風を送りながら、静かに言った。
「風は、選ばれた者に吹くんじゃない。自ら翔ける者に道を示す」
ルゥが翼を広げ、王宮の空を翔けた。
その姿は、王都の新たな象徴となった。
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第四章:再生の風
その夜、王都の空に星が瞬いた。
広場には灯りが戻り、人々の笑顔が少しずつ増えていった。
「王都は、変わるわね」
ミーナが薬草を手にしながら言った。
「変えるんだ。俺たちの手で」
カイルが笑う。
リィナは風を感じながら、静かに空を見上げていた。
「風が、未来を運んでる。今なら、届く」
セレナは、王宮の塔から空を見上げていた。
ルゥが隣で丸くなり、静かに眠っていた。
「この空は、もう誰かの支配のためにあるんじゃない。
誇りのために、絆のために――翔ける空よ」
風が吹いた。
それは、再生を運ぶ風だった。
そして、王都の空に、新たな時代が始まった。




