第22話「裁かれる者」
リュミエールの空は、曇っていた。
魔導士協会での記録提出から数日後、王都から正式な召喚状が届いた。
内容は――「セレナ・グランディール嬢、王都法廷にて魔力使用に関する審問を受けること」
「まさか、正式な裁判になるとはな」
カイルが眉をひそめる。
「リディアの根回しね。記録を潰せなかったから、今度は“制度”で潰そうとしてる」
ミーナが冷静に言った。
私は静かに頷いた。
「でも、逃げない。
この力が、誰かにとって“脅威”なら――それでも、私は向き合う」
ルゥが静かに鳴いた。
それは、覚悟の音だった。
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第一章:法廷の空気
王都の法廷は、荘厳で冷たい空間だった。
石造りの壁、魔力で浮かぶ証言記録、そして高座に並ぶ判事たち。
私は証人席に立たされた。
その向かいには、告発者――リディア・ヴェルシュタイン。
「この者は、未登録の魔法を使用し、王都の秩序を乱しました。
さらに、魔力暴走により周囲に危害を加える可能性があると判断します」
彼女の声は冷静で、そして計算されていた。
「セレナ嬢。あなたは、自分の魔力が危険だと思いませんか?」
判事の一人が問う。
私は静かに答えた。
「魔力は、使い方次第です。
私は、誰かを傷つけるために使ったことはありません。
むしろ、守るために使ってきました」
「証拠は?」
リディアが詰め寄る。
その瞬間――法廷の扉が開いた。
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第二章:民の声
「証拠なら、私たちが持ってます!」
声を上げたのは、リュミエールの村人たちだった。
かつてセレナが魔物から守った人々。
そして、辺境の村から駆けつけた者たちもいた。
「セレナ嬢は、私たちを守ってくれた!
魔物から、盗賊から、そして王都の冷たい目からも!」
「彼女の魔法は、危険なんかじゃない!
優しさと絆でできてるんだ!」
法廷がざわめいた。
判事たちは互いに顔を見合わせ、記録を確認し始めた。
リディアの顔が、わずかに歪んだ。
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第三章:裁きの瞬間
「記録によれば、セレナ・グランディール嬢の魔法は、古代魔導士の術式に基づくもの。
また、複数の証言により、彼女が魔力を暴走させた際も、仲間と共に制御し、被害を最小限に抑えたことが確認されています」
判事の声は静かに響いた。
その直後、傍聴席から一人の青年が立ち上がった。
王宮の紋章を胸に刻んだ、王子の弟――レオニス・アルベルト殿下だった。
「加えて、王宮魔術院の記録にも、共鳴魔法は古代の契約魔法であり、危険性よりも安定性に優れると記されています。
私は、王都の魔術研究者として、彼女の魔法が“秩序を乱すもの”ではなく、“守る力”であると証言します」
法廷がざわめいた。
判事たちは再び記録を確認し、静かに頷いた。
「よって、告発は棄却。
セレナ・グランディール嬢は、魔導士としての資格を認められ、王都における魔法使用の自由を許可されます」
法廷が静まり返った。
そして、次第に拍手が広がった。
私はルゥの背に手を添えた。
彼は静かに鳴いた。
それは、勝利の音ではなく――誇りの音だった。
レオニス殿下は、私にだけ聞こえるように、そっと言った。
「君がここに立つことを、僕はずっと信じていた」
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第四章:過去との決別
法廷を出たあと、私はリディアとすれ違った。
彼女は何も言わず、ただ私を睨んだ。
私は、微笑んだ。
「あなたが私を捨てたことで、私は強くなれた。
だから、感謝してる。
もう、あなたの言葉に縛られない」
リディアは何も返さず、背を向けた。
その背に、かつての私がいた。
けれど、もう振り返ることはない。
私は歩き出し、振り返った。
少し離れた場所で、レオニス殿下が静かに立っていた。
「これからも、君の力が誰かを守るなら――僕は、その背を支えたい」
私は空を見上げた。
王都の空は、少しだけ晴れていた。
けれど、私の視線はその先へ向いていた。
王都の空を越え、もっと遠くへ。
「行こう、ルゥ。
この空の下で、私たちが守るべきものを探しに」
風が吹いた。
それは、過去を断ち切り、未来を拓く風だった。




