第20話「リディアの陰謀」
王都からの追手を退けた数日後。
私たちは、北方の都市“リュミエール”に到着した。
魔力研究が盛んなこの都市は、王都の影響を受けながらも、独自の文化と思想を育んでいた。
街は活気に満ち、魔導士たちが広場で実験を行い、商人たちが魔道具を売り歩いていた。
けれど、その賑わいの裏に、私は微かな違和感を覚えていた。
「風が、騒いでる」
リィナがそう呟いたとき、私は胸の奥にざらつくような予感を覚えた。
「セレナ嬢、少しよろしいですか?」
宿の受付で声をかけてきたのは、王都の使者を名乗る女性だった。
彼女は丁寧な口調で、私を“魔導士協会の晩餐会”へ招待した。
「王都の貴族令嬢、リディア・ヴェルシュタイン様が、あなたにお会いしたいと」
その名を聞いた瞬間、空気が冷えた気がした。
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第一章:再会
晩餐会は、魔導士協会の大広間で開かれた。
煌びやかな装飾、魔力で浮かぶ光球、そして集まる貴族と魔導士たち。
私は、かつての社交界を思い出しながら、静かに会場に足を踏み入れた。
そして、彼女はいた。
リディア・ヴェルシュタイン。
かつて私を嘲笑し、婚約破棄のきっかけを作った令嬢。
今も変わらぬ華やかさと、冷たい微笑を浮かべていた。
「まあ、セレナ様。辺境でドラゴンを育てていた令嬢が、こんな場に現れるなんて」
彼女の声は、甘く、そして毒を含んでいた。
「あなたの“共鳴魔法”、とても興味深いわ。
でも、未登録の魔法を使うなんて、危険だと思わない?」
私は微笑んだ。
「危険なのは、力ではなく、それをどう使うか。
あなたのように、言葉で人を傷つける方が、よほど危険だと思うけれど」
周囲の視線が集まる。
リディアの顔が、わずかに引きつった。
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第二章:陰謀の種
晩餐会の後、私たちは宿に戻った。
けれど、翌朝――街の掲示板に、私の名前が貼り出されていた。
《未登録魔法使用者・セレナ・グランディール。魔導士協会の規定に違反した疑いあり》
「……やられたわね」
ミーナが眉をひそめる。
「リディアの仕業か。王都の影響力を使って、ここでも手を回したんだ」
カイルが拳を握る。
「風が、嘘を運んでる」
リィナが静かに言った。
私は、地図を広げた。
「この都市には、古代魔導士の記録が残る“知識の塔”がある。
そこに、共鳴魔法の起源が記されているはず。
それを証明できれば、私の魔法は“危険”ではなく、“正統”になる」
ルゥが静かに鳴いた。
それは、進むべき道を示す音だった。
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