第19話「王都からの追手」
朝の空は、どこまでも澄んでいた。
けれど、その静けさの奥に、私は微かなざわめきを感じていた。
「風が……重い」
私が呟くと、ルゥが低く鳴き、空を見上げた。
彼も、何かを察している。
空気は澄んでいるのに、張り詰めた緊張が漂っていた。
まるで、嵐の前の静けさ。
「風が乱れてる。人の気配が近い」
リィナが目を閉じ、風の流れに耳を澄ませていた。
「セレナ、前方に人影」
ミーナが杖を構えながら言った。
「……ただの旅人じゃないな」
カイルが剣の柄に手を添える。
霧の向こうから現れたのは、王都の紋章を掲げた騎士団。
その中央に立つのは、見覚えのある男――王都騎士団副団長、レオン・ヴァルグレイ。
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第一章:命令と絆
「セレナ・グランディール嬢。王都の命により、あなたを拘束する」
レオンの声は冷静だった。
けれど、その瞳には、恐れと焦りが混ざっていた。
「理由は?」
私は一歩も引かずに尋ねる。
「あなたの魔力は、王都の秩序を脅かす可能性がある。
共鳴魔法は、未登録の危険魔法と見なされた」
私は静かに笑った。
「つまり、私が“強くなった”から、怖くなったのね」
レオンは言葉を詰まらせた。
その沈黙が、答えだった。
「私はもう、王都の令嬢じゃない。
命令に従う理由も、義務もない」
ルゥが一歩前に出て、低く唸る。
その威圧に、騎士たちは一歩後退した。
「セレナ嬢。これは命令だ。従わなければ、力づくで――」
「なら、試してみる?」
ミーナが氷の魔力を纏いながら杖を構える。
「俺たちは、彼女を守る。
命令じゃなく、絆で動く」
カイルが剣を抜いた。
リィナは風をまといながら、静かに言った。
「王都の風は、もう私たちには届かない。
私たちは、自分の意思で進む」
私はルゥの背に手を添えた。
「私は逃げない。
でも、屈しもしない。
この力は、誰かを傷つけるためじゃない。
守るためにあるの」
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第二章:衝突
騎士団が動いた。
魔力の矢が放たれ、剣が閃く。
けれど、私たちは怯まなかった。
ルゥが空へ舞い上がり、炎を吐く。
ミーナが氷の盾を展開し、仲間を守る。
カイルが前線で剣を振るい、敵の動きを封じる。
リィナは風を操り、騎士たちの魔力の流れを乱す。
私は共鳴魔法を発動した。
「共鳴陣・空の守護」
光の輪が広がり、仲間の力が高まる。
「撤退しろ! この力は……制御できない!」
レオンが叫び、騎士団は退却を始めた。
私は彼らの背を見送りながら、静かに言った。
「王都が私を恐れるなら――それは、私が“選んだ力”を持った証」
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第三章:選ぶ者として
戦いのあと、私たちは静かな丘に座っていた。
風が吹き、空は再び澄んでいた。
「セレナ。王都は、あなたを“脅威”と見てる」
ミーナが言った。
「でも、私は“希望”にもなれる。
この力を、正しく使えるなら」
私は答えた。
カイルが笑う。
「なら、俺たちはその希望の“剣”と“盾”ってことで」
リィナは風をまといながら、静かに頷いた。
「風は、選ばれた者に吹くんじゃない。
自ら進む者に、道を示すの」
ルゥが翼を広げ、空へ舞い上がる。
私は彼の背に乗り、空を翔けた。
「私は、選ばれたわけじゃない。
でも、選ぶことはできる。
この力を、誰のために使うかを」
風が吹いた。
それは、覚悟を運ぶ風だった。




