第13話「リィナ」
旅に出て二日目。
空は広く、風は優しく、地平線の向こうにはまだ見ぬ世界が広がっていた。
辺境の村を離れ、私たちは北西へと進んでいた。目的は、村長が語った“霧深き森に住むエルフ”に会うこと。
彼らはこの地の魔物の動きに詳しく、王都襲撃の手がかりを握っているかもしれない。
そして今、目の前に広がるのは、濃い霧に包まれた静かな森。
空気は澄んでいるのに、どこか異質な気配が漂っていた。
私は足を止め、呟いた。
「霧の深き森……ここなのかな」
ルゥが低く鳴き、霧の奥を見つめる。
その視線の先から、かすかな気配が近づいてきた。
木々の間から姿を現したのは、数人のエルフたち。
彼らは私とルゥを見て、ざわめいた。
「リィナの予言通りだ。竜を連れた者が来た」
「リィナを呼べ」
その言葉に、私は息を呑んだ。
“予言”――私の旅は、すでに誰かに知られていたのか。
やがて、霧を割って現れたのは、一人の銀髪のエルフ。
静かな瞳で私を見つめながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「待っていたわ。魔物の出現の件よね」
彼女の声には、確かな覚悟と深い理解が込められていた。
私は頷き、王都の襲撃、魔物の異常な行動、そして私の旅の目的を語った。
彼女は黙って聞いていたが、やがて静かに言った。
「深界が原因よ。魔力の歪みも、魔物の異常も、すべてそこから始まってる。
だから――私と深界へ行きましょう。これからあなたが出会う二人と共に」
その言葉は、まるで運命の扉を開く鍵のようだった。
風が静かに吹き抜け、霧が道を示すように揺れた。
私は深く頷いた。
霧の森を抜け、世界の底へと歩みを進める時が来たのだ。




