第30話:帰還の道
夜の戦場を離れ、アーサーは疲れ切ったクラリッサを馬に乗せ、必死に手綱を握って走らせていた。
クラリッサはアーサーの背にしがみつく力も残っておらず、彼の腕に支えられながらぐったりと体を預けている。
「もう少しだ、クラリッサ……」
アーサーは息を荒げながらも、妹の体温を確かめるように抱き寄せた。
やがて、前方に見慣れた影が現れる。
ロトだ。
その背にはアメリアがしがみつくように乗っており、彼女もまた深い眠りに落ちていた。
アーサーが馬を止めると、ロトが安堵の表情で振り返る。
「ご無事でなによりです、アーサー様」
アーサーはクラリッサを抱え直しながら、苦笑を浮かべた。
「……ああ。あれだけの戦闘で、我が隊が無傷とは……奇跡だな」
ロトは眠るアメリアをそっと支えながら言う。
「アメリア様とクラリッサ嬢は……我が国の最後の砦ですな」
アーサーはその言葉に小さく頷き、遠く崩れ落ちたノルディア城を見つめた。
「情けないが、その通りだ……規格外だからな。
竜の巫女の末裔であるアメリア様。
そして、伝説の剣士と魔法使いの血を継ぐクラリッサ……」
アーサーは眠る妹の髪をそっと撫でる。
「最強の二人だよ……本当に」
ロトはアーサーの横顔を見て、穏やかに微笑んだ。
「アーサー様も……十分に規格外ですよ」
アーサーは驚いたように目を瞬かせ、そして照れくさそうに笑った。
「……ありがとう、ロト」
夜風が二人の間を吹き抜け、静かな余韻を残した。
戦いは終わっていない。
だが、今だけは――仲間が生きていることに感謝する時間だった。




