第29話:魔王の間
ヴァルゼリア帝国――魔王の間。
黒水晶で築かれた広大な玉座の間は、冷たい闇に包まれていた。
玉座に座る魔王ザルグは、金髪の長い髪をなびかせ、美しい顔にわずかな歪みを浮かべる。
「……グレゴールが死んだか……」
その声は低く、しかし玉座の間全体に響き渡る威圧感を持っていた。
側近の美少女アミバが一歩前に進み、恭しく頭を下げる。
「そのようですね……魔導波が完全に消えました。元人間とはいえ、グレゴールはかなりの魔力を誇っていたはずですが……まさか敗れるとは」
ザルグは瞳を細め、冷笑を浮かべる。
「……映像を見せろ」
「はい。グレゴールの視界映像を送ります」
アミバが魔導水晶を操作すると、空間に映像が浮かび上がる。
そこには戦場の光景――筋骨隆々としたレオニードに、少女アメリアが拳を叩き込む瞬間が映し出されていた。
雷鳴のような衝撃が走り、レオニードの巨体が揺らぐ。
ザルグの瞳が鋭く光り、口元に笑みが広がる。
「……これは……セレナだ……いや、セレナの末裔か」
アミバは驚き、思わず声を漏らす。
「魔王様……?」
ザルグは立ち上がり、長い髪を揺らしながら玉座の間を歩き出す。
「行くぞ、アミバ。面白い展開になってきた……コマを進める!」
アミバは困惑しながらも従う。
「……??」
ザルグは不気味な笑みを浮かべ、闇に響く声で宣言した。
「王都を……セレナの王都を固めるぞ……くっくっく……」
その笑い声は玉座の間を満たし、帝国全体に不吉な予兆を広げていった。




