第21話:雷牙の継承
エルダーン領内――武道場。
領主であり、雷牙流の宗家でもある公爵カイル・エルダーンが館長兼師範代を務める場所。木の床は磨き上げられ、壁には歴代の剣豪たちの名が刻まれていた。
その静謐な空間に、少年アーサーの声が響き渡る。
「じっちゃん! じっちゃん! クラリッサがすごいんだよ!」
父エドガーが眉をひそめる。
「これ、アーサー。じっちゃんは稽古中だ。騒ぐんじゃない」
だがカイルは豪快に笑い、手を止めた。
「まあまあいいじゃねえか。で、クラリッサがどうしたんだ?」
アーサーは興奮気味に身振り手振りを交えながら叫ぶ。
「すごいんだよ! 剣技を出したんだよ! あの光るやつ!」
カイルの目が鋭く光る。
「……マジか?」
「マジだよ! マジ!」アーサーは必死に訴える。
その横でクラリッサはもじもじと視線を落とし、頬を赤らめていた。
「わ、私……」
カイルはゆっくりと歩み寄り、木剣を手渡す。
「やってみろ、クラリッサ」
クラリッサは小さな手で木剣を握りしめ、深呼吸をした。
「……えい!」
次の瞬間――。
木剣の先から雷光が迸り、武道場の空気を震わせた。
床板が鳴り、壁に掛けられた旗が揺れる。
「……こいつは驚いた……すげえ……」カイルは目を見開き、低く唸った。
「しかも……かすかに氷の気も感じる……」
エドガーは信じられないという顔で娘を見つめる。
「……クラリッサ、いつからこんな技を……」
クラリッサは木剣を抱きしめるように持ち、震える声で答えた。
「……さっき……初めてできたの……」
武道場に沈黙が走る。
カイルは深く息を吐き、決意を込めて声を張り上げた。
「……至急ミーナを呼んでくれ!」
その声は武道場全体に響き渡り、クラリッサの運命が大きく動き出す瞬間となった。




