第9話:ノルディア城別館・貴賓室
ノルディア城の別館、豪奢な貴賓室。
大きな鏡の前で、王女アメリアとプリンセスガードのクラリッサが侍女に身支度を整えられていた。
本来なら王女の隣に並んで支度を受けるなど異例のこと。
だがクラリッサは幼い頃からアメリアの親友であり、その絆ゆえに許されている。
アメリアは鏡越しに侍女へ微笑みかける。
「……後は、私たち2人で支度するわ」
侍女は恭しく一礼し、静かに部屋を後にした。
残された二人は、化粧道具を手に取りながら肩を並べる。
クラリッサが口元を緩め、からかうように言った。
「……すごいイケメンなんでしょ、婚約者様。レオニードだっけ?」
アメリアは少し間を置き、ため息混じりに答える。
「……まあね……会うのは1年ぶりだから、変わってなきゃいいけど」
クラリッサは眉を上げ、じっと友を見つめる。
「……あまり気乗りしてないね〜」
アメリアは視線を落とし、化粧筆を動かしながら呟いた。
「……なんかね……本性が見えないっていうか……」
クラリッサは腕を組み、少し考えるように首を傾げる。
「……う〜ん……嫌ならやめちゃえば……なんて言えない環境だよね」
アメリアは苦笑し、鏡に映る自分を見つめる。
「国がらみだからね……私は王女なんかより、冒険者になりたかったな……」
クラリッサはその言葉に静かに頷き、友の肩にそっと手を置いた。
「……でも、どんな場でも私がそばにいる。だから頑張れるでしょ?」
アメリアは少し照れながらも微笑み返す。
「……ありがとう、クラリッサ」
鏡の中には、王女と騎士でありながら、幼き頃から変わらぬ親友同士の姿が映っていた。




