第8話:城壁の影
ノルディア城の高い城壁。
その上から、ひとりの青年が冷たい眼差しで雪原を見下ろしていた。
レオニード・ノルディア王子――王国の第二王子にして、密かに暗躍する者。
「……おい……なぜあの女が生きてる……」
背後に控える影が、震える声で答える。
「申し訳ございません、失敗しました」
「キングワイバーンは出したのか」
「はい、間違いなく……ですが、瞬殺されました」
レオニードの眉がひそめられる。
「キングワイバーンだぞ!我が軍でも100人がかりでやっと倒せる化け物だぞ!
それを瞬殺だと……あの化け物、アメリアか」
影は首を振る。
「いえ……近衛騎士のクラリッサです」
「はぁ……ありえんだろ」
「それが……レベル400でして……」
レオニードの目が見開かれる。
「……はぁ?400? 学生だよな!」
「……はい……」
影はさらに声を落とす。
「ちなみにですが……アメリア王女ですが……」
「……なんだ」
「……レベル1150です……」
沈黙。
レオニードの口から、かすれた声が漏れる。
「……人間なのか……俺はあの化け物アメリアと結婚させられるんだぞ……」
冷たい風が城壁を吹き抜け、王子の疑念と恐怖、そして焦燥を深く刻み込んでいった。




