第5話:雪原の襲撃
白銀の雪原を進む王家の馬車。
吐息が白く舞い、車輪の軋む音だけが静寂を破っていた。
しかし――突如、雪原の影から十数体の白熊型モンスターが姿を現す。
その巨体と咆哮に、護衛たちは一瞬息を呑んだ。
「全員、隊形を整えろ!」
鋭い声が響く。指揮を執るのは――
アーサー・エルダーン。
若き天才指揮官。祖父は剣聖カイル・エルダーン、祖母は魔導士ミーナ・エルダーン。セレナと並ぶ英雄の血を継ぐ者。
クラリッサは即座に馬車の屋根へと跳び上がり、周囲を警戒する。
「アメリア、馬車から出ないで!」
だが馬車の中でアメリアは拳を握りしめ、唇を噛んでいた。
「……私だって戦えるのに。どうしていつも守られてばかりなのよ」
その瞳には、祖母セレナの血を継ぐ者としての誇りと焦りが宿っていた。
アーサーは剣を抜き、雷を纏わせる。
「――雷牙!」
雷光が走り、白熊型モンスターの群れを一閃する。
さらに彼は剣を振り上げ、陣を展開する。
「轟閃陣!」
雷刃が三重に広がり、雪原を轟音と共に切り裂いた。
十数体のモンスターは瞬く間に倒れ、雪に沈む。
しかし――上空から影が覆いかぶさる。
「キングワイバーン……!」
巨大な翼を広げ、咆哮と共に急降下してくる。
クラリッサは屋根の上で両手を掲げ、氷の魔力を解き放つ。
「――氷獄葬華!」
氷の花が咲き乱れ、瞬時に巨大な結界を形成。
氷の華が鋭い刃となり、キングワイバーンの翼を切り裂き、空中でその動きを封じる。
氷の嵐が吹き荒れ、王国の馬車を守るように輝いた。
雪原に静寂が戻る。
アーサーは剣を収め、クラリッサに視線を送る。
「見事だ、クラリッサ」
クラリッサは肩で息をしながらも、淡く微笑んだ。
「兄上こそ、おじいちゃん譲りの雷牙だったわ」
馬車の中でアメリアは悔しげに拳を握りしめる。
「私も……戦いたかったのに」
その呟きは誰にも届かず、雪原の静寂に溶けていった。




