第4話:ノルディアへの道
王都を出て、ノルディアへと続く街道。
馬車の揺れに合わせて、アメリアは窓の外を眺めていた。
「……はぁ。晩餐会なんて面倒くさいわ」
アメリアは頬杖をつき、退屈そうに呟く。
クラリッサは隣で姿勢を正し、少し堅い声で答える。
「王女様、これはただの食事会ではありません。ノルディアとの友好を深める大切な場です」
アメリアはむっとして振り返る。
「クラリッサ、その喋り方やめて。二人きりなんだから、いつも通りにしてよ」
クラリッサは一瞬驚き、そして小さく笑った。
「……わかったよ、アメリア。じゃあ言うね。あんた、気が進まないのはわかるけど、行かないわけにはいかないでしょ?」
アメリアは唇を尖らせる。
「わかってるけど……婚約者にどう思われるかとか、そういうのばっかりでしょ。私、そういうの苦手なの」
クラリッサは肩をすくめ、優しく諭す。
「苦手でも、国の未来のために必要なことだよ。戦場で剣を振るうのも勇気だけど、人前で笑顔を見せるのも勇気なんだ」
アメリアは一瞬黙り込み、視線を逸らす。
「……勇気って、そんなに種類があるのね」
クラリッサは柔らかく頷く。
「うん。セレナ様もそうだった。剣で戦うだけじゃなく、人の心をつなぐ力を持っていたんだよ」
アメリアは少しだけ頬を赤らめる。
「……クラリッサって、ほんと説教上手ね」
馬車の前方、護衛として並走するアーサーがちらりと振り返る。
彼の視線は自然とアメリアに向かい、真剣な眼差しを宿していた。
クラリッサはその視線に気づき、わずかに微笑む。
「アメリア、あんたを支えたいと思っている人は、戦場にも、そしてここにもいるんだよ」
アメリアは窓の外に目を戻し、照れ隠しのように小さく呟いた。
「……別に、誰かに支えられなくても平気なんだから」
しかしその声は、馬車の揺れに紛れてもなお、どこか柔らかく響いていた。




