第3話:王城の影と魔王の気配
エルミナ城、玉座の間。
荘厳な空気の中、魔導モニタには静止画が映し出されていた。
そこに映るのは――返り血にまみれ、勝利の笑みを浮かべるアメリア王女の姿。
「……なんて姿を晒すの!」
王妃セラフィーナが声を荒げる。
その瞳には怒りと不安が入り混じり、王女の未来を案じる母の心が滲んでいた。
クラリッサが一歩前に進み、深く頭を下げる。
「プリンセスガードの私がついていながら申し訳ございません」
セラフィーナは首を振り、厳しい声で返す。
「クラリッサちゃん、あなたは悪くないわ。一部始終見ていましたから……これはアメリアの暴走よ」
アメリアは腕を組み、そっぽを向いて口を尖らせる。
「べ、別に暴走なんかしてないわ!ちょっと力を出しすぎただけで……みんなを守るためだったんだから!」
その時、場を包むような柔らかな声が響いた。
「もうよいでしょう、セラフィーナ。クラリッサも、アメリアも……みんなよくやりました」
そこに立っていたのは、王家の大母后――
セレナ・エルミナール。
かつては セレナ・グランディール として幾度も王国を救った伝説の英雄。
今はただ、家族を優しく見守る存在として玉座の間に立っていた。
「アメリアはまだ若いのです。力の使い方を学んでいる途中……失敗もあるでしょう。けれど、あの子は誰かを守りたい一心で動いたのです。その気持ちを誇らしく思いますよ」
アメリアは一瞬驚き、頬を赤らめて視線を逸らす。
「べ、別に……褒められても嬉しくなんかないんだから!」
国王アルフォンスは重々しく口を開く。
「……まあ、アメリアも反省しているし……念のためアーサーも同行させている。大事には至らんだろう」
セレナは微笑みながら続ける。
「アルフォンス、あなたもよく考えてくださっていますね。家族を思うその気持ちが、国を支える力になるのです」
場の緊張が少し和らぐ。クラリッサも肩の力を抜き、安堵の息を漏らす。
しかし、クラリッサは眉をひそめたまま口を開く。
「それでも……キングオークがなぜあの場に現れたのでしょう。通常の討伐祭に出るはずがありません」
アルフォンスも険しい顔になる。
「……確かに。偶然とは思えん」
セレナは静かに目を閉じ、低く呟いた。
「ザルグ魔王……あの者の影が再び動き始めているのかもしれませんね」
玉座の間に重苦しい沈黙が落ちる。
だがその中で、かつて王国を救った伝説の大母后セレナの優しい声だけが、家族を包み込んでいた――。




