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Fランク召喚士、ペット扱いで可愛がっていた召喚獣がバハムートに成長したので冒険を辞めて最強の竜騎士になる  作者: ケンノジ


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大したことはしてないのに


 倒れている二人は、親切なマッチョに担がれて医務室のほうへ連れていかれた。


「不快な気分にさせて悪かった」


 再びクエストを探しはじめたフェリクに俺は言った。


「あなたが謝ることではないでしょう」


 ぺらり、とクエスト票をめくって裏面を確認するフェリク。


「そうだけど、間接的に俺が原因だったわけだし……一緒にいるとこういうことがよく起こるぞ」

「そう」


 他人事のようにフェリクは返事をした。


「あなたのほうが強いのだから、ちゃっちゃとブチのめしてしまえばよかったのに」


「俺がやったってわかってたのか」

「よくよく考えると、そうとしか考えられなかったから。ねえ、力を隠すのはどうして? 騒ぎにならないようなやり方で処理したでしょう?」


「ランクや力が知られると、俺を利用しようと面倒な企みに巻き込もうとするやつが出てくるんだ」

「体験談?」

「王都以外を拠点にしたこともあって、そのときにちょっとな。それで、そうなるくらいなら、侮られているほうがいいって思ったんだ」

「面倒な人。その上、お節介で優しい」


 褒めてるのか貶されているのかよくわからない。

 フェリクがため息をついた。


「キュックの特性を活かせそうなクエストって、案外見つからないものね」

「ああ、それなら、荷運びじゃなくてもいいと思う」

「え?」


 俺は目星をつけていたクエスト票を確認して、受付へ行く。


「クエスト票三九番の商人の護衛を」

「Cランククエストですね。そちらは、パーティ推奨となっております」


 俺とキュックなら他にメンバーは要らないが、この推奨ってやつが厄介だった。

 ソロで受けて失敗するとギルド側の責任になるので、推奨とは言っているが、事実上必須。


「失礼いたしました。そちらの方がパーティメンバーの?」


 振り返ると、フェリクが堂々とうなずいていた。

 俺とキュックでやるつもりだったが、この際いいだろう。


「はい。問題ないでしょう?」


 こくり、と受付嬢はうなずくと、愛想のいい笑みを浮かべた。


「ステルダム様の実績でしたら、まず間違いはないかと存じます」

「ずいぶん信用されているのね」


 険のある声に振り返ると、フェリクが半目で俺を見ていた。


「そりゃ、ランクがランクだからな」

「冒険者様の間では、ステルダム様のことを変にからかわれることが多いようですが、実直で期日や数量を間違えたことのない、優秀な方です」

「ずいぶん気に入られているじゃない。……ディナーに誘うのはこの子のほうがいいんじゃないかしら」


 膨れっ面になったフェリクは、プイとそっぽをむいてカウンターから離れていった。


「あ、おい。何怒ってんだ」


 呼びかけるがまるで無視。くすくす、と受付嬢の笑い声が聞こえてくる。


「と、とりあえず手続きを進めてください」


 かしこまりました、と言う受付嬢に俺は冒険証を預け、事務手続きを済ませた。






 その商人は、城門近辺にいるという。


 冒険者ギルドをあとにすると、待ち合わせ場所までの道中フェリクが尋ねた。


「商人の護衛よ? 荷物を運ぶクエストじゃなくていいの?」

「要は、目的地まで安全に行きたいってことだろ。ならそれは『荷物』と言ってもいいだろう」


 なるほど、とフェリクは納得したようだった。

 そうやって歩いていると、待ち合わせ場所が見えた。


「あぁ、先日の! ジェイさん!」


 この前助けた商人――今日は依頼人となるマークさんが手を振っていた。そばには荷馬車がある。


「どうも。もう大丈夫なんですか?」

「お陰様で。大変お世話になりました。……今日は護衛の冒険者を待っているのですが、もしかして」

「はい。俺とこのフェリクが道中お守りします」

「あぁ、それはよかった。顔見知りで安心しました」


 冒険者を辞めるつもりのやつは、こういうタイミングで商人を逆に襲ったりすることがある。

 だから、不安になるのもわからないでもない。


 俺とフェリクはマークさんと握手をした。


 目的地を改めて確認すると、王都から南東にある山を一つ越えたジェリカの町に商品を買いつけに行くという。


「ジェリカでしたら、おそらく……昼すぎには到着するでしょう」


 俺は太陽の位置を確認して言う。


「かしこまりました。三日ほどであれば、食料を準備していますので、お腹が空いたときはお申しつけください。と言っても、あるのはパンと干し肉程度ですが」

「ああ、今日ですよ、今日。今日の昼すぎ」


「はあ?」


 目をぱちくりさせるマークさん。

 まあ、説明するよりも体験してもらったほうが早いだろう。







「た、高い! 速い!」


 マークさんがはしゃいだように声を上げていた。

 キュックの背には、前からフェリク、俺、マークさんの順で乗っている。今のところキュックに疲れは見えない。

 すぐに往復できるので、フェリクには待ってもらうつもりだったが、強引についてきた。


 キュックの足元では、荷台ががっしり爪で捉まれている。馬は運べないので置いてきている。あちらで馬を借りれば済むことだ、とマークさんは言った。


「マークさんもこれで治癒師のところまで運んだんですよ」

「そうでしたか。意識が朦朧としていて。ははは……」


 そんな雑談をしていると、「ギャァ」という鳴き声が聞こえてきた。

 後ろを振り返ると、魔鳥エアロホークがこちらを追いかけてきていた。

 かなり大型の個体だ。


 巣に近づいたわけでもないのに、こんなふうに人間と接触を図ろうとするはずはないんだが。


「いやぁ、あんな鳥も見られるのですねぇ」


 のん気に言うマークさんの手に、何かを握っているのが見えた。


「マークさん、それ何ですか?」

「ああ、これは、昨日息子が城外から拾ってきた綺麗な石で、お守りとしてくれたんです」


 あの子か。綺麗な貝殻を俺にくれた。

 水色と黄色のマーブル模様で、たしかに何も知らなければ綺麗な石に見えるだろう。


「マークさん、ほのぼのファミリーエピソードしてる場合じゃないですよ」

「はあ?」


 後ろの俺たちに気づいて、フェリクが振り返った。


「どうかしたの?」

「マークさんが、今後ろから追いかけてきている魔鳥の卵を持っている」


「「ええええええええええええええ!?」」


 俺の前後で驚きの声が上がった。


「それ卵なの?」

「卵なんですか、これ」

「その模様と色は、エアロホークの卵です」


 ツイてないと言うべきか、エアロホークは飛行速度は世界最速と呼び声高い。


 戦うしかないな。


「おじさん、今すぐ捨てて!」

「わ、わかりました!」

「あー、捨てても意味ないですよ。あの魔鳥からすると『卵持っているあいつ許さん』ってなっているので。捨ててもこっちに来ます」


「「ええええええええええええええ!?」」


 キュックは頑張って飛んでくれているが、人間三人に荷物の荷車を爪で掴んでいる。

 二〇〇キロ以上の重りをつけている状態だ。

 これ以上速くというのは酷だろう。


「わかったわ! おじさんを降ろせばいいんだわ!」

「バカちん。本末転倒だろ」


 ごすっ、と俺はフェリクに手刀を食らわせる。


 そんなことをしている間に、ぐんぐん距離が縮まっていく。


「ギャァァァ! ギャァアッ!」


 近くで見ると大きさがよくわかる。

 下手するとキュックよりもデカい。


「私に任せて! ――フレイムショット!」


 フェリクが後ろへ向けて火炎魔法を放った。

 だが、それはあっさりとかわされてしまう。


 二発目、三発目も同じだった。


「くぅぅ……! あの鳥! 速いわ!」


 空中だが、俺がやるしかないか。

 マークさんと位置を変わってもらい、俺は最後尾に移動する。


 狙いは俺じゃなくてマークさんか、俺たちが乗っているキュックのどちらかだろう。


 地上にいるときは、弓がなければ相当手を焼く魔鳥だ。

 だが、こうして目線が同じ高さなら――斬撃が届きやすい場所に来てくれるのなら話は別だ。


「ギャアアッ!」


 目を見ると相当怒っているのがわかった。

 ここまで大きな個体だと、あの硬いクチバシは一撃で人間に穴を空けるだろう。


 エアロホークが突っ込んでくる。

 俺ごと後ろのマークさんをやる気だ!


 拳よりも大きなクチバシが眼前に迫る。


 剣を抜き放った瞬間、クチバシをいなすようにして斬り上げた。

 ガギッ、と鈍い音を上げた刹那、鋭い爪が見えた。


「お互い運が悪かったな」


 爪が届く一瞬前。

 俺は剣をエアロホークに叩きつけた。


「ギャァッ――!?」


 悲鳴を上げたエアロホークは、錐揉みしながら落下していった。


「「い、一撃で倒した!」」


 二人の声がそろった。


「卵を持ってきてしまったこっちが悪いから、峰打ちにしておいた。冷静になれば、マークさんを襲ってくることももうないでしょう」


「あ、ありがとうございます」

「ジェイがいなかったら、大変なことになっていたわ……ね、キュック」

「きゅ?」


 何が? とでも言いたそうなキュックだった。


 子供が拾えるところに落ちている時点で、卵は魔物か何かの餌になってしまっただろう。

 お互いツイてない。


 俺はマークさんから卵を預かり、エアロホークが落下する方向へ卵を投げた。


「割れちゃうわ」

「石並みに硬いから大丈夫だ」


 ちゃんと孵化すればいいが。


 思わぬハプニングはあったものの、ジェリカの町にマークさんを無事届けることができた。


「こんなに速いとは……! 盗賊の心配もないしすごく便利ですよ、ジェイさん」


 自分が提案したことが褒められたのが嬉しかったのか、フェリクが得意げな顔をしている。


「いえ。この子のおかげですから」


 キュックの首筋をぺしぺし、と叩くと「きゅぉ」と小さく鳴いた。


「どうか、これを受け取ってください」


 マークさんが紙幣を三枚差し出してきた。


「いやいや、報酬はギルドからもらえるので大丈夫ですよ」

「私のような町と町を行き交う商人にとって、時間と安全はお金に勝ります。こんなチップじゃ安いくらいです」

「そうですか? それじゃあ、いただきます」


 頑なに断るのもどうかと思い、俺はチップを受け取ることにした。

 あとでフェリクに渡そう。元々このやり方を勧めてくれたのはフェリクだ。


 それでは、とマークさんは空の荷台を引いて去っていった。


「大したことはしてないのに、感謝される」


「あんな大きな鳥をぶちのめしておいて、大したことはしてないって……あなたの感覚どうかしてるわ」


 呆れたようにフェリクが笑う。


「それに。マークさんにとって大したことだから、ああして感謝されるのよ」


 そうだろうか。

 いや、そうなんだろうな。


 フェリクにチップのお金を渡すと、町の肉屋で塊肉を買っていた。


「キュックにあげるの」


 チップはキュックの餌として消えていった。

 それをひと口で食べたキュックは、とても満足そうにしていた。

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