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Fランク召喚士、ペット扱いで可愛がっていた召喚獣がバハムートに成長したので冒険を辞めて最強の竜騎士になる  作者: ケンノジ


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外契約



 俺の発言を宣戦布告と受け取った男は、剣を抜いた。


「運び屋風情に舐められたもんだぜぇ」


 ゲヘヘ、と下品な笑みを浮かべてのそりと家から出てくる。


「やっちまいしょ、兄貴!」

「男は殺してオンナだけ捕えましょう」

「オンナの相手、兄貴の次はオレだからな?」


 ぞろぞろ、と奥から手下らしき男たちが出てきた。

 全員で二〇人を超えている。

 さっき見えたのはほんの一部だったらしい。


「やるわよ、ジェイ! 誰になんと言われても、私はやるわ!」

「ああ。強制退去のお時間だ。平和的手段はすべて拒否された。存分にやってやれ」


「ええ。人の別荘に汚い足で入り込んで……絶対に許さない!」


 盗賊たちは、色街の女を見物しているかのように、フェリクが何か発する度に下卑た笑い声を上げて鼻の下を伸ばしていた。


「逃げるんなら今のうちだぜぇ?」

「それはこっちのセリフだ」


 俺が言うと、大爆笑が巻き起こった。


「たった二人で? オレたち全員を相手に?」

「こりゃいい! 久しぶりにこんなに笑ったぜ!」


 盗賊たちは、剣を抜いたり抜かなかったり。俺とフェリクの脅威度はそんなもんなんだろう。

 すぐ後ろにいると思っていたキュックが散歩をしているらしく、姿が見えない。


「おーい、キューック?」

「きゅ」


 木陰からキュックが顔を覗かせた。


「ど、ドラゴン…………? こ、こんなところに? い、いや、そ、そんなはずは」


 兄貴と呼ばれた男がごしごし、と目をこする。

 俺が手招きをすると、ドッドッド、と体を揺らしてやってきた。


「「「「や、やっぱりドラゴンだ――――ッッッ!?」」」」


 俺は駆け寄ってきたキュックに乗り、剣を抜いた。


「もう一度言う。逃げるんなら、今のうちだぞ」

「しゃらくせえ! なめやがって! 小型のドラゴンに乗ってるからっていい気になってんじゃねえぞ!」


 全員が殺気立ち、武器を構えた。

 そのときだった。


 そばにいないと思っていたフェリクがいつの間にか離れており、そこから魔法を放っていた。


「ほぎゃぁあ!?」


 密集していたので二人に魔法が直撃。炎に包まれた。


「あ、あれ?」


 あまりに不意を上手く衝きすぎたせいか、フェリクがぽかんとしている。


「い、いいのよね?」

「もちろん。どんどん撃ってくれ」

「オッケー!」


 巻き舌で聞き取れない何かを喚きながら、男たちが迫ってくる。


「キュック」


 足でぽんとキュックを蹴ると、翼をはためかせ、その場から浮き上がり屋根より高い高度を取った。


 キュックの背びれに掛けていた弓を取り、矢をつがえ一矢放った。


 唖然としている棒立ちの人間なんて、的にしかならない。

 俺が放った矢は、狙い通り一人の太ももに突き立った。


「うぎゃぁあ!?」


「空からだとぅ!?」


 もういっちょ。

 ガヒョッ、と放った矢は、混乱する男たちの一人に命中。

 また短い悲鳴が上がった。


 俺に気を取られたせいで、敵はフェリクの魔法の対処に遅れた。

 直撃を受けた一人が炎上して地面を転げ回った。


「ま、まままっま、待て待て待て待ておまえぇぇぇぇえ! 空からなんて卑怯だろうがぁぁぁぁぁあ!」


 兄貴と呼ばれた盗賊が喚いている。


「卑怯? 負け犬のセリフにぴったりだな」


 俺はひとり言をつぶやいて、ニ矢をつがえて撃つ。

 なすすべなく、また男二人に命中した。


「クッソ……剣で――! 剣で勝負しやがれぇぇぇぇぇえ!」


 狼藉を働く盗賊相手に、フェアに戦ってやる意味はないと思うが、仕方ない。


「それが望みなら――行くぞキュック」

「きゅぉぉぉ!」


 バサりと翼を動かしたキュックが急降下していく。

 地面すれすれを這うようにキュックが飛行。

 驚きに目を瞠る兄貴に顔すら瞬時に目の前にやってきた。


 即座に抜いた剣で兄貴が握る剣を弾き飛ばす。


「ぬおおぉお――!?」


 他の手下たちは、兄貴を置いて別荘の中に逃げはじめた。


「オレの剣が、吹っ飛ばされた…………!? ――て、てめえ、ナニモンだ!?」


 すいー、と泳ぐかのようにキュックはまた上空に戻ってきた。


「運び屋だ。子竜を使役している召喚士でもある」

「はぁぁ? 剣も弓も、なんつー腕をしてやがる! 召喚士がこんなに強いわけねえだろうが!」


 こいつ、文句しか言わないな。

 まあ、一般的な召喚士でないことはたしかではあるが。


「ジェイ、私は中に入った男たちをやるわ」

「わかった。気をつけろよ!」

「……徹底的にやってやるわ。あいつもこいつも、全員炭に変えてやるんだから……ッ!」


 フェリクは怒らせないようにしよう。


「おまえたちが出ていってくれればいい。それでおまえたちはこれ以上怪我をしないで済む」


 気持ちが完全に折れそうな兄貴に、俺は伝えた。


「どうだ。サインしたくなったか?」

「な、なった! なったなった! さ、させてくれぇい! 頼むぅぅ……」


 現金な男だ。

 だが、こいつらがここを出ていったあと、また別の場所で同じことを繰り返すだろう。

 どうしたものか。


 俺はキュックに着地してもらい、背中から降りた。

 手続き用に紙とペンとインクを準備し、男へと近づく。

 サインしたところで、ニナには真偽をたしかめる術はないだろうが……。


「文字は書けるか? 書けなければ模様でも紋章でも――」

「なぁんてなッ!」


 落ちていた手下の剣を拾った男が斬りかかってきた。

 振り下ろした斬撃を鼻先でかわし、すれ違う寸前、俺は一歩踏み込み顎に拳を叩きこんだ。


「ぶホォアッ……」


 ぐるん、と瞳が白目を剥いてその場に倒れた。


「……なんなんだ、こいつ」


 俺がため息をつくと、キュックがガブ、と男の頭をくわえた。


「こらこら。お腹壊すぞ。ぺってして、ぺって」


 俺の言うことをきちんと聞いてくれたキュックは、ぺっと男を吐き出した。

 そこで目を覚ました。


「なんて一撃だ……。体が、言うことを聞かねえ……」


 キュックのツバでデロデロになっている男は、起き上がろうとするがなかなか動けないでいた。


「こんなやつ、殺してもいいが……」


 実際キリがない。盗賊に身をやつし悪さを働く者はあとを絶たないし、こいつを見逃しても殺しても、大差はない。


「おい、おまえ。盗賊団の頭領なのか?」

「……ああ」

「人数はあれで全員か?」

「そうだ」


 もしかすると、使えるかもしれない。

 成功すれば、だが。


 召喚獣と契約する方法は二種類ある。

 ひとつは、術者の実力に応じてどこからかやってくる内契約。

 ふたつめは、目の前にいる魔物や魔獣と契約する外契約。

 キュックは前者だ。


 ……物は試しだ。やってみるか。


「理を結び、汝とここに契約せん」


 俺は召喚魔法を発動させた。


「ん? んんんんんんんんほぉおおお!?」


 変な叫び声と同時に頭領の体が光り、それが消えてなくなった。


「何かに縛られたような感じがしたが、不思議とイヤじゃなかったぜ……何なんだ、今のは」


 首をかしげて自分の両手と体を見回す頭領に、俺は命じた。


「戻れ(バック)」


 その瞬間、シュン、と頭領が消えた。


「うわ、マジかよ」


 むさくるしい盗賊団の頭領を召喚獣として契約してしまった。

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