表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
8章 特別な日に、特別な贈り物を
92/262

ロブさん張り切る①

 その人は驚くほど美人であでやかだった。アデリーナや、チョコレートで変身したロゼッタにも引けを取らないどころか、彼女の方が美しいのではと思えるほど。黒髪は右目を隠すように長く垂れ下がり、ふっくらとした唇は赤く色づいている。純白のワンピースを纏う姿は清楚で奥ゆかしさを感じさせるが、浮かべる微笑みは妖艶で、金の瞳を向けられるとなんだか魅入られそうになる。


 ただ美しいけれど、どことなく影のある女性だな、と思った。


「えっと、はじめまして。今日は私になにか御用ですか?」


「ええ、そうなの。錬金術師であるあなたにご相談したいことがあってね。プレゼントを贈りたい男性がいるの」


「彼氏さんですか?」


「うーん、少し違うかしら? でも、ここ最近はずっとその人のことばかり考えているわ。とっても強くて、いざというときに頼りになる人。その人の驚く顔が見たいから、サプライズでプレゼントを用意しようと思って」


「その気持ちわかります。ちょうどいま、私もこれから友達に向けてプレゼントで渡す品物を調合しようと思ってまして。あっ、でも急ぎのご依頼であればもちろん優先させていただきます!」


「ううん、今日は相談に来ただけだから。でもそうね、よろしければ調合の様子を見せてもらってもいいかしら? 私、すごく興味があるわ」


 ニーナはその提案に少し戸惑った。興味を持ってもらえることはありがたいが、プレゼントは心を込めて作りたい。だからできることなら一人で調合に励みたかった。


 とはいえ、せっかく来てもらったお客さんを追い返すのも気が引ける。


「調合に集中することになりますので、あまりお話しできないと思いますが、それでもよろしければ」


「ええ、もちろんそれでかまわないわ」


「では、狭いところではありますが、どうぞなかへお入りください」


 そうしてニーナは扉を開けて、名も知らぬ女性を家のなかに招き入れるのであった。







 そのころロブたちは<風紋>と呼ばれる魔法陣の一種を利用して、マヒュルテの森の西部へとやってきた。東西南北と中央の五つのベースキャンプ場に設置されている<風紋>を駆使して転移することで、目的としている<パンギャの実>の群生地にもそれほど苦労することなく辿り着くことができるのである。


 ロブは思う。この空間転移に使われる<風紋>とは素晴らしい技術だ。怠け者の自分にぴったりである。しかも世界樹が生み出す膨大なマナを利用したシステムであるため、転移時に魔力をごっそりと持っていかれる心配もない。<風紋>を生み出した人物はさぞや儲けたのだろう。


「さてと、それじゃあさっさと素材を集めて帰りましょ」


「えー、そんなに張り切らなくてもゆっくりすればいいじゃん」


「あら、早く帰ってダラダラしたくないの?」


「いや、まあ、ダラダラしたいけど」


 ニーナには、せめて昼の十二時過ぎまでは足止めできるように粘ると約束してしまった。何度か失敗することも考えて、少なくとも三時間は調合に時間をあげたいと思ったのである。だからあんまりにも早く帰ることになると、シャンテにバレる恐れがあるのだ。


「二人だし<ハネウマブーツ>でかっ飛ばしていくから、早く後ろ乗って」


 しかし、こう言われてしまうとどうしようもない。あんまり普段と違う行動を取ると、それはそれで疑われてしまいそうだ。

 だからロブは渋々といった様子で、いつものようにシャンテに背負われた。


 シャンテが軽く膝を曲げて、そして地面を強く蹴った。

 するとそれだけで、あらゆる景色を置き去りにしていく。

 ニーナが一緒だとあれもこれもと採取したがるので、道中は非常にゆったりとした歩みになるのだが。


 ──ごめん、ニーナ。なるだけ粘るってカッコつけたけど、この調子じゃ一時間もしないうちに帰ることになりそうなんだぜ。


「そういや、今日は<ワイヤーバングル>を装備してたんだっけ」


 それは<青空マーケット>でニーナに頼んで購入してもらった魔法の品だ。以前にも手にしていたことがあるのだが、長旅の資金繰りに困って手放してしまっていた。イベントである程度稼げる見込みがあるということで、久々に買い戻した次第である。


「せっかくだし色々と試しながら走ってみたら?」


「そうね。この速度で走りながら、それでもワイヤーを狙ったところに放てるのか、試してみてもいいかもね」


 シャンテはまた強く地面を蹴って、空を舞う。そして右斜め前に見える切り立った断崖の先に狙いを定めてワイヤーを真っすぐに放った。


 しかし走りながらということもあり、その狙いはわずかばかり左に逸れてしまうのだが、けれど手にしているのは新型の<ワイヤーバングル>なのである。すぐさま軌道修正して、見事、ワイヤーは断崖の先に命中。


 そのまま体をぐっと引き寄せて崖の上へと到達した。


「どう、見事なものでしょ?」


「おう、こりゃあ驚いたぜ」


 と、ロブが言い終わらぬうちに再びシャンテは駆けていく。


 そのあともワイヤーを駆使しながらジグザグに森を突き進んでいく。しかも猛スピードで。

 ロブは、ワイヤーの練習に時間をかけることで少しでもその歩みを遅らせようとしたのだが、<ハネウマブーツ>と自在に軌道を変えられる<ワイヤーバングル>との相性が良すぎて、企てた作戦は残念ながら失敗に終わってしまった。


 そうこうしているうちに、もうはや<パンギャの実>が成るエリアへと到着してしまった。これを採取してしまえば今日の目的は達成されてしまう。そうなれば冗談抜きで、一時間もしないうちに帰ることに。


 ──ここで俺が<パンギャの実>の匂いにやられて気絶してしまえば、またウルドの滝まで連れて行ってもらえるんじゃね?


 そうなれば滝つぼにて水に揺られながらゆっくりする時間が取れるかもしれない。そう思い、ロブは勝手にシャンテの背中から飛び降りて、樹木の真下へ行こうとした。


 ──さあ憎きケポポホッパども。俺に<パンギャの実>をぶつけてこい。


 ところが数歩も行かぬうちに、キュートなお尻にピタッとくっつくものが。

 それは<ポインタ>と呼ばれる、ワイヤーバングルの先端部分である。


「勝手にどこ行こうとしてんのよ。ここでは役立たずなんだから大人しくしときなさい」


 ──や、役立たず?

 いつもなんだかんだいって頼りにしてくれる妹から、役立たずと言われてしまうなんて。

 ロブは、珍しく本気でショックを受けた。


 こうなったら兄としての威厳を見せなくてはならない。

 変身、バトルボアーモード! ロブは体を巨大化させると、パンギャの木に目掛けて一直線。


「あっ、こら、待ちなさい!」


 そんな兄を制止しようと、シャンテはワイヤーにぐっと力を込めた。

 が、あまりの体格差の違いに、ワイヤーもまるで意味をなさない。


 ──どしんっ!


 ロブは勢いそのままに樹木に激突。パンギャの木は前後に激しく揺れた。その衝撃で、頭上からは大量の<パンギャの実>とケポポホッパが落ちてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ブーツとバングルで空飛ぶ並みに縦横無尽に行動できるように! [一言] 何やら怪しいお客がww 早く帰って来るのだー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ