プレゼント大作戦開始!
「ごめんね、急にいけなくなって」
「気にしないで。それより手伝わなくていいの? 足りない素材があるようなら、アタシがひとっ走りして買ってくるけど?」
「ううん、家であるもので作れるから大丈夫」
それはシャンテの誕生日まであと二日と迫った日のこと。
朝食を終えて、三人揃ってマヒュルテの森へ行こうとしたところへ、一通の<魔法文>が飛んできた。
手紙の送り主は、ニーナが日ごろからお世話になっている魔法雑貨店のメイリィから。
内容は<バケツ雨の卵>を大量に欲しがっている人がいるから急いで調合してもらえないか、というものだった。隣町の消防団が噂を聞きつけて買いたいと言ってくれているのだとか。
仕事の依頼が入ったのなら仕方がない。もともとの予定をキャンセルして、ニーナは調合に取り掛かることにする。
ただシャンテとロブまで付き合わせる必要はない。だから二人には予定通り森に行ってもらって、フルーツポーションの材料となる<パンギャの実>の採取をお願いしたのだった。
「そっか、そういうことならアタシと兄さんは森まで行ってくるわ」
「おう、ニーナも頑張れよ」
ロブがシャンテに見えない位置から意味ありげにウインクを送ってくる。
そう、実はこれは演技。メイリィからの手紙も嘘。すべてはニーナが確実に一人の時間を確保するために、メイリィに協力してもらって一芝居打っているのである。もちろんこのあと調合するのは<バケツ雨の卵>ではなく誕生日プレゼントだ。
すっかり嘘の依頼を信じたシャンテが玄関へと向かう。その後ろをロブがとことことついていく。
しかしロブのその姿にシャンテは違和感を覚えたらしい。兄さん、今日はやけに素直じゃない、と勘繰るのだ。
「いつもならニーナが行けないなら今日は休みにしよーぜ、とか、なにかと理由をつけて怠けようとするはずなのに」
さすがはシャンテちゃん。とても鋭い。
「い、いやー、そんなことはねーと思うんだぜ」
「……」
「俺だってやるときはやると言いますか、ニーナが行けないからこそ、俺が張り切っちゃうんだぜ」
シャンテは妙にやる気になっている兄にじとーっ、と疑惑の視線を送るが、やがて大きく息をつく。
「……まあいいわ。どのみち<パンギャの実>は絶対に必要なんだし、そこまで言うなら今日は兄さんにうんと頑張ってもらおうかしら。ニーナが新しく作ってくれたアレもあることだし」
「お、おう。どんと任せとくといいんだぜ」
微笑む妹の前でたじたじになっているお兄さん。
ロブさん、笑顔がひきつってますよ。
頑張ってね、と二人を見送って、そうして一人になったニーナはさっそく調合の準備に取り掛かる。錬金釜にどろどろの<マナ溶液>を注いで、それを<ヴルカンの炎>で温める。淡い緑色の、意志を持った炎だ。
それから膝元の引き戸を開けて、棚から素材が入った瓶を手に取っていく。
この扉は錬金術師であるニーナしか開けることが無いので、プレゼントが完成したら、ここに隠す予定だ。
「えっと、<シアバター>と<薬効ツユクサ>と、それから<ローズヒップオイル>と、あとは……あれ?」
──<太陽石の粉末>がない。
作ろうと思っているのは、ロブと話した通り、太陽光からマナを得るハンドクリームである。名付けて<ソーラー充力ハンドクリーム>。その素材として使おうと用意していた<太陽石の粉末>がどこにもないのだ。
「そんなわけないよね……」
ニーナは床に膝をつき、引き戸のなかに頭を突っ込む勢いで体を乗り出しながら、棚のなかをくまなく探す。
が、しかし、やはりどこにも見当たらない。
「おっかしーな。たしかに他の素材と一緒に買って棚に直したはずなのに」
<太陽石の粉末>は昨日素材屋で購入したばかり。フレッドが紙袋に入れ忘れたのだろうか。いやでも、たしかに瓶は四つあったはずだ。
──悩んでても仕方ないか。ロブさんたちが帰ってくるのはまだまだ先だろうし、ちゃちゃっと買いに行ってくれば済む話だよね。
そんなに高い素材でもないし、あれはそのうち見つかればいいだろう。それよりいまはシャンテのプレゼントを確実に用意することの方が大切だ。
ニーナは一度<ヴルカンの炎>を止めて、炎を保管用のランタンのなかに戻す。それから帽子と<小言うるさいガマ口財布>を手に取り、外に出ると、なだらかに続く下り坂を駆け降りていった。
◆
「いやぁ、それにしても不思議なこともあったもんだ」
ニーナは買ったばかりの紙袋を抱えながら、延々と続く上り坂を歩いていた。
<太陽石の粉末>は問題なく買えた。フレッドからはこちらの不手際だったかもしれないと謝られたが、そんなことはないです、たしかに家に帰った時点で瓶は四つありましたから、と伝えた。お金もきちんと支払ってから店をあとにした。
とはいえ、ニーナ自身もどうにも腑に落ちなくて。
「瓶は四つとも、ちゃんと取りやすいところに並べたと思ったんだけどな」
仮に素材がシャンテに見つかったとしても、なにを作ろうとしているのかまでバレるはずがない。だからニーナは堂々と手に取りやすい場所に置いておいた。それが一つだけなくなっているなんておかしいと思うのだ。
そんなことをぶつぶつ呟きながら最後の坂を登り切ったとき、ニーナはあれ、と首を傾げた。家の前に黒髪の、おしとやかそうな女性が佇んでいる。知らない人だけど、お客さんだろうか。ニーナはためらいがちにあのぅと声をかけた。
「あら、こんにちは。あなたがニーナさんね」
金色の瞳を持つ美しい女性はそう言ってふわりと微笑んだ。




