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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
8章 特別な日に、特別な贈り物を
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蜘蛛とネズミと鳥

 蜘蛛は登る。煙突をするすると。

 すすで汚れた煙突の内部を通りぬけると、爽やかな風が吹き抜ける青空の下に出た。暗闇に目が慣れていた蜘蛛は、外の日差しの強さに思わず目を細める。


 屋根の上で待っていたのは鼻が曲がったネズミと、醜い姿の鳥だ。鳥はここ数日の出来事が影響して、羽毛が抜けて禿散らかしていた。


「どうだった?」


 訊ねてきたのはネズミのほうだ。


「面白い話が訊けたぜ。シャンテが次の祝日に誕生日を迎えるらしい」


「なるほど、そいつはたしかに面白い」


 ネズミは深く頷いた。いかにも、魔女様が好きそうな話だと思ったからだ。

 魔女は、この家の人間に恨みがあるらしい。どんな恨みなのかは機嫌を損ねる恐れがあるので訊いていない。しかし、どうも手傷を負わされたことがあるらしく、しきりに傷がうずくと言っていた。どこまで痛いのか、そもそも本当に傷がうずくのかは疑わしいが。


 ──それにしても、あの喋るブタが俺たちと同じアニメタモルの呪いを受けた者だったとはな。


 ロブは、一部ではそこそこ名の知れた大魔法使いだったらしい。魔女討伐の依頼を受けたロブは、魔女との戦いで呪いを受けることとなったが、結果として魔女自身も深く傷を負った。その傷を癒すために魔女は劇薬を口にしたそうだが、しかし薬の後遺症で傷が癒えたいまでも体が気だるくて、外に出るのも億劫なのだとか。こうして自分たちにシャンテとロブの動向を探らせているのも、魔女自身が自由に動けないからなのだろう。


 蜘蛛が話を続ける。

 

「あのちっちゃな錬金術師がプレゼントを調合するらしい。で、明後日にでもブタがシャンテを森へと連れ出して、そのあいだに錬金術師が調合に取り掛かる。そんな計画を立ててたな。シャンテが帰ってきたから、そこで話は終わってしまったけどよ」


「いや、じゅうぶんな手柄だ。魔女様のもとに報告に向かおう」


「おいおい、俺もか? バッカスだけでじゅうぶんだろ」


 蜘蛛は、羽毛が抜けて悲惨な格好をしている鳥へと目を向けた。

 鳥は、自分一人であの場には帰りたくないとばかりに、首を激しく横に振る。


「……三人で帰ろう。ジェイコブがいてくれたほうが、より正確な報告ができるはずだ」


 本当は、ジェイコブにはまた家に戻ってもらって詳しい話を訊いてもらった方が良いと思ったが、オドはそうしなかった。魔女に呪われた者同士、助け合わなくてはいけない。だからバッカス一人を魔女のもとに返すようなことはしたくなかった。ネズミとなってしまったオドと、鳥となったバッカス。そして蜘蛛となったジェイコブ。この広い世界を生きていくには、誰一人欠けちゃいけない。


「はいはい、わかったよ。三人で魔女に報告しよう」


 ジェイコブは頷いて、鳥の背中に乗った。オドも同じように背中にしがみつく。

 鳥は不格好な姿で羽ばたいて、ニーナの家のすぐ裏手に広がる森へと姿を消した。







「へー、面白そうな話じゃない」


 報告を受けた魔女は目を細めて笑った。どうやら今日は機嫌がいいらしくて、オドはほっと胸をなでおろす。あの忌まわしき白い猫も、いまはベッドの上に丸まって大人しく眠っているようだ。


 呪いをかけられてからの日々は散々だった。小さくなったオドたちを猫が追い回し、魔女はそれを見て笑った。特にネズミに姿を変えられたオドはしつこいぐらいに猫に追い回された。なんとかベッドの下にもぐったり、飾られた植物の影に隠れたりしてやり過ごすことで、どうにか生き延びた格好だ。


 そんなこんなで獲物を捕まえることができなかった猫は、なにを思ったのか、途中から標的をバッカスに変えた。家具を伝って跳躍し、バッカスの羽をむしり取ろうとするのだ。


 そうして四六時中追い掛け回されることとなったバッカスは鳥かごのなかに逃げ込んで、自分で籠の扉を閉めたが、すると猫は鳥かごの隙間から腕を伸ばしてバッカスを引っ掻こうとした。だから籠のなかの鳥は恐怖に体を震わせ続けることとなった。おかげで、たった数日でバッカスの羽毛はストレスから抜け落ちて、いまは見るに堪えない姿となってしまっている。猫に標的とされなかったのは、天井に張り付ける蜘蛛のジェイコブだけだった。


「それで、いつ彼女たちは別行動をとるのかしら?」


「話を訊いた限りでは、明後日にでも行動に移すようです。詳細についてはまだ話し合われていないので、もう一度行って確かめてこようと考えています」


「そう。ではそうしてちょうだい」


「あの……」


 なにかしら、と魔女はオドに微笑みかける。

 これから言おうとしていることを既に見透かしているような目を向けられて、オドは言葉を呑み込みそうになるが、それでも踏み込んで質問してみた。


「もし俺たちがうまくやって、魔女様の念願が叶うようなことがあれば、俺たちは元の姿に戻していただけるのでしょうか?」


「そうねぇ……考えておくわ」


 この微笑みをどうとらえるべきか。魔女は気まぐれだから、約束を取り付けたとしても平然と無かったことにされる可能性はじゅうぶんにある。そう考えれば、前向きに検討してもらえるだけでも一歩前進と言えるかもしれない。


 報告すべきことは魔女に伝えた。もうここに長居は無用である。あの猫が目を覚ます前に、また魔女が気まぐれで命令を押し付けてくる前に、一刻も早くここを離れなくては。オドは魔女に深く頭を下げて、バッカスたちとともに急ぎニーナたちが暮らす家へと戻るのであった。

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