ニーナのアトリエの致命的な弱点
フクロウの置物が告げた順位は四十七位。これは参加店舗数が九十を超えることを考えると、決して悪い数字ではないのだろう。しかし掲げていた目標は高く、しかも手ごたえを感じていたこともあって、それはもうニーナの落胆は大きかった。隣では、シャンテも同じように言葉を失っていた。かろうじてロブが、まぁ悪くはないよな、と言った。
そう、決して悪くはないのだけれども。
「なんで? どうして?」
口をついたのは疑問の言葉。淡い期待は儚くも消えてしまった。
それでもニーナはまだ信じることができなくて。
「ねえ、フクロウさん。本当に私たちのお店は四十七位だったの?」
「間違いないホー。<ひよっこ印のニーナのアトリエ>の順位は四十七位なんだホー」
「それじゃあ三位の店舗はどれぐらい稼いだか分かる?」
「もちろんだホー。三位の店舗は13万4000ベリルなんだホー」
えっ、私たちの三倍以上……?
ニーナは思わずシャンテと顔を見合わせる。
これは一体どういうことだろう?
「そ、それじゃあお隣の<ヒューイの錬金細工店>はどうなの?」
「上位十店舗以外の稼ぎは教えられないけど、順位なら教えられるホー。お隣さんは三十位なんだホー」
「私たちより上なの?」
ニーナは愕然とした。立ち寄ってくれたお客さんの数はニーナたちの店の方がずっと多かったはず。それなのに自分たちの方が順位が下だなんて納得がいかなかった。
居ても立っても居られず、ニーナはヒューイの店の前まで行く。
すると、すぐにあることに気が付いた。
──商品が私たちのお店よりもずっと高価なんだ。
ヒューイの店のアクセサリーを中心に販売している。指輪やネックレスや耳飾りなど、錬金術によって作成された魔法の品々だ。これらは持ち運びに便利で、しかもお洒落だということもあって、大勢の人が有難がって身につけている。ありきたりと言えばありきたりだが、根強い人気を誇るジャンルなのだ。
店の前で突っ立っていると、いらっしゃい、と声をかけられた。ニーナは驚いて肩をビクつかせた。丸眼鏡をかけたラフな格好の男性で、歳は三十に届かないぐらいだろうか。
「なにか用かい?」
「あっ、いえ」
ニーナは偵察まがいのことをしている自分に後ろめたさを感じて、その場をそそくさと離れた。けれどすぐには自分の店に戻らず、周りのお店の商品を一通り眺めてから、シャンテのもとまで戻った。
「どう? なにかわかった?」
「うん、みんなどこも私たちのお店より値段設定が強気だった。隣のヒューイさんの店なんかはアクセサリー類全般が一律3000ベリルで、しかも二つまとめて買うと、どの組み合わせでも5000ベリルに割り引いてくれるんだ」
「やられた、まとめ売りか。差額1000ベリルはけっこう大きいから、そりゃあ訪れたお客さんはみんな二つずつ買っていくでしょうね」
なんでそんな簡単なことに気付かなかったんだろう、とシャンテは悔しそうに唇を噛む。
高いものをより多く。たとえ割り引いたとしても、一人で5000ベリルぶんのお買い物をしてくれるのならば、たった八人を相手にするだけでニーナたちの売り上げとほぼ同額だ。高額な商品が売れればそれだけ売り上げも伸びる。わかってはいたつもりだけれど、実際に計算してみて、あらためて思い知らされた気分だった。
ニーナは自作の発明品を眺める。<バケツ雨の卵>と<つむじ風の卵>は200ベリル。<ヤギミルクたっぷりヌルテカ泡ぶろ入浴剤>も同じく200ベリル。<気まぐれ渡り鳥便箋>は三枚組で500ベリルであり、<大人顔負けグラマラスチョコレート>は三個入って1000ベリルである。
これまでに売り上げたなかでもっとも高額な商品は<絶対快眠アイマスク>だが、それでも価格は2000ベリルだったりする。
──でも、価格設定自体は間違ってないと思うんだよね……
実は、どの発明品も安いのにはいくつか理由があった。一つはメイリィに、あまり高額な商品は売れないのでは、とアドバイスを貰っていたこと。もう一つは、基本的にニーナの発明品はリンド村でも手に入るような安価な素材を使用しているということ。
さらに一番の問題は、ニーナの発明品は使い切りの品物ばかりだということ。一度使って終わりの入浴剤に高い金を払う客がいないように、売り上げを取りたくても安易に商品の値段を上げることができないのである。
つまりは並べる商品の選定ミスということになるのだが……初めてお店を開くニーナは、いまになってようやくそのことに気が付いた。
──こんなんじゃ、いくらお客さんに来てもらっても入賞なんて無理だよ……
<調合品部門>は上限価格が1万ベリルとなっている。当然ながら、その枠いっぱいの価格に設定してある商品だってあるのだろう。それが五つ売れれば自分たちの店より売り上げることとなる。もしかしたら、初めから勝負になっていなかったのかもしれない。どうせ改良するなら<ハネウマブーツ>に賭けるべきだった。万人受けするものでなくてもいいから、価値ある商品を強気の値段で売り込むべきだったのだ。
──錬金術師として無名な私が価格を高く設定したって売れないと、自分で決めつけてた。シャンテちゃんは私の発明に期待してくれていたのに、もしかしたら私が一番自分の発明に自信を持てていなかったのかも。悔しいなぁ。
ニーナとシャンテが暗い顔をして落ち込むと、まあまあ、とロブがなだめるような声で言った。
「いまさら悔やんだって仕方ないと思うんだぜ。それに商品を買ってくれたお客さんはみんな喜んでたんだ。やってることはなにも間違ってないし、ニーナはもっと自分の発明を誇っていいと思うんだぜ」
「うん……」
「ほらほら、そんな暗い顔してたらさ、可愛い顔が台無しなんだぜ。接客はスマイルが大事。ほら、笑って笑って」
ロブは、今回の結果次第で自分の呪いを解けるかどうかがかかっているというのに、なんてことないという風に笑っている。この結果に一番嘆きたいのはロブのはずなのに。
「わかったよ、ロブさん。くよくよしてるあいだにお客さんに逃げられたら悲しいから、笑うことにする」
「そーそー、その調子なんだぜ」
「商品はいま並べてあるもので勝負するしかないけど、せめてこれを全部売り切れるようにお客さんを呼び込んで、来てくれた人に一つでも多く買ってもらおう」
ニーナが意気込むと、シャンテも力強く頷く。
「そうね。とりあえず隣でやってるまとめ売りはアタシたちの店でもすぐに取り入れられるし、入浴剤なんかは三つまとめて500ベリルにしたら売り上げも伸びると思うんだけど。それに<大人顔負けグラマラスチョコレート>も効果は凄いんだから、ここは自信をもって3000ベリルに設定したらどうかな。それでもし売れなくなったら、価格を戻してやればいいんだし」
「そうだね、そうしてみよう。紙もペンも用意してるから、すぐに値札を書き換えるよ」




