ひよっこ錬金術師は夢を語る②
「……って、ちょっと、ロブ!?」
ニーナとシャンテが言い合う、その隣に座っていたロブが前足を器用に使って、ぐいっと、<激辛レッドポーション>を勢いよく飲み始めた。しかもまさかの一気飲み。見ていて気持ちの良い飲みっぷりに、ニーナはロブに拍手を送る。
「さあ、シャンテちゃんも!」
キラキラとニーナが目を輝かせれば、その純粋なるお願いを無視するわけにもいかなかった。
シャンテは意を決したように深呼吸して、そして小瓶に口をつける。
「う、ぐっ……か、辛い!」
吹き出しそうになるのをなんとか堪えたシャンテは身悶えしながらも、両目をぎゅっとつむって辛さに耐える。額や首筋にはうっすらと汗がにじみ出ていた。
「どうかな二人とも?」
「おー、かなり刺激的だったけど俺は飲めるぜ。効果はまだわかんないけど、体中が熱くて、なんか効いてる感じするわー」
まだ悶えているシャンテよりも先に、ロブが飄々とした口調で感想をくれた。ロブにとっては特別辛かったわけではないみたいだ。ブタさんは人間より痛みに強いのかもしれない。そもそも飲んでよかったのかは謎だけど。
その一方で、ニーナの隣ではシャンテがかばんから水筒を取り出し、水をがぶがぶと飲んでいた。ぷはー、と飲み終えたあとも、はぁはぁと肩で息をしている。そして少し落ち着いてから、ロブの感想に文句を言い始めた。
「こ、これが刺激的という程度の表現で済むなんて、絶対におかしい! アンタ、最近いよいよ舌が馬鹿になってるんじゃないの? アタシに言わせてみれば殺人級よ。むしろダメージを負ったんじゃないかってぐらい舌がヒリヒリしてるわ! これで大した効き目じゃなかったら訴えてやるんだから!」
「ふふーん。効き目ならバッチリ保証するから、実感できるそのときを楽しみにしててよ!」
ニーナが胸を張って答えると、その自信はどこから来るのよ、とシャンテは呆れた様子でため息をついた。
どうやら信じてくれていないようだけれど、この反応は慣れっこだから気にしない。二人とも試してくれてありがとう、と笑顔でお礼を言った。
「別にニーナのためじゃないわよ? ただ試さないのは勿体ないと思っただけ。ほら、さっきも言った通りアタシは魔女として? 色々と知識をね、得ようと思っただけなんだから」
「ふふっ。ありがと、シャンテちゃん」
「そのニヤケ顔、なんかムカつくわね。……まあいいわ。それより、こういうのってどうやって作るの? アタシ、魔法の道具のお世話になることはあっても、作り方とか詳しく知らないのよね。興味あるわ」
「えっと、鍋みたいなものをぐるぐるかき混ぜて、かな」
「鍋? <レシピ>って言葉といい、なんだか料理みたいね」
「そうなの! レシピとは調合法のことで、錬金術って料理に似ているだけど、意外と繊細というか、火の温度調節や材料投入のタイミングとか、それから煮詰める時間とか、とっても大事で! 鍋のグツグツ具合とか、錬金スープの色合いとか、そういうのを見極める圧倒的才能と閃きが、錬金術師、ひいては発明家の必須条件なの! まあでも、私が作れるのは所詮ガラクタばっかりなんだけどね。……でも! もうガラクタ発明家なんて言わせない。これからクノッフェンに行って、もっと腕を磨いて、凄い素材も手に入れて、そしてみんなをあっと驚かすような、そんな発明をしてみせる。そのために私は村を飛び出したんだ! ……って、初対面なのに、こんないきなり熱く語り過ぎちゃってごめん。困るよね?」
……しまった。
興味を持ってくれたことが嬉しくて、つい語り過ぎてしまったと後悔する。
ところがシャンテは、いいじゃない、とニーナの夢を肯定してくれた。
「夢は大きい方がいいと思うし、ニーナは口だけじゃなく行動もしてる。そんなの無理だと笑う人もいるかもしれないけれど、アタシはそういうの好きだな。応援するよ」
「ほんと!?」
リンド村ではいくら夢を語っても笑われるのが当たり前だった。それは単なるわがままだと切り捨てられた。村の人から見ればニーナは錬金術師ではなく、失敗ばかりの<ガラクタ発明家>であり、クノッフェンで生きていくなんて身の丈に合わないと馬鹿にされてきた。いつだって味方はおばあちゃんだけ。家族にすら呆れられていた。送り出してはもらえたが、きっとそのうち帰ってくると思われていることだろう。
そう、誰もニーナの夢が叶うなんて信じてくれない。
それなのにシャンテは応援してくれた。まだ出会って間もないというのにだ。嬉しくて、胸のうちに熱い想いがこみ上げてくる。
「ありがとう! 私、みんなの悩みをババンと解決できるぐらい、すっごい錬金術師になれるよう頑張る! だからなにかお困りごとがあったときは、シャンテちゃんもぜひ私を頼ってね!」
「まったく、まだまだ駆け出しのひよっこ錬金術師のくせに、なに偉そうに言ってんのよ。生意気なこと言う前に、まずはポーションの味を改良しなさい。……でもまあ、なにかしでかしてくれそうな予感はするし、応援するとも言っちゃったし、仕方ないからクノッフェンにいる間ぐらいはニーナのこと注目してあげるわ!」
こうして意気投合した二人(と一匹)は、その日の宿を共にし、翌日の馬車も同じものに乗った。それぞれの家探しが上手くいくまでは協力し合おうねと、自然とそういう話になっていた。
よく晴れた日。抜けるような青空のもと、馬車に揺られること二時間弱。
ニーナたちはついに、旅の目的地である工房都市クノッフェンへと辿り着いた!




