やることがいっぱい!
「へぇ、あんたたち<青空マーケット>に参加する気なのかい」
ニーナたちの話を訊いた店主のメイリィは、面白いものでも見つけたみたいに笑った。
「たしかにあのイベントは錬金術師の新作発表の場にもってこいだからね。いいんじゃないかい」
「私も自作の発明品をアピールするいい機会だと思ったんですけど、実際どんなイベントなのか想像もつかなくて。それでこの街で暮らすメイリィさんになにか教えてもらえないかなと思って訪ねてみたんです」
「なるほどね。あんたのそういう行動力のあるところ、あたしは好きだよ」
「えへへ、ありがとうございます」
「しかし、なにから教えてあげればいいのかねぇ」
メイリィはレジスターの隣に置かれたチラシを手に取った。シャンテが持ち帰ってくれたものと同じ、<青空マーケット>の募集要項が書かれたものである。もう一通り目を通したかい、という問いかけに、はい、と頷きを返す。
「それじゃあブースの大きさや、テーブルや椅子の貸し出しがあることも知ってるね」
ブースの大きさは一辺が三メートルの正方形。これはちょうどニーナとシャンテが手を繋いだ長さと同じぐらいだ。また事前に申し込んでおけばレジャーシートやテーブルなども貸してもらえる。別途費用はかかるが、わざわざ買うよりかはずっと安価である。
「ここ数年毎年開催されているイベントで、今年でちょうど十回目のイベントになるんだけどね、去年は凄く盛況だったから、今年も客の多さには期待していいんじゃないかな」
「お客さんはなにを求めてこのイベントに参加するんですか?」
「そりゃあ人それぞれだから一概には言えないけれど、一つ言えるのは、お客は掘り出し物を探してるってことかな」
「掘り出し物、ですか」
「そうさ。便利だけどどこにでもありそうなものより、ここでしか手に入らないものが欲しいのさ。高くても一際優れた商品を買いたい人や、まだみんなが注目していないであろう珍しい代物を探している人とか、まあ色々だね。だからあたしが言うのもなんだけど、ここに持ってきてもらったけれど契約しなかった商品も、<青空マーケット>では売れるかもしれないよ」
そっか。没となった商品はどこを探しても売られていない、いわば幻の逸品。レア度だけなら満点だ。コレクター気質の人からすれば、もしかしたらお宝に見えるかも。これはちょっと期待してもいいのでは?
などという甘い考えが、ついつい顔に出てしまっていたようで。
「い、いたた……!」
なにニヤケてんのよ、とシャンテにほっぺをつねられた。
「あはは、あんたたち面白いね。けどたしかにシャンテの言う通り、ニヤケている場合じゃあない。発明品を並べただけじゃ売れないだろうから、売るための努力は惜しんじゃいけないよ」
そうです、それが訊きたいんです、とニーナは身を乗り出す。
「具体的にはなにをどうすればいいと思いますか?」
「それはあんたたちが考えて工夫するところだと思うし、それこそ客商売の醍醐味だと思うけど、そうさねぇ、まずは特に売りたいものを一つか二つ、決めることだね」
「えっと、商品をいっぱい並べちゃだめってことですか?」
「並べるだけならいいけれど、どれもこれも平等に並べるんじゃなくて、これ、と決めたイチオシの商品を目立たせた方がお客さんに興味を持ってもらいやすいんだよ。スペースを広くとったり、たくさん山積みしたり、可愛らしい値札を付けてみたり、置く場所を工夫したりと、とにかく目立たせたせる。長机だとスペースが限られるけれど、だからこそメリハリをつけた売り場にする。そして興味を持ってもらった客に、ここぞとばかりにセールスポイントをアピールするのさ」
なるほど、メリハリか。それに目立たせる工夫も必要と。
「もしかして看板なんかも用意した方がいいでしょうか?」
「そういうのも大事だね。イベントでは他にたくさんの錬金術師が出店してるだろうから、まずはお店に立ち寄ってもらう工夫が必要さ。いま言った看板もそうだし、あとは試供品を用意したりね」
「試供品というと、商品をタダで配るってことですか?」
「そうそう。例えばうちに納品してくれている<激辛レッドポーション>を試してもらうとか」
そっか。味はともかく効果には自信があるんだから、試してもらうだけでも……
「ああ、でも、私のポーションは即効性がないんですよね」
いやいや、その前に味が大問題でしょ、とシャンテちゃん。
「あれをそのまま試飲させたら、店の前は阿鼻叫喚の地獄絵図よ」
「そ、そこまで言うかな」
「試供品を配るのは賛成。でもあのポーションを試飲してもらうつもりなら、味の改良は絶対よ」
「えぇ……ロブさんはどう思う?」
「馬鹿舌の兄さんに意見を求めるな」
ぴしゃりとニーナは釘を刺される。
ロブのことを兄さんと呼んだシャンテに、メイリィは不思議そうに首を傾げていた。
「まあ、味の改良はあんたたちに判断を任せるとして、うちの店からすれば、試供品を配ってくれたらありがたいね。そうしてくれれば、店に来てくれるお客が増えることも見込めるしさ」
そっか、とニーナは頷く。
「いまのところこの店が独占販売してますもんね。イベントが終わったあとに欲しいと思ったお客さんは、おのずとこの店に買いに来ることになるんだ」
「そうそう。たとえ即効性がなくとも、ニーナの発明品の効き目が優れていることを知ってもらえればそれで十分なのさ。もちろん二人は、やるからには儲けたいと意気込んでるんだろうけど、それ以上に宣伝することが大事なんじゃないかい」
つまりイベントが赤字でも、今後の契約につながればいいということか。それにメイリィの店でポーションが売れれば、当然ながら納品数量も増える。それはつまりニーナの手元も潤うということを意味する。
とはいえ、だ。
「メイリィさんのアドバイスはもっともだと思います。でも私たちはどうしても上位三店舗に選ばれて、副賞の錬金素材を手に入れたいんです」
「そうなのかい? ……うーん、気持ちはわからなくもないよ。やる気があるのもいいことさ。ただそれでもあたしはやっぱり儲けは意識しないほうがいいと思うけどねぇ。売れ残りそうな商品があったら途中から値下げしたり、値引き交渉にも柔軟に応じたりして、とにかく多くのお客さんにあんたの発明品を手に取ってもらうこと。そうしてニーナという錬金術師の名前を売っていけば、それが後々クノッフェンで生きていくうえで役に立つはずさ。まだこの街に来たばかりなんだし、焦らずじっくりお客さんと向き合った方がいいんじゃないかい?」
目先の利益よりも、名前を売ることが大事。メイリィのいうことはもっともだと思うけれども。
「アタシは……アタシはニーナには頑張って欲しい!」
突然、ここまでずっと唇を結んだまま険しい表情をしていたシャンテが声を大にする。話の流れに思うところがあったのだろう。ただ唐突だったこともあり、メイリィは面食らったような顔をする。
「錬金術のことだし、アタシが無理強いしていいことじゃないのかもしれないけれど、でも兄さんのためにもこの機会は絶対に逃したくないんだ。ねぇ、アタシも頑張るからさ、力を貸してくれないかな?」
シャンテはいつになく真剣だった。あぁ、本気なんだと、この機会に本気で賭けているんだとあらためてニーナは実感する。だからこそニーナも、その眼差しを真正面から受け止める。
「もちろんだよ、シャンテちゃん! ようはたくさん商品を手に取ってもらえるよう工夫して、赤字だろうと売って売って売りまくって、そうして売り上げも人気もどっちも追いかけちゃえばいいんだよ。そういうことですよね、メイリィさん?」
「……まあ、それもいいんじゃないかい。ちょっと前のめりなのが気になるけどさ」
仕方ない子たちだね、とでも言いたげにメイリィはゆるりと息を吐く。けれど反対はしなかった。どうやら挑戦を見守ってくれる気でいるようだ。
「ロブさんもマスコットブタとして手伝ってくれるよね?」
「おー、いいなそれ。美人に声かけまくってもいいよな?」
「うん、今回に限って許します」
「よっしゃ、当日が楽しみになってきたぜぇ」
早くもやる気になってくれたようでなにより。ニーナはにこりと微笑んだ。
そしてもう一度立ち上がって、シャンテの方に向き直る。
「ありがとね、シャンテちゃん」
「えっ、なにが?」
「先にここにきてよかったよ。あのまま突っ走ってたら、たぶん<青空マーケット>の準備はほとんどなにもできなかったと思う。最低限の準備にすら手間取って、名前を売るための工夫にまで手が回らなかっただろうな」
「そうかもね。でも感謝するならアタシの方こそだよ。無茶なお願いを聞いてくれてありがと」
あらたまってありがとうと言われると、なんだかこそばゆく感じてしまう。
「とりあえず何から始める?」
「そのことなんだけど、私ね、イベント用になにか新しい商品を開発しなきゃと思ってたけど、やっぱりやめる。その代わりに、いままで失敗したレシピを見返して、それを改良して商品化しようと思うんだ。そっちの方がゼロから考えるより時間もかからないと思って」
それにメイリィから、没になった商品も<青空マーケット>でなら売れるかもしれないと言ってもらえた。これはニーナにとって紛れもなく朗報である。もちろんここから改良を重ねて、雑貨店のほうでも契約が取れれば言う事無しだ。
「いいじゃない。ニーナにしては堅実な考えだと思う」
「ふふん、でしょ? それでね、どれを改良して売り込むことにするのか、レシピ帳を見ながらシャンテちゃんにも一緒に考えて欲しいんだ」
「もちろん協力する。やるからには入賞なんて言わずに、目指すは優勝一択よ!」
「いいねっ、優勝しちゃおう!」
そうしてニーナたちはメイリィにお礼を言って店を出る。友達となにを作るのか、あれやこれやと相談できるなんて、これはこれでわくわくする。坂道を上るニーナたちの足取りは知らず知らずのうちに速くなっていくのであった。




