世界樹の守り神と頂きの景色②
目的であった<輝く世界樹の葉>を手にしたニーナたちは、そのあとしばらくのあいだ、頂上からの景色を思い思いに楽しんだ。カメラで景色を撮影したり、改めて手紙を書いてみたり。ここに来るまでに手に入れた素材の瓶を並べてはニヤついてみたりもした。<ヒバードの卵>に<輝く世界樹の葉>、さらには<オオユグルドの羽>という思わぬ副産物まで手にすることができて、ニーナはご満悦だ。
ニーナはあらためて頂きからの景色を見る。オレンジ屋根の民家が連なる街並みからは、細長く伸びる煙がいくつも立ち上っている。白い煙は調合が成功した証。錬金術の街クノッフェンでは、今日もたくさんの発明品が産声を上げている。
一方で黒い煙は、残念なことに失敗してしまった証である。
けれどニーナは黒い煙も好きだ。もちろん調合が失敗してしまったときは悲しい。素材を無駄にしてしまったことに落ち込んだりもする。けれど、失敗したぶんだけ成長できるとニーナは心から信じている。黒い煙は挑戦の証であり、失敗は次の成功のための助走である。くじけずに前を向き続ければ、きっといつか目標は叶えられるはずなのだ。
そういえば、とニーナは街の景色に目を凝らす。今日はすべての錬金術師にとっての憧れであるアルケミー賞の授賞式が行われる日だ。会場は街のシンボルともなっている時計台。そのなかの<黄金の間>と呼ばれる場所で式は執り行われる。
もちろん、ニーナにとってもアルケミー賞は憧れだ。目標と言ってもいい。世界をあっと言わせる発明を生み出し、栄誉ある賞を受賞すること。そして多くの人に認められる偉大なる錬金術師になること。旅立ちの日に夢見た目標はいまでも変わらないのである。
「うーん、あの辺りのはずなんだけど、さすがにここからじゃ見えないなぁ」
いくら時計台が街一番の高さを誇る建築物とはいえ、ここからではその輪郭を捉えることができなかった。太陽はほぼ真上にあることから、ちょうど今まさに授与式が行われているはずなのだが。街に漂うはずのお祭りムードすらも伝わってこない。
「なにを見ようとしてたの?」
いつのまにか隣に立っていたシャンテがニーナに訊ねる。
「えっとね、ここから時計台が見えないかなって。今日は授賞式だから」
「そういえばそうだったわね。……もう降りる? いまからフラウに来てもらえば、式典中の街の様子も見て回れると思うけど」
「うーん……そうだね。そろそろ降りよっか」
なんじゃ、もう降りるのか、とこちらの会話を訊いていたらしいアレクは言った。
「はい。もうじゅうぶん景色も目に焼き付けましたし、思い出として写真もいっぱい撮りましたし。それにちょっと息苦しくて」
「わかる。実はアタシもなの。ほら、<マナの過剰摂取>だっけ? 高山病に似た症状が出るってやつ」
「なるほどのう。ここから見る夜空もまた格別なんじゃが、まあ二人ともお疲れのようじゃし、そろそろ降りるというならそれもよかろう。その小さな体でよう頑張ったな」
「えへへ、ありがとうございます。自分でも驚いてます。でも、一人じゃ絶対にここまで来れなかった。アレクさんにシャンテちゃんにロブさんがいたから、ここまで来ることができたんです。だからもう一度言わせてください。ここまで導いてくれて、本当にありがとうございました。シャンテちゃんもロブさんも、いっぱい助けてくれてありがとう」
「ちょっと、ニーナ、照れるじゃない。それにアタシと兄さんこそ、二人に感謝しなくちゃいけない立場なのに」
だなー、とこれにはロブも同意する。そして三人で改めてアレクにお礼を言った。
「はっはっはっ。いやあ、ここまで感謝されるとは思わなんだ。いくら歳を重ねてもお礼を言ってもらえるのは嬉しいもんじゃな。こちらこそいい冒険ができて楽しかった。ありがとう」
そうしてニーナたちは互いに感謝の言葉を伝え合った。気恥ずかしさもあるけれど、たまにはこういうのもいいよね、とニーナは思う。
さて、ここから降りるならば、まずはフラウに迎えに来てもらわなくてはならない。ニーナは以前フラウからもらった<お呼び出し名刺>を手に取り、それに魔力を込めようとした。
ところがそれを手に街のほうを眺めたとき、こちらに向かって一直線に飛んでくる、箒に乗った少女の姿が見えた。三角帽子が風で飛ばないように片手で抑えるその少女は猛スピードでこちらに飛んできたかと思うと、ニーナの目の前でピタリと箒を止めた。
「フラウさん! どうしてここに!?」
ちょうど迎えに来てもらおうとしていたのでグッドタイミングであることは間違いないけれど、でもまだお呼び出しもしていないのに、どうして来てくれたのだろう?
そんな当然の疑問は、珍しく慌てた様子のフラウがすぐに答えてくれた。
「大変なんです! アルケミー賞の授賞式がテロ集団に襲われました! しかも相手はパーティーに参列者を人質として、ニーナさんたちが捕まえた魔女の解放を要求してまして──」




