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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
15章 世界樹の頂へ
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その雷魔法は七回曲がる

 遠く、下方より響く獣の叫び声。鳥たちは一斉に羽ばたき、恐れをなした小動物たちが足元を駆け抜け逃げていく。ガサガサと、風に揺られて鳴る葉音が心を一層ざわつかせた。


「いかんのう。仲間を呼ばれたようじゃ。一刻も早く移動を始めたほうがええ」


「そうみたいね」


「あの、ごめんね。失敗しちゃった」


「なんでちゃんと当てたのに謝るのよ。むしろ謝らなくちゃいけないのはアタシ。見通しの甘い作戦を提案したのはアタシなんだから、ニーナが責任を感じることなんてない」


「でも……」


「とりあえずいまは早く逃げましょ。ほら、ここはアタシがしんがりを引き受けるからさ、ニーナはアレクさんのあとに続きなさい」


 シャンテはニーナのお尻を軽く叩いて前へと行かせると、後方に気を配りながら、自らもエルフロードを登っていく。決して平らではない、ごつごつと隆起した自然の道の上。足を取られないように注意しながらも、できる限りのペースで上を目指す。


「左斜め上に一匹。それからほぼ真上にもいるわ! 注意して!」


 叫んでいるあいだにも左方向よりゲパルが跳びかかってくる。

 どうやら狙いはニーナのようだ。


「させるかってーのっ!」


 両手両足を広げて襲い来るゲパルに向けて、すかさずワイヤーを射出する。狙いは奴の片足。からめとり、素早く引き寄せてバランスを崩すと、さらに槍を振りかぶって、一閃! ……その刃は惜しくも手のひらの固い皮膚によって防がれてしまったが、跳躍の勢いを削がれたゲパルの足は木の幹に届かず、そのまま真下へと落ちていく。


「おー、ナイス。さすがは俺の妹だぜ」


「そういうのいいから。兄さんもちゃんと周りを警戒してよね」


「右下のほうからいやーな視線を感じるんだぜ」


 ロブの言葉を受けてシャンテは目を凝らす。すると確かにそこに一匹のゲパルが膝を曲げた状態で、こちらの動きをじっと見つめている。いまにも跳びかかってきそうだ。


 でもまさか、いくらなんでも距離がありすぎる。二階建ての民家の屋根に軽々と登れるぐらいの跳躍力がなければ届かない。それこそ<ハネウマブーツ>でも履かないと……


「なっ、跳ぶの!?」


 シャンテの予想を嘲笑うかのように、ゲパルは高々と宙に舞う。体を弓なりに反らし、振り上げた両手から伸びる鋭い爪を、シャンテたちの足場となっている幹にがっちりと食い込ませてぶら下がる。


 その衝撃のせいで足元が酷く揺れて、危うくバランスを崩しそうになった。


「ニーナ!」


「うん!」


 このままよじ登られると進路を塞がれる。その前に奴を落とさなくてはいけない。

 シャンテはニーナの名を呼ぶ。ニーナもその意味を素早く理解して、杖を掲げて叫ぶ。


「いっけぇ!」


 右へ左へ揺れ動く青い稲妻。その光に気付いたゲパルは慌てて手を放して逃げようとしたものの、あとを追うように雷撃は折れ曲がり、逃げそこなったゲパルの脳天へと直撃した。


 さすがはニーナである。<七曲がりサンダーワンド>の軌道は気まぐれながら、ここぞというときに発揮される集中力のおかげか、期待以上に命中してくれるのでシャンテはいつも頼りにしていた。しかもこういう障害物の多い場所なら、細かく軌道を変えられるニーナの杖の独壇場だ。


「ニーナ、前方、斜め上からも来るわ」


「わかった!」


 シャンテとロブが周囲を警戒し、ニーナが曲がる雷撃で迎え撃つ。アレクも、体の支えにしていた杖を振り回して相手を威嚇する。

 そうして少しずつでも上へ上へと進んでいくシャンテたちだったが、時間が経つにつれて、次第に周りを囲むゲパルの数が増えてきた。


「こいつらどんだけいんのよっ!」


 前後左右だけでなく、上や下からも襲い来る敵のすべてを警戒するのは困難を極めた。しかも相手は跳躍力に優れており、どこから跳んでくるのかわからないため、余計に神経を使わされる。アレクがあれだけゲパルを避けるルートにこだわった理由が、いまとなってはよく理解できた。


「ちっ、また後ろを取られた」


 後方より、二匹のゲパルが毒々しいピンク色の毛を逆立てながら、ものすごい勢いで迫って来る。


 このままではすぐに追いつかれてしまう。そう判断したシャンテは身を翻し、槍を構えて相対する。

 来るなら来い。向かってきたことを後悔させてやる。シャンテは槍に炎を纏わせると、左足を大きく前へと踏み出し、さらに炎による推進力で一気に加速。赤々とした刃を迷いなく突き込む。


 これにはさしものゲパルも反応できなかった。

 殺気を感じて跳躍の構えを見せていたが、刺突があまりにも速かったがために間に合わず。串刺しこそ免れたものの、二匹は連なるようにして落下していった。


「よしっ、次!」


 シャンテはすぐに踵を返して、前を行くニーナたちのあとを追おうとした。

 ところが、である。


「兄さん、ニーナは!?」


「え? ……えっ!?」


 きょろきょろとアタリを見渡すロブ。

 しかし、そこにニーナの姿はない。


「まさか、連れ去られた?」


 追っ手を仕留めるために背を向けていた、そのわずかな間に、ニーナはどこかへと消えてしまっていた。

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