金等級の冒険者②
新キャラであるアレクさんの設定(年齢)と口調が少々変わっております。こっちの方がいいかなと、作者の好みによる変更でございます。混乱させてしまうかもです。申し訳ない
「お願いと言いますと?」
私が錬金術師だと知っていて、なにか依頼されるのだろうか。
ニーナは椅子の上で姿勢を正したが、どうもそういうわけでもないようで。
「実は孫娘たちの誕生日を祝うために故郷に帰るつもりなんじゃが、その予定を少しばかり早めたくてな。世界樹に挑戦する日を一週間前倒しにして欲しいんじゃが、構わないか?」
アレクを雇う際に、ギルドを通じて事前に日程を伝えていた。ニーナも錬金術師としての仕事があるということと、目標となる日にちを早めに決めておいたほうがやる気も出るだろうということで、すでに出発日を決めていたのだ。
とはいえ、その程度の理由で決めた出発日だから、この日でなくてはいけない必要性はどこにもない。それに予定を前倒ししても、出発日までまだひと月近くあるから仕事の都合も合わせられる。
「私は良いですけど、シャンテちゃんはどう?」
アタシたちも全然問題なし、とシャンテが答えてロブも頷く。
一応他に予定がなかったかどうか確認しておこうと、ニーナは近くに置いてあった手帳を手に取った。
「あっ」
「どうしたの? なんか予定あったっけ?」
「ううん、そうじゃないんだけど、ちょうどアルケミー賞の授賞式と日程が被るんだなって」
まずかったじゃろうか、とアレクがこちらを窺う。
「いえいえ、私が参加するわけじゃないのでなにも問題ないですけど、アレクさんはアルケミー賞のことはご存じですか?」
「ああ、これでも冒険家じゃからな、仕事仲間である錬金術師のことも自然と詳しくなる。たしかその年の最優秀発明を決めるイベントじゃろ?」
「そうなんです! アルケミー賞とは毎年この時期に、クノッフェンの時計台のなかにある<黄金の間>と呼ばれる場所で行われる授賞式のことで、主催は錬金術協会。その年で最も優秀な発明品を決める式典であり、大賞に選ばれた作品はもちろんのこと、候補作に選ばれるだけでも大変な名誉なことなんです。いつか私も偉大なる発明品を生み出して、この式典に招待してもらうことが夢であり、叶えたい目標でして、そんなわけで今年の結果にも注目してたんですよね。式典当日は街全体が盛り上がると噂に訊いていたので、できればその雰囲気だけでも味わいたかったんですけど……でも娘さんたちの誕生日が近いというなら仕方ないですね」
「無理を言ってすまないのう」
「いえいえ。来年こそは自分の力で式典に参加するつもりなので、なにも問題ありません!」
そう言ってニーナは手帳にぐりぐりと赤丸印をつける。世界樹を登り切るのは一日だけでは到底無理だということなので、三日にわけて頂上を目指すことになっている。アルケミー賞はその二日目。どうあっても式典当日までに帰ってくることは不可能だけれど、こればかりは仕方がないね、とニーナは割り切ることにした。あの幸せそうな写真を見たあとでは、それは困ります、なんてとてもじゃないが言えなかったのだ。
それから話は本格的に世界樹攻略に向けたものへと移っていく。まずは準備するもの。三日分の水や食料、動きやすい服装などは当然として、世界樹を登るうえで欠かせないものがある。<ワイヤーバングル>などはその最たる例だ。
「知っておると思うが、世界樹は<エルフロード>と呼ばれる木の幹を伝って頂上を目指していくことになる。上空へ行くほど道幅は狭くなり、また雨露に濡れれば滑りやすくもなる。もしも足を滑らせた時の保険として<ワイヤーバングル>は必ず必要となる。もちろん、狙ったところにワイヤーを伸ばせる技術もな」
「そこはご心配なく。日ごろから使い慣れているので、もしものときも大丈夫かと思います」
「寝床はどうじゃ? 所々にある世界樹のくぼみに簡易のテントを張るのが一般的なんじゃが」
「携帯用の小さなテントを借りる予定です。これでも錬金術師ですから、遠出することには慣れてるんです。野宿の経験もテントで一晩を明かした経験もあります」
「夜眠るときは虫よけスプレーや小さな魔物を退けるお香などがあれば便利なんじゃが、安物だと世界樹に生息する生物たちには効き目が薄い。用意するならケチらないことじゃ」
「なるほど。当日までに忘れずに用意しておきます。ギルド本部のなかにあるお店で買えますか?」
「ああ、あそこならそんじょそこらの店よりも良いものが売っておる。さすがは世界樹に一番近い店だけあって、必要なものは大抵揃うからの。わしも森に入る前には必ず立ち寄って、新しい商品が入荷していないか毎回チェックしておるよ。そうそう、去年買って良かった商品はな……」
アレクが語ってくれた経験談はどれも興味深いものばかりだった。世界樹の上で暮らす魔物たちの生態や、世界樹に寄生する不思議な草花について。突然の雨に降られて身動きできなくなったときのことや、食料を猿に似た魔物に奪われて途方に暮れたこと。世界樹の守り神である巨大なフクロウ<オオユグルド>を間近で見たときの衝撃……
冒険家を自称するアレクは行く先々でこれまでの冒険譚を語ってきたらしい。そうしたこともあってか喋りがとても上手で、身振り手振りやユーモアを交えて語ってくれる内容に、ニーナは思わず聞き入った。すごい。そんな体験を自分も早くしてみたい。ニーナもまた、こうした冒険譚が好きだ。村で暮らしていたとき実家にはそうした小説が少なかったので、よくテッドの家まで行って読ませてもらっていたほどである。もし自分が本に登場する主人公の立場なら、どうやってピンチを切り抜けただろうか。そう考えるだけでわくわくするのだ。
そうして知らず知らずのうちに身を乗り出しながら、ニーナはまだ見ぬ景色に思いを馳せるのであった。




