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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
14章 魔女の謀略を超えて
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ルチルお嬢様はお礼がしたい

 コンコン。

 失礼します。


 大型客船に乗船後、とある部屋にニーナたちは招かれた。扉の向こう側ではルチルとレオナルドと、それからアデリーナの姿が。あともう一人、身なりの良い小太りの男性がルチルの後ろに控えている。髪色はルチルと同じ緋色だ。


「待ってたよ。立ち話もなんだし、そこに座って」


「あ、はい」


 小さく会釈して、壁際に並ぶ椅子に腰を下ろす。

 ルチルは花柄のゆったりとしたワンピースに着替えていた。ただ、あらゆる重責から解放されたはずなのに、表情はどこかぎこちない。お疲れなんだろうか?


「えっと、来てもらったのはいいんだけど、さっきまでドタバタしてたから私のなかで話がまとまってなくてね。まずはなにから話そうかな。あ、後ろの人が気になる? あの人はね、私の兄なの。みんなが一回戦で追いかけた金のウサギは、リムステラの呪いを受けた兄だったんだよね」


「そうだったんですか? そうとも知らずに私たち追いかけまわしちゃってましたよ」


「いいの、いいの。知るはずのないことだし、それにちょっと太り気味だったからいい運動になったと思う。あれでもここ数日のストレスでだいぶ痩せたんだけどね」


 はあ、とニーナはなんとも言えない顔をする。どう答えるべきなんだろうか。笑顔を浮かべるのも、それはそれで失礼な気がした。


「……うん、まずはなによりも感謝を伝えなくちゃね。ニーナさん。それからシャンテさんにロブさんも。家族が無事に解放されたのは皆さんの勇気ある行動のおかげです。本当にありがとう」


 そう言ってルチルは膝の上に手を重ねると、深く深くお辞儀をする。


「そんな、顔を上げてください。私はただ自分にできることをしたまでなんですから」


「アタシたちもそう。それに魔女の狙いはアタシと兄さんだったんだから、決して無関係なんかじゃなかったし」


「だなー。互いに巻き込み、巻き込まれの関係だったみたいだし、頭を下げる必要はないよな。とにかくご家族が無事みたいで良かったぜ」


「そう言ってくれるとありがたいよ。でもどんな事情があろうと、私の行動によってあなたたちを危険な目に合わせたことに変わりはない。いくら家族の命を優先するためとはいえ、あなたたちを魔女に差し出したようなものなんだ。恨まれたって文句は言えないよ」


「そんな、恨むだなんて……」


 しんみりとした空気が部屋の中に流れる。もう終わったことを気にするつもりはニーナにもシャンテにもロブにも無かったが、ルチルからしてみればやはり胸につっかえるものがあるのだろう。


 そこへレオナルドがルチルの肩へ軽く手をのせる。


「そこまでだ。そろそろ本題に入ろう。罪悪感を感じているからこそ、提案したいことがあるのだろう?」


「うん、そうだったね。えっと、たしかニーナさんたちはロブさんにかけられた呪いを解くために、特別な素材を集め回っているんだよね?」


 そうよ、とニーナに代わってシャンテが返事をする。


「リムステラが兄さんにかけた<動物化アニメタモルの呪い>はちょっと特殊でね。この世に二つとない特別な杖を用いた厄介な呪いなの。まあその杖はもう兄さんがへし折ったんだけど、呪い自体は残っちゃってさ。それでニーナに協力してもらいながら解呪薬に必要な六つの素材を集めてるってわけ」


「<マボロシキノコ>もその一つなんだよね? あとはもう全部集め終わったのかな?」


「<妖精の涙>がまだね。それと<輝く世界樹の葉>も」


 シャンテがそう答えると、良かった、とルチルは笑顔を見せる。

 どうして笑みを浮かべたのかとシャンテが眉をひそめると、ルチルは慌てて言葉を付け足した。


「ああ、えっと、全然いいことじゃないよね。集め終わってる方がいいに決まってるのはわかってる。ただね、私としては罪滅ぼしの意味も込めて、あなたたちの素材集めに協力したいと思ってるんだよ」


「ほんとう?」


 思ってもみなかった申し出に、ニーナたちは互いに顔を見合わせた。


「協力ってどうやって?」


「資金面と情報面の両方から。商人に声をかければ<妖精の涙>も<輝く世界樹の葉>も手に入れられると思うんだ」


 たしかに、とニーナは心のなかで頷く。

 滅多に市場に出回らない<マボロシキノコ>と違って、あとの二つはお金さえ出せば手に入れられる素材だ。エストレア家と取引できる商人ならば、その手のレア素材を仕入れるなんてわけないはず。そのぶんかなり高額な取引が予想されるが、これもエストレア家の財力をもってすれば、それぐらい別にどうってことないのだろう。


 これはかなり、いや、この上なく魅力的な提案だと思うけれど。

 ニーナは隣に座るシャンテの顔を横目で見た。


「さすがにそこまでしてもらうのは、ねえ?」


 シャンテも、隣で器用にお尻を座面に付けて座るロブを見る。


「俺は楽できるならありがたいと思うんだぜ」


「そこはちょっとぐらい遠慮しなさいよ」


 シャンテが白い目で兄を見る。


「まあでも世界樹攻略は俺たちの目標ではあったよな。ニーナも興味ありそうだったし」


「うん! 私としてはできれば、自分の足で世界樹のてっぺんの景色を見てみたいと思うんだ。もちろんそれはロブさんの呪いが解けたあとでも構わないんだけど、一度は挑戦してみたいよ」


「たしか正しい道順で頂上へと辿り着いた者に<輝く世界樹の葉>は与えられるのよね。三人で登れば三枚。ニーナの新発明に使ってもらえるなら、多い方がいいわよね」


「え、それって私が何回か失敗するって意味?」


「そういう意味じゃなかったけど、あえて否定もしないわ」


 むう、とニーナは頬を膨らませて抗議する。

 もちろん本当に怒ってなんかはいない。


「それで、私からの申し出は受け取ってくれるのかな?」


「そうね、それじゃあ<妖精の涙>はルチルさんたちにお任せしようかな。<輝く世界樹の葉>については、なんとか自分たちの力で手に入れようと思う。どうしても無理そうなら、そのときはそのときでまた頼らせてもらうわ」


「そっか。みんながそうしたいというのなら、無理強いをしてはいけないね。でももし世界樹攻略に必要な資金が不足するようなら遠慮なく言って欲しい」


「わかった」


 話し合いはまとまった。胸のわだかまりが取れたからか、ルチルは安堵の表情を浮かべた。今回の提案を「罪滅ぼし」と表現したことからも、ルチルは相当罪の意識を感じていたようなので、良い落としどころが見つかって本当に良かったと思う。


 そのあと部屋を退出しかけて、あ、とニーナはずっと気になっていたことを思い出した。


「そういえばどうしてアデリーナさんたちはこの島に?」


「そうそう、それ、アタシも気になってた。さっき助けてくれたタイミングといい、兄さんの全部わかってたような口ぶりといい、どこからどこまでが二人の計画のうちだったの?」


「計画って程でもないけれど、あなたのお兄さんと話し合いを持ったのは今日の午前中かしら。ちょうどトイレに向かったロブが私に話しかけてくれたの」


「ちょっと待って。兄さんから話しかけたの?」


「おーよ。俺は一目見たときから仮面の三人組の正体が騎士だって薄々気づいていたからな」


「どうして?」


「そりゃあスリーサイズを見れば一目瞭然だろ」


 そうだった。ロブはどんな服の上からでも、正確に女性のスリーサイズを知ることができる特技を持っているのだ。同性から見ても憧れるほど素晴らしいプロポーションを誇る彼女とまったく同じ体系の女性なんて、そうはいない。ましてや凄まじい剣技を誇る女性ともなれば、なおさらだ。ロブからしてみれば仮面をかぶっていても簡単に正体がわかったわけだ。


 でもそれならどうしてすぐに教えてくれなかったんだろう。

 ニーナはロブに訊ねた。


「騎士がわざわざ正体を隠してるってことは、つまり極秘の任務ってことだろ? 秘密にしておいた方が向こうも都合がいいだろうと思って、喋らないように気を遣ってたんだぜ。でも魔女の話を訊いて、事が事なだけにな、こっそり話しておこうと思ったんだ」


 そういうこと、とアデリーナも同意する。


「もともと私たち騎士はニーナがお遊戯会に参加すると聞いて、それでこの会場に参加者として潜入することにしたの。あなたたちが動けば魔女が何か仕掛けてくると思ったから。だからロブから事情を訊かされた私たちは喜んで協力を申し出たの」


 なるほど、あのタイミングで助けてくれたのも偶然じゃなかったというわけか。思い返せばロブはかくれんぼの最中に何度かトイレに行っていた。あのときにでも秘かにやり取りしていたのだろう。洞窟内での余裕も、もしもの時はアデリーナたちが駆けつけてくれると知っていたからに違いない。


 でもそれならそれで、せめて洞窟に入る前にアデリーナたちとの協力関係を教えて欲しかったわ、とシャンテは兄に言う。


「敵を欺くにはまず味方から。シャンテはともかくニーナは演技があまり得意じゃないだろ? だから内緒にしてたんだ」


「うぅ、その通りです。まったく反論できません」


 すべての謎が解けたところで、ニーナたちはルチルの部屋を後にした。魔女の処遇は気になるところだけれど、あとのことはアデリーナたちが上手くまとめてくれることだろう。事あるごとに魔女を殺すと息巻いていたシャンテも、とりあえず報告を待つつもりらしい。魔女を殺したからといって必ずロブの呪いが解けるとは限らないし、そもそもロブは元の姿に戻ることを焦ってはいない。ひとまず魔女を捕らえただけで満足ということだった。


「う、眩しい」


 クルーズ船の最上階に位置するオープンデッキへと出たニーナは、太陽の眩しさに目を細める。澄み渡る青い空。遮るものの無い大海原を、ニーナたちを乗せた船は潮風を受けながら進んでいく。


 とにかく、色々なことがあったけれども、解呪薬の作成に一歩も二歩も近づいたことは間違いない。つまりは世界樹に挑む日も近いということだ。世界中をあっと言わせる発明を夢見て故郷を飛び出したニーナにとって、<輝く世界樹の葉>は憧れの極上素材である。これを使ってどんな発明品を生み出そうか、そろそろ真剣に考え始めなきゃね、とニーナは海を眺めながらぼんやりと思うのであった。

この章もお付き合いいただきありがとうございました。

次よりは世界樹編。少しだけ準備して、それからいよいよ世界樹の登頂に挑戦します!

(作者も準備のため一週間ほどお休みもらいます。七月の二週目から連載再開できるよう頑張ります)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一連の魔女騒動もやっとこ片が付いた! [気になる点] このまま魔女達大人しくしてるかな~?w [一言] いよいよ世界樹に! クライマックスまであと少し!?
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