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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
14章 魔女の謀略を超えて
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封印洞の決戦③

「黒いサソリ……?」


 不吉な影が形どったのは、見上げるほど大きなサソリだった。巨大な二本のハサミに六本の角ばった脚。そしてなにより特徴的な尻尾の先端の毒針。初めこそ不確かに揺らめく影に過ぎなかったが、気付けば体全身が光沢を帯びており、まるで黒光りする鎧のよう。あの大きなハサミに捕らえられたら背骨だって簡単に折られてしまうことだろう。


「シャンテちゃんってサソリは平気なの?」


「いままで特に気にしたことなかったけど、今日から嫌いになりそう」


「おい、やべーよ。来るぞ!」


「兄さんたちは下がって!」


 こちらを威嚇せんとばかりにハサミを左右に大きく展開するサソリ。先日死闘を繰り広げた牛の悪魔ガレハドと違って、この人口悪魔は言葉を交わす意思が無いようである。そんな黒いサソリの悪魔に対し、シャンテも槍を構えて牽制する。


 ひゅんっ、と繰り出される巨大なハサミ。右、左、と交互に襲い来るそれを、シャンテは上手く距離を測りながら躱していく。


「ちっ、意外と近づきにくいわね」


 サソリの背後ではこれまた巨大な毒針がゆらゆらと揺れている。一瞬でも隙を見せたら自慢の毒針で襲い掛かるつもりなのだろう。だからシャンテも迂闊に懐へ跳び込めない。かといって安全圏から槍で攻撃しても、金属のように固いハサミに弾かれるだけ。ニーナも援護しようと雷の魔法を放つが、まるで効果がなかった。


「それなら!」


 ここでシャンテは武器をスイッチ。腰に携えていた<骨伝導ソード>を右手に握りしめると、迫りくるハサミをギリギリのところまで引きつけて、ゴツンと、躱しざまに思いっきり殴りつける。


 すると、黒いサソリの悪魔はそこでピタリと動きを止めた。


「……効いたの?」


 それは奇妙な沈黙だった。期待半分、怖さ半分といった様子で息を呑む。

 もしかしていまの一撃で倒せちゃった?

 私の発明品って人口悪魔を倒せるぐらいすごいの?


 しかしそんな淡い期待は見事に裏切られてしまう。半端なダメージは逆効果。次の瞬間には再びハサミをぐわんと広げ、これまで以上の激しさで襲い掛かってきたのである。


「うわ、ちょっと、これじゃあ怒らせただけじゃない!」


 このままではまずいと、ニーナたちは走って距離をとろうとする。

 しかしサソリの動きは思いのほか速く、六本の足を忙しなく動かしながら追いかけてくる。


「ちっ、うじゃうじゃとクモみたいで気持ち悪い動きね」


「そりゃそうだよ。だって同じ節足動物なんだもん」


「訊きたくなかった情報だわ!」


 炎を灯したフレイムスピアで牽制を試みるも、ほとんど足止めにもならず、ニーナたちは全速力で逃げるしかなかった。雷魔法を乱れ撃ってみるも、やはり効果はなし。天井に雷撃を放って生き埋めにしようかという考えが一瞬頭をよぎったが、もしも自分たちまで巻き込まれたらと思うと怖い。


 ──やっぱりロブさんの魔法に頼るしかないのっ!?


「あぶねぇ!」


 不意に襲い来る衝撃が脇腹へ。わけがわからぬまま、ニーナは突然のことによろけながら倒れてしまうが、そんなニーナの頬をきらりと光る銀のナイフが掠める。


 ──え、いまのって?

 視線を前に移すと、そこには不敵に笑う少年の姿があった。

 もう間違いない。とうとう彼らが命を狙いにやって来たのである。ロブが気付いて押し倒してくれていなければ、ナイフは間違いなく顔面を捉えていたことだろう。本当に危ないところだった。


「あ、ありがとう、ロブさん」


「いいってことよ。それより早く立つんだぜ」


 前方にはナイフをちらつかせる三人組。

 背後に迫るのは凶器を振り回す黒いサソリの悪魔。

 一本道だった洞窟内に逃げ場はなく、まさに絶体絶命の窮地に立たされていた。この状況は予想していたことだけれども、こうも追い詰められては切り抜けられる未来が見えない。


「ど、どうしよう」


「さすがに力を出し惜しみしてる状況じゃねーか」


 ぼふんっ、と白い煙に包まれたかと思えば、そこに現れたるは大魔法使い。なで肩長身の青年は風格こそないものの、実力は間違いなく最強クラス。リムステラをも凌ぐ魔術の使い手なのである。


 唯一の欠点は、呪いによって全力を出せる時間が極端に短いことだけ。


「わお、本当に人間に化けた!」


「ブタさんすごーい!」


 少年少女がこの場に似つかわしくない無垢な笑みを浮かべてはしゃいでいる。

 けれどもロブは本気だ。


「悪いがおしゃべりに付き合ってる暇はない」


 ロブが腕を胸の前でクロスさせた。

 すると洞窟内の空気が急激に冷え込んでいく。


「うわ、足が!?」


 構える暇もないほどの早業でロブは敵の足元を凍らせる。一人、冷静を保つ少年がロブの魔法を妨害しようとナイフを投げつけてくるが、ロブは不思議な光る壁に守られており、切っ先は届くことなく弾かれて地面に落ちる。


「マジかよ、手も足も出ねーじゃんか」


「ブタさん、やめてっ。冷たいよ」


「……っ!」


 三者三様の反応を見せる子供たちをロブは容赦なく凍らせる。後ろを振り返ると、ロブは黒いサソリをも同じように氷漬けにしていた。一瞬にして四つの脅威をロブは同時に取り除いてしまったのである。それも、いとも簡単そうに。そのあまりに強さに、ニーナは改めてロブに尊敬の念を抱く。


「シャンテ。槍でサソリの体を砕け。求める宝珠は奴の体内のどこかにあるはずだ」


「わかった」


 華麗な槍捌きで閃光を走らせると、その衝撃で黒いサソリは粉々に砕け散った。散らばる破片のなかにはロブの言った通り、黒き宝珠が傷一つ無く転がっていた。シャンテがそれを指先で突っつく。さすがにもう悪魔は召還されないようだ。


「確保完了。お疲れ様っ」


 シャンテがそれを拾い上げるのと同時に、ぼふんと、ロブも変身を解除する。

 変身は解いたが、氷は解けることなく少年たちの体を胸元まで覆っている。自由に動かせるのは首から上の部分だけ。口は動くはずだが、あまりの寒さにさすがの悪ガキどもも力なくこちらを睨んでくるだけだった。


 とりあえずと、ニーナはロブに<まんぷくカレービスケット>を渡す。

 もしゃもしゃと頬張るロブに代わり、シャンテが彼らの前に立つ。


「さて、訊きたいことは色々とあるけれど、いったい誰の差し金でアタシたちを襲ったのかしら?」


 ふいっ、と横を向く少年。

 三人は唇を青く染めながらも、意外にも律儀に秘密を守ろうとする。


「まったく、無駄な抵抗をしてくれちゃって。ニーナ、<お喋りリップシール>を出して」


「うん、ちょっと待って」


「──その必要はありませんよ」


 そこへ、洞窟の奥から別の誰かの声が聞こえてきた。

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