みーつけたっ!
「あの、言っている意味が分からないのですが」
「上から81、57、82」
「え」
「スリーサイズだよ。これは昨日出会ったメイドの女の子よりもバストとヒップがそれぞれ三センチずつ大きいんだな。胸のサイズは下着の付け方で見え方が多少変わるかもしれねーが、お尻が一日でそこまで成長することはまずねーよな。つまりお前がルチルだ」
「変装していると疑われていることは理解できました。ですが声は」
「──<ボイスチェンジャーリング>と呼ばれる魔法の道具があれば、メイドさんとの間で声を交換することも簡単ですよね?」
言い逃れしようとするルチルの言葉を先回りするように、ニーナは魔法の道具の存在を指摘する。
つい先ほどまでニーナたちは、ホテルの柱の影からロブたちの様子を見守っていた。隠れていたことに特に理由はないのだが、スリーサイズを正確に測ることができるロブの目は役に立った。俺が肩にタッチしてコールしたい、というロブにその役目を任せて、ニーナたちは遠くから見守っていた、という流れである。
メイドはかき氷が入った器をロブの前に置くと、ゆっくりと立ち上がってニーナのほうを見た。
「道具があれば声を変えることもできるというのはわかりました。ですが、そういった類のものを私はなにも身に着けていないのです」
メイドは自身の無実を証明するためか、両の手のひらを胸の前で広げてみせる。その細くて白い指には、たしかに指輪らしきものの存在は視認できない。
しかしメイドへと近づいたニーナは、彼女の指の付け根のあたりに、不自然に薄っすらと赤くなっている個所を見つけた。そこへニーナは指先でそっと触れてみる。
返ってきた感触は固く、ひんやりとしていた。
「やっぱり……。ここと、ここ。二つの指輪を<透明ペンキ>を使って透明色に塗りつぶしましたね?」
<透明ペンキ>とは、塗った対象を透明にすることができる魔法の道具である。一度塗るとなかなかペンキが落ちないことと、肌に優しい成分では無いために、透明人間になろうと頭からペンキを被る行為はまったく推奨できないが、こうして魔法のリングを隠すにはもってこいの道具なのだ。うっかりリングを指から外して紛失してしまった、なんてこともよくある話なので、使う際には慎重に考える必要がある。
「ルチルさんが使った三つの道具のうち、二つは<ボイスチェンジャーリング>と<透明ペンキ>で決まりでしょう。あと一つは<消臭の指輪>か、あるいは変装に関する何かでしょうか」
体についた匂いは身に纏う服や香水で誤魔化すことができるから、あと一つは変装するための道具かもしれない。しかしながらロブが見極めたスリーサイズからも、彼女がルチルであることはほぼ間違いないだろうと思うのだ。
「あとはその黒縁メガネ。輪郭を覆い隠すほど大きなメガネがいいですね。視線をうまく誘導することで、変装によって生じるはずの顔の違和感を消してくれています。そういう狙いがあって、かけているのですよね? その証拠といってはなんですが、どうやらレンズに度が入っていないようですし」
「……なるほど。そこまで完璧に私の作戦が見抜かれているなら、これはもう観念するしかなさそうだね」
ばさっ。
かちゃり。
ぺりぺりぺり。
黒髪のウィッグを外し、眼鏡と指輪をそっと台の上へ。そして顔の表面を覆っていた幕のようなものを剥がすと、そこには探し求めていたルチルの姿が。間違いなくルチル本人だとわかり、ニーナは自分の予想が当たったことを素直に喜んだ。
「でもどうしてバレたんだろう? 最初にここでかき氷を食べているときは、まだ気付かれてなかったよね?」
ニーナはこくりと頷く。
「もしかして、と疑いを持ったのは、ルチルさんの偽物とすれ違ったときです。メイドがルチルさんに変装しているのなら、その逆もあり得るのかなって。あとはロブさんに私の考えを伝えて、皆さんのことをじっくりと観察してもらったんです。意識してみるのとそうでないのとでは、やっぱり見え方も違うと思ったので」
始めロブが反応できなかったのは、きっとそこまで注意深く見ていなかったから。背格好が似ている二人では、胸やお尻のわずかな大きさの違いに気づけなくても仕方がない。だからこそ疑いの眼差しで見てもらえば、今度は見破れるのではと考えたのだ。
「なるほどね。魔法の道具についてもほとんど正解だったよ。<ボイスチェンジャーリング>と<透明インク>はまさにそう。三つめは<ぷるるん変身マスク>といってね、美容パックみたいな薄いシートをかわいいメイドちゃんにつけてもらって、数分待つと、お顔をそっくりそのままコピーできちゃうんだ。あとはそれを私の顔にペタッと貼り付けるだけ。まあ顔の輪郭や鼻の高さまではさすがに再現できないんだけど、かなり似てたでしょ?」
あとはメイド服とメガネ、カラーコンタクトを付ければ変装は完璧というわけだ。
「とはいえよくわかったね。他のみんなみたいに隠し部屋を怪しいとは思わなかった?」
「思いました。でもルチルさんの性格を考えたら、狭くて目立たない場所に身を潜めているイメージが湧かなかったので」
「あはは、そこもバレてたか。こりゃあ完敗だね」
あぁ、楽しかった。
屈託なく笑うルチルを見て、いまこの瞬間だけでも心から楽しんでくれたのかなと思う。辛いことばかりのはずなのに、それを感じさせない明るい振る舞いができる彼女のことを、ニーナは本当にすごいと思うのだ。
そうしてルチルはゲームの終了と<ひよっこチーム>の決勝戦進出を宣言する。ここからお昼の休憩を挟んで、決勝は予定通り午後から行われる。いよいよ魔女との対決のときだ。あの怪しく光る赤い瞳を思い出すだけで心が重たくなるけれど、この戦いは避けられないもの。そのときが刻一刻と迫っていることを感じながら、ニーナはシャンテたちと共に決勝までの時間を静かに過ごすのであった




