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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
13章 マボロシキノコ争奪戦
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夢枕ペアセット

「<マナ溶液>の準備と素材の計量、どちらも終わったわよ」


「ありがと。ふふ、シャンテちゃんももうすっかり立派な助手さんだね」


「ひよっこ錬金術師の助手かぁ。まあ弟子では無いことはたしかね。で、そっちは終わったの?」


「ばっちりだよ。さっそく取り掛かるね」


 ぐつぐつと煮える<マナ溶液>。錬金釜に注ぐ量は決まって十リットルであり、その十リットルあたりにどれだけの量の素材を投入すれば特性を引き出すことができるのかは、素材ごとに分量が定められている。これらはすべて先人たちが導き出した数字が元となっており、学術書や、素材屋で購入した瓶のラベルに記載してくれている。シャンテはその数字に忠実に従って計量を行ってくれていた。


 ここからは錬金術師としての腕の見せ所。

 まず初めに釜のなかに落とすのは<夢見鳥の羽>だ。特性は<夢へと誘う>。もっとも特性を引き出したい素材がこれだから初めに投入する。錬金術における鉄則のようなものだ。


 自然界に存在するすべての素材はその内側にマナを保有している。マナは<火><風><水><土>の四種類に分類されるのだが、素材ごとにマナの保有量には偏りがある。


 たとえば<夢見鳥の羽>は風のマナを多く保有している。だから属性は風。よって火加減は弱火。風属性の素材は他と比べて繊細なものが多く、火加減が強すぎたり<かき混ぜ棒>を使って混ぜるスピードが速すぎると、錬成反応が速く進みすぎて調合がうまくいかない原因となってしまう。だからここは弱火でじっくりと煮込みながら、特性が反映されるのを待つ。


 ちなみに素材によっては同時に二つの属性を併せ持つものもある。そういった素材は特性も二つあることが多く、好きなほうを選んで引き出すことができる。その代わり火加減の調整などが難しくなるのだが、今回扱う素材はどれも属性が一つだけ。難しく考える必要がないぶん少し気が楽だ。


 やがて深緑色をしていた<マナ溶液>は、その色を鮮やかな黄緑色に変える。


「ふぅ……。ここまではいい感じかな」


 これは風属性の素材を投入したときに見られる現象であり、綺麗な色の反応が見られたなら、特性をうまく<錬金スープ>に反映できたことを示している。ニーナは額の汗を拭うと、テーブルの上から<惹かれあう運命の青い糸>と<N極砂鉄><S極砂鉄>という素材を手に取り、釜のなかに回し入れる。


 たったいま投入した三つの素材はいずれも土属性のもの。初めにベースとなる素材を溶液に溶かし切ったあとは、<火><水><土><風>の順番に投入していくと成功率が上がるとされている。これもまた錬金術における法則のようなもので、この順番さえ守れば絶対うまくいくという保証はないものの、初めて挑戦する調合なので、基本に従ってレシピを組み立てた。


「火力調節、中火に変えて!」


 こうして素材ごとに火力と混ぜるスピードを調節しながら錬成反応を促し、<錬金スープ>の色が鮮やかに変化したタイミングを見極めて次の素材を投入していく。


 ぐーるぐーる……

 ぐーるぐーる……


 釜の底からしっかりと、焦げ付かないように。これが結構な重労働で、次第に腕も疲れてくる。熱せられた釜の前に立ち続けていると汗も掻くので、ニーナは夏があまり好きじゃない。それでもこうして混ぜ続けることは、商品を形作るうえでも大切なことだから手を抜くわけにはいかない。錬成反応を促すだけでなく、脳内にある完成品のイメージを反映させるうえでも欠かせない作業なのだ。


 それから<紋章アゲハの鱗粉>を加えて反応を窺ったあと、最後の仕上げとばかりに<神秘のしずく>が入った小瓶を手に取った。


「いよいよなのね」


 かれこれ半年以上ニーナの錬金術を見守り続けているシャンテは、この小瓶の意味をよく知っている。これを一滴垂らすことで<錬金スープ>は発明品としての形を得るのだ。


「……行きますっ!」


 ──ぼふんっ!


 もくもくと、錬金釜より立ち上る煙。すーっと煙突の向こうへと消えていく煙の色は、調合の成功を示す白色だった。釜のなかにはよく似た二つの枕が、釜からはみ出しながらも形を成していた。


 ニーナはそのうちの一つを手に取り掲げてみる。白を基調とした枕は、このホテルのベッドに置いても見劣りしない様な、気品を感じさせるデザインをしている。羽のように軽くて、ふかふかで、そっと頭を包み込んでくれる。まさにニーナの理想を詰め込んだ枕が完成した。


「形は一緒で、細部の色がちょっとだけ違うのね」


「うん、レオナルドさんには青い方を。ルチルさんには赤いほうを使ってもらおうと思って」


「それにしても一度の錬成で成功させちゃうなんてやるじゃない」


「いやあ、まだ肝心の効果を確かめてみないことにはなんとも。これから一緒に実験に付き合ってほしいんだけど、お願いしてもいい?」







「ルチル!」


 本館と別館を繋ぐ渡り廊下にて、寝室へと向かうのであろう彼女を呼び止める。緋色の髪を揺らしながら肩越しに振り返った彼女は、やはりお供としてリオンを連れ歩いていた。


「レオナルドじゃないか。こんな夜遅くにどうしたの? 何か用でもあった?」


 不思議がる彼女は、すぐにプレゼントの存在に気が付いた。枕なんか持ってきてどうしたの、まさか私の隣で眠ろうだなんて考えてないよね、とからかい混じりに笑う。


「これを君にプレゼントしようと思ってな。この特注品の枕さえあれば今日はぐっすりと眠ることができるだろう。きっと明日には体調も優れているはずだ」


「ありがたいけれど、そんなのいつ用意したんだい?」


 お遊戯会に参加する前に知り合いに作らせたんだ、とレオナルドは嘘をついた。ニーナたちとの関係を話せば今回の事件に巻き込んでしまうことになる。そうならないためにも名前は伏せておこうと考えたのだ。


「本当はもっといいタイミングで渡そうかと機会を窺っていたんだがな、君があまりにもお疲れのようだから今日渡すことにしたんだ。もちろんこれは賄賂なんかじゃないぞ? 純粋に君を心配してプレゼントするだけだ」


「ふふ、わかった。そういうことならありがたく受け取らせてもらうよ」


 そう言ってルチルは細い腕で枕を大事そうに抱きかかえる。


「いい夢見ろよ」


「そうありたいけど、こればっかりはどうだろうなぁ」


 なに、心配はいらない。

 この枕があればきっと僕たちは夢のなかで会えるさ。


 レオナルドはそう言いたい気持ちをぐっとこらえて微笑むだけにとどめると、不愛想な側近を一瞥してから元来た道を引き返すのであった。

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