真夜中に届く招待状
夕食を終えて、割り当てられた部屋に戻ってきたニーナたち。広々とした室内に並べられた家具はどれもこれもお高そうで、とても居心地の良い空間のはずなのに落ち着かない。もしも調合に大失敗して部屋中を煤だらけにしたなら、これらの家具も弁償しなくてはいけないのだろうか。
「ねえ、お風呂どうする?」
それぞれの部屋にバスユニットが備え付けられていて、自由に使用することができる。まだ二回戦がいつ開催されるか知らされていないが、まさかお風呂に入っているあいだにゲームが始まるなんてことはないだろう。……そう願いたい。
ニーナたちは順番にお風呂に入って一日の疲れを癒し、その日は早めに眠ることにした。新しく購入した素材を使って試してみたいレシピもあったが、失敗が怖いので帰ってから調合しようと思う。慣れない環境ということもあって、もしも寝付けないようなら<絶対快眠アイマスク>の力に頼ろうかとも考えたが、その心配はいらなかった。ふかふかのベッドと羽のように軽くて暖かいお布団に包まれて、ニーナはすぐさま眠りに落ちる。
そのまま何事もなければ、ニーナは翌朝までぐっすりだったはずだ。
けれども、残念ながらそうはいかなかった。日付が変わった真夜中、一時過ぎ。灯りを落とした部屋に色とりどりの光が走り、ここにいないはずのルチルの声が響き渡る。
『はーい、みんなー! 起きてー! まだ夜だけど二回戦の説明を始めちゃうよー』
「うえ……なに、二回戦?」
ニーナは寝ぼけ眼をこすりながら、どうにか首だけ持ち上げる。そこには青白い光に包まれたルチル・エストレアの姿が。彼女の背景では様々な色が閃光のように走っており、とにかく眩しい。目がチカチカとするのだ。
「え、なに? 夢?」
夢にしてはまた奇妙な光景だ。演出も派手。これじゃあ目が覚めちゃうじゃないか。
『ねえ、みんな起きた? 二回戦の説明を始めちゃってもいいかな?』
「……なによこれ」
シャンテの不機嫌そうな呟きが聞こえてきた。
あれ、もしかしてこれ、夢じゃないの?
ニーナはベッドのなかで上半身だけを起こす。目の前にはルチルがふわりと宙に浮かんでいるように見える。幽霊にしては輪郭がはっきりと見えるが、だからといって実体がそこにあるようには思えない。それに向こうから呼びかけてくる割には視線もいまいち合わない。
「魔法の道具の力みたいだけど、すげーな」
どうやらこの騒ぎにロブも目を覚ましたようだ。
「これが魔法だってことはなんとなくわかるんですけど、どんな道具が使われてるんですか?」
「いや、俺もそこまではわかんねーけどよ、ほら、ルチルの上。天井に変な丸いでっぱりがあるだろ? たぶんあれが水晶かなんかじゃねーのかな?」
目を凝らして見ると、たしかにそれはあった。昨日は他に目移りしていてまるで気付かなかった。
『うん、そろそろみんな起きたと思うので説明を始めちゃうね』
「……これ、どこかから声と姿を魔法の力で投影してるってことですか?」
「だろーな。きっといまごろミスティたちの部屋でも同じようにルチルが喋ってんじゃねーかな」
それにしても凝った演出である。普通にお知らせしてくれたらいいのに、なぜわざわざ真夜中に、参加者の眠りを妨げてまでしてこんなことをするのだろう?
──と、いまはちゃんと説明を訊かなくちゃね。シャンテちゃんはまだ半分頭が寝ちゃってるみたいだし、私がしっかりしないと!
『つい先ほど、みんなの部屋に招待状を送りました。そこに詳細は書かれてあるからあとで読んで欲しいんだけど、これからみんなには順番に、地下に作った<お化け屋敷>に挑戦してもらいまーす!』
「……お化け屋敷?」
訊きなれない言葉にニーナは首を傾げる。
『暗い迷宮を彷徨いながら、驚かしてくるオバケたちを振り払ってゴールを目指してもらうの。制限時間以内にクリアできたら三回戦進出。そのほか、細かいルールはまたあとで説明するから、とにかく招待状に書かれた時間通りに来てね。早すぎても遅すぎても失格だから気を付けて!』
なるほど、オバケが出るという地下迷路を攻略するゲームだから、お化け屋敷と言ったのか。夜中に開催されるのも一応納得できる。妙に凝った演出も、参加者を楽しませようとするルチルの心遣いなのかもしれない。
ほどなくして部屋はまた暗闇に包まれた。もう一度眠ってしまわないようニーナはすぐに灯りを付ける。シャンテはまだ眠たそうだが、とりあえず部屋に届いた招待状を確認してみる。
ゲームの名前は<ゴーストハウス・ラビリンス>。参加者は勇者一行となり、幽霊が現れると噂の屋敷の、その地下に隠された迷宮の攻略に乗り出すという設定みたいだ。今回は魔法の道具および、魔法の使用が禁じられるそうなので、杖やリュックを持っていく必要はなさそうである。その一方で、一回戦で使用した腕時計は引き続き身につけておいてほしいとのことだ。
「げっ、まだ二時間以上先の話じゃない」
招待状を受け取ったシャンテが露骨に嫌そうな顔をする。早起きが苦手なシャンテはたまに寝起きの機嫌が悪いときがあるが、今回は真夜中に起こされたとあって、いつになく不機嫌だ。
「全部で三十チームもあるんだし、待たされるのは仕方ないよ。もうひと眠りする?」
「ん、そうする。十分前になったら起こして。あとアイマスクも貸して」
そうしてニーナたちは思い思いの時間を過ごしながら順番を待つことになった。




