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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
3章 夢追い人の挑戦
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クノッフェンは坂道が多い

 メイリィが営む魔法雑貨店での一件があった日から一夜明けた今日、ニーナとシャンテは両手に大きな紙袋を抱えて、のろのろと、上り坂を歩いていた。イザークのお見舞いの帰りである。紙袋の中身は錬金術にまつわる分厚い本。お見舞いに行った際、工房の本棚に並んだ書籍の数々に興味を示すと、昨日のお礼に、と既に読み終えた本を貸してくれたのである。


「まったくもう! なんでこんなときに限っていつものリュックを背負ってないのよ」


「だって、ただのお見舞いの予定だったし」


 進む足取りは非常に遅い。拡縮自在の魔法のリュックでもあれば、こんなにも重たい思いをしなくて済んだのに。かばんを貸してくれるというイザークの厚意をニーナは断ったのだが、素直に甘えて借りればよかったかな、と今更ながらに後悔する。ちなみにロブはお見舞いをめんどくさがって、家で留守番をしている。


 家まではあと少し。なのだけれど、その少しが憂鬱になるほど遠く感じる。延々と続くなだらかな上り坂。道幅はあまり広くなく、緩やかにカーブしている。道の両端には木組みの家。アイボリー色の壁面にオレンジ屋根の民家が建ち並んでいる。異国情緒あふれる街並みは統一感もあって綺麗だ。


 しかし、いまはそんな素敵な景色すら楽しむ余裕がない。額から汗が流れ落ちるが、両手が塞がってしまっているので拭うこともできなかった。


「一度にこんなにも借りてくる必要あった?」


「そ、それは言わないで」


 何冊かだけ借りて、それを返す時にまた借りればよかったのだ。それなのにはしゃいでしまって、あれもこれもと紙袋に詰めてしまった。


 あれ、と先を行くシャンテが呟いた。

 ニーナは俯きがちだった視線を上げる。


「どうしたの?」


「ほら、あそこ。イザベラさんじゃない?」


 シャンテがくいっと、あごで前を指し示す。たしかにそこにはイザベラが道の端の石垣に腰かけていた。その隣には薄茶色の紙袋が置かれてあり、その口からは長いバケットがはみ出している。どうやら食料品の買い出しから帰る途中のようだ。イザベラはニーナたちが住む家のオーナーであり、ご近所さんでもある。


「イザベラさん、こんにちはー!」


 遠くから大きな声で挨拶すると、イザベラは小さく手を振ってくれた。

 そのままよたよたと、イザベラのすぐ側まで歩いていって、そこで一度荷物を下ろす。


「ふぅ、疲れたぁ。この街は上り坂ばかりで大変ですね。イザベラさんはお買い物ですか?」


「そうなの。今日と明日の食料品をね。ただニーナさんの言う通り坂道ばかりで大変で、一度に登れないからいつもここで休憩するの。若いときは休まなくてもへっちゃらだったけど、歳を取るとそうもいかなくて困るわ」


 イザベラは白髪を撫でる。痩せても太ってもおらず、素敵な年の取り方に見えるけれど、それでも体力の衰えに悩んでいるみたいだ。


 クノッフェンは山のなかにある街である。北部へ行くほど標高が高くなるため、街の北西部に住むニーナたちにとって、帰り道はいつも上り坂だった。


「住み始めて数日だけど、この街の住み心地はどうかしら? 少しは慣れた?」


「うーん、広すぎてまだ行ったことがない場所がほとんどですけど、でもだからこそわくわくしてます。今日はどんな楽しいことが待ってるんだろうって」


「あら、素敵ね。でも家賃はしっかりと頂くつもりだから、楽しむだけじゃなくてしっかりと稼いでちょうだいよ?」


 あはは……

 昨日の契約交渉は惨敗だった。あとから<激辛レッドポーション>のみ、数量限定で納品させてもらえることに決まったけれど、それだけでは家賃を払うどころか数日分の食費にしかならない。ここで安定した生活を送るには、契約を取り付けるまで新しい発明を繰り返すしかないのである。


 でも、みんなが欲しがる商品っていったいなんだろう?


 ふと足元へと視線をやる。イザベラは革靴を履いていた。色はブラウン。よく磨かれており、手入れが行き届いているのが一目見て分かる。


 その靴お洒落ですね、と褒めると、イザベラは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。若い時に買ったものなんだけど、とても気に入ってるの。歳だからもう似合わないかなとも思うんだけど、外に出るときはついつい履いちゃうのよ」


「そんな、とっても似合ってますよ。お気に入りの靴で街を歩けたら、それだけで楽しいですもんね」


「そうなのよ。分かってくれて嬉しいわ」


 靴は確かに可愛らしいデザインで、人を選ぶような気もした。母のような太ましい女性には似合わないかもしれない。けれどイザベラはお世辞抜きで似合っていた。靴下との配色もバッチリである。


 そっか。靴か。

 お気に入りの靴で街を歩けたらそれだけで楽しい。ニーナは何げなく言った自分自身の言葉を思い返す。もしもこの上り坂ばかりの街を楽々歩けるような、そんな可愛い靴が作れたなら、みんな欲しがってくれるんじゃないか。


 もし作るとしたら、問題はなにを素材とするかだけど……


「どうしたの? なにか考え事?」


 口元に手を当てて思案していると、シャンテが訊ねてきた。


「うん。まだアイデアの段階だけど、イザベラさんを見て靴づくりに挑戦してみたいなって。上り坂を楽々歩ける魔法の靴を作れたら面白いかなって思ったんだ。もちろん錬金術でね」


「へー、いいじゃない」


「でしょ? まだ素材も方向性もなにも決めてないけれど、とりあえずこのあとお昼から素材屋に行ってみて、どんな材料で調合するか考えてみようと思う。もしうまく作れたらイザベラさんにも試してもらいたいんですけど、お願いしてもいいですか?」


「もちろんよ。楽しみに待ってるわ」


 こうしてニーナはその日から魔法の靴づくりに取り組むことになる。

 昼食後、今度はロブも連れてさっそく素材屋へと足を運ぶのであった。

一番書きたかった第三章に突入です。

楽しんで執筆していくので、この後の展開をどうぞお楽しみに!

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