アヤシイヤツラ
一人は向かいの茂みから、もう一人は木の枝の上から飛び降りて、そしてもう一人はまったく別の方向からそれぞれ歩いてくる。男の子が二人に、女の子が一人。三人は無邪気そうな笑みを浮かべているが、手にしているのはおもちゃなんかではない。非常に好戦的で、いかにも遊び感覚で人を傷つけることを楽しんでいそうな、そんな危ない雰囲気を漂わせている。
「あの人たち、なんか怖い」
「そうね。なんかヤバそうな感じがするわ」
強いとか弱いとかは抜きにして、とにかく関わってはいけない相手だということはニーナにもわかる。
それなのに三人組はウサギを無視して真っすぐこちらに近づいてきた。
「ねえ、アンタたちなんのつもりなの?」
足元に落ちていたナイフをシャンテは掲げて見せる。
「なんのつもりか、だってさ」
男の子が、もう一人の男の子に訊ねる。
フードを被った、けだるそうな目の少年は手元のナイフをくるくると弄り回しながら、さあ、と首を捻った。
「ちょっと、真面目に答えなさいよ!」
「きゃー、おねーさんコワーい」
きゃはは、と少女は馬鹿にしたように笑う。化粧をしているのか目元が妙に赤い。この子が一番危なそうだとニーナは直感した。
「アンタたちこのゲームの趣旨わかってんの? 首輪を集めるゲームなのよ? それなのになんでウサギを追わずにアタシたちを狙うのよ」
「そんなのわざわざ教えてもらわなくたって知ってるって。というか、おねーさんたちこそわかってないんじゃないの? このゲームの必勝法ってやつ」
「なによそれ。それとアタシを襲うこととなんか関係があるっていうの?」
シャンテが問い返すと、三人組は顔を見合わせてクスクスと笑いだした。
いちいち癇に障る子供たちだ。ねえ、もう無視して行こうよ、とニーナはシャンテのそでを引っ張った。
「おっと。逃がすつもりはないよ。だって俺たちも二回戦には進みたいし。というか、おねーさんが持ってる首輪が目的だし?」
「は? アタシたちから奪おうっていうの?」
「そういうこと。ウサギ狩りより簡単だろ?」
それが彼らの言う必勝法なのだろう。たしかに逃げ回るウサギを捕まえるのは苦労するし、手持ちの道具次第ではどうにもならないことだってあるかもしれない。でもだからといって相手から奪うだなんて卑怯だとしか思えないし、不意打ちで刃物を投げつけるなんて人としてどうかしてる。
「頭おかしいんじゃないの?」
「え、でもルールで禁止されてないよね?」
「人殺しは犯罪よ」
「それもバレなきゃ問題ない」
「隠し通すなんて絶対に不可能だわ。腕時計の説明を訊いてなかったの?」
ルチルはゲームの前に、この島で迷子にならないように、腕時計には常に位置情報を主催者に知らせる機能があると言っていた。死体を隠すのは不可能だし、最後に接触した人物の情報だって筒抜けのはずだ。相手だってそれぐらいわかっているはず。
それなのに、子供たちの笑みは消えない。本当にそう思うなら信じたまま黙って殺されればいいじゃん、などと言うのだ。
「どうしよう。首輪を渡しちゃう?」
持っているから狙われるのなら、大人しく渡してしまった方が賢いような気がした。まだ、遅れを取り戻すだけの時間はじゅうぶんに残されているように思うのだ。
けれどシャンテは、それは絶対にダメ、と言い切る。
「こいつらのことだ。素直に渡したって後を付けてきて、首輪を手に入れた瞬間を狙うに決まってる。それに本当に首輪が目的かどうかも怪しいもの」
たしかに本当に首輪が目的なのだとしたら、奪いに来るタイミングがおかしい。不意打ちを狙うにしても、二つ目の首輪を手に入れるのを待ってからでよかったはずだ。そう考えれば、そもそもニーナたちが既に一つ手に入れているかどうか知っていたかも怪しい。首輪が狙いだというのも、実は適当な理由を付けて戦いに来ただけなんじゃないか……
それじゃあ本当にいったいなにが目的で?
それとも初めから目的なんて存在しないの?
子供たちがじりじりと距離を詰めてくる。
「やるわよ、二人とも」
ニーナはごくりとつばを飲み込んだ。まだ心の準備ができていなかった。
しかし戦いは始まってしまう。まずはロブが変身。バトルボアモードと名付けた巨大化で相手を圧倒しようとする。
「うわっ、デカくなった!」
相手はそれぞれ後ろに跳んで距離をとり、さらに手持ちのナイフを投げつける。しかしながらバトルボアモードとなったロブの皮膚は鋼のように固く、そんじょそこらの刃物では傷一つ付けることはできない。
さらにシャンテが敵の足目掛けて放ったがワイヤーを放ったが、それは惜しくも躱されてしまった。
「ちっ、兄さんに気を取られてると思ったのに、やるわね」
──というか、それほど驚いてない?
変身したとき、さっと後ろに下がりはしたものの、そのあとすぐに反撃してきた。そういう相手と戦うことに慣れているのか、それともロブが変身できると知っていたのか。少なくとも動揺している様子は見られない。
「あのブタ邪魔」
「女から削り殺せばいいんじゃね?」
「さんせー! じゃあ私が藍色髪のほう殺すから、二人は帽子被ってるほうね!」
そう言って敵は三方向に散って、ぐるりと取り囲むように回り込んできた。ニーナも負けじと雷撃を飛ばすが、身軽な彼らには当たらない。ロブもバトルボアモードになると俊敏さが失われてしまうため、敵の動きについていけなかった。
うわっ、どうしよう!?
リュックの中にはたくさんの道具を詰めてきたけれど、こんなことは想定外。接近戦で使えそうなのは<骨伝導ソード>ぐらいだが、殴り合いで勝てる未来がまるで見えない。それならまだ<バケツ雨の卵>で気を逸らしてみたほうが可能性は感じるものの、そもそもアイテムを取り出す暇を与えてくれるかどうか……
と、そのときだった。
飛んできた石のつぶてが、ニーナを狙う少年の足に直撃したのだ。
誰が助けてくれたのだろうか。ニーナは石が飛んできた方向を振り返ると、そこには仮面をかぶった三人組が立っていた。船で島に来る途中、ニーナのことをじっと見ていた人物が助けてくれたのだ。
「なんだよ、お前達。邪魔する気なら容赦しないぜ?」
石をぶつけられた少年は怯むことなく応戦する構えを見せるが、仮面をかぶった三人組は何も答えず、代わりに無言のまま剣を抜いた。こちらも戦う気でいるようだ。そうして三つのチームはそれぞれに離れて距離をとり、奇妙な三角形が出来上がる。仮面のチームはニーナたちの味方というわけでも無いらしく、迂闊に間合いに入ると斬られそうな、そんな殺気を漂わせている。
そのまましばらくにらみ合いの膠着状態が続いたが、先にしびれを切らしたのが、最初に襲ってきた子供たちだった。
「あーあ、うぜー。なんかめんどくさくなった」
「たしかに」
「わたしももう飽きたー!」
そんな勝手なことを大きな声で言い合うと、子供たちはくるりと身を翻し、こちらに背を向けながらこの場を後にしようとする。そんな彼らはあまりにも無防備だったが、隙だらけ過ぎて気味が悪く、そのまま帰ってくれるなら手を出さないほうがいいんじゃないかと思えた。仮面の者たちも、立ち去るのなら手を出さないつもりらしい。
そうして、その場にはニーナたちと仮面のチームが残される。相手はまだ剣を抜いたままだ。
「アンタたちも、アタシたちから首輪を奪うのが目的なの?」
シャンテは槍を構えたまま問いかけた。すると仮面のチームはやはりなにも答えなかったが、無言で剣を鞘に納めた。どうやら戦う意思はないらしく、素早く反転して去っていく。ニーナはその背中に、ありがとうございました、と叫んだ。相手の思惑がまるで読めないが、それでも助けてもらえたことは事実で、だから感謝の気持ちを伝えたかったのだ。
「ほんと、アイツらいったいなんだったのよ」
ようやく重苦しい息を吐きだしながら、シャンテは言った。ロブも変身を解いて、ぐでーっと、地面の上でへばっている。いろんな意味ですごく疲れた。
しかし、休む暇なんてなかった。気を抜きかけたニーナたちに、腕時計が悪い知らせを運んでくる。なんと既に十五のチームが二回戦進出を決めたというのだ。まだ時間にして三十分足らずだというのに、残りの枠は半分しか残っていない。想像よりずっと早くにゲームが終わってしまいそうだ。
そんなニーナたちに一発逆転を狙えそうなチャンスが舞い込んでくる。
とあるチームが、ニーナたちのすぐそばで金のウサギを追い回していたのだ。これはもう狙うしかない。始めは横取りなんて真似はしないでおこうと思っていたけれど、もうなりふり構っていられる状況じゃない。とにかく三点ぶん集めなくては。ニーナたちは急いで金のウサギ争奪戦へと加わるのであった。




