ウサギ狩りゲーム!①
「ほんとアタシたちってばつくづくウサギと縁があるのね」
ウサギ狩り、という言葉にシャンテがピクリと反応する。マッスルウサギに<キャキャロット>を奪われて以来、シャンテは何かとウサギを目の敵にしていた。
──あはは……。まだゲーム名しか発表されていないのに、もう殺気がビンビンだよ。
それにしてもウサギ狩りとはまた物騒なことを考える。ゲームとはいえ、無駄に命を奪う行為は少し心が痛むのだ。
しかし、よくよくルールを訊いてみると、そこまで非道なことをさせる気はないらしかった。
「さてみんな、このケージが見える? この中にいるのはねー、かわいいかわいいノウサギたちだよ」
参加者たちの前にやってきた係りの者が大きなケージからウサギを一匹出して、掲げてみせる。
「ねえ、もうちょっと前に行こうよ。ここからじゃよく見えないし」
「そうね。ルールを把握できなくて困るなんて嫌だし」
ニーナたちは参加者の脇をすり抜けて前のほうへと移動する。数が多いといってもせいぜい三百名ほど。特に苦労することなく一番前へと進むことができた。
「もう気付いてると思うけど、ウサギたちにはそれぞれ赤い首輪が取り付けられているわ。いまからこのウサギたちを島のいたるところに解き放つから、参加者の皆さんにはこの首輪を集めて欲しいの。一つにつき一点。合計三点ぶんの首輪をチームで集めて、この場にいる係りの者に見せることができれば次へと進める。ただし制限時間は二時間。そして先着三十チームまで。条件を満たすことができなかったチームは残念ながら失格ということで、そのまま船に乗って引き返してもらうから」
ざわざわと周囲に動揺が広がる。そんな参加者たちの反応を楽しむかのように、ルチルは口元に手を当ててクスクスと笑っている。
最初のゲームでそれなりの人数がふるい落とされることはある程度覚悟していたが、まさか島から追い返されるとは思ってもみなかった。
「あのっ、質問いいですか?」
ここでニーナは思い切って手を挙げて質問してみる。
「どうぞどうぞ」
「首輪さえあればウサギは逃がしても構わないのですか?」
「そーだよ。ウサギ狩りゲームという名前だけど、実際には首輪を集めてきてもらえれば、それでじゅうぶん」
「ウサギは全部で何匹いるんですか?」
「ケージの中には十匹しかいないけど、もう既に結構な数のウサギを島中に放っているから、見つけること自体は簡単なはずだよ。ただすべてのウサギが首輪をしているわけじゃなくて、なかには関係の無い野生のウサギも混じっているから、無駄に追いかけまわして時間を浪費してしまった、なんてことがないようにね」
なるほど、よく観察してから捕まえろということか。
ニーナはありがとうございましたと言って頭を下げた。
「もう一つ、知っておいてもらいたい大切なルールが存在するんだよねー」
ルチルの言葉を受けて、また新たなケージが目の前に運ばれる。
そのなかに入れられていたのは、なんとも不自然な輝きを放つ金色のウサギだった。
「いまからこの金のウサギを一匹だけ島に放ちます。このウサギを捕まえこの場へ連れてくることができたチームにはなんと! その場で三ポイント差し上げまーす」
おぉ、つまり一匹捕まえるだけで二回戦に進めるということか。当然ほかのチームも狙ってくるだろうけれど、チャンスがあればぜひとも捕まえたいものだ。
ちなみに金のウサギだけは首輪をしていないので、ウサギそのものを連れてこの場に戻る必要がある。またその際にはくれぐれも殺さないようにしてほしいとのことだ。
さらに、とルチルが語気を強める。
「この金のウサギを捕まえたチームは特別に二回戦を免除します! そのうえで、このあとみんなに泊まってもらう予定のホテルにて、贅の限りを尽くした最上級のVIPルームへと招待させていただきまーす。そ・し・て! そこで私自らが、みんなに特別なご奉仕をさせていただこうと思うの!」
うっひょー、とロブが歓喜の声を上げている。周囲のざわつきも一層大きくなった。サイテー、と隣でシャンテが吐き捨てるように言ったが、周りの喧騒にかき消されたのかロブの耳には届かなかったみたいだ。
「な、な、なぜ君がそんなことを!」
焦ったように口を挟んだのはレオナルドだ。プロポーズするほど好きな女性が「特別なご奉仕」をすると訊いて、黙っていられなかったのだろう。きっといけない妄想をしてしまったに違いない。彼の立場を考えるとちょっとだけ可哀そうに思えてきた。
「あらら、どうしてまだ婚約者でもないあなたが焦っているの?」
「たとえまだそういう関係じゃなくとも、僕と君は幼馴染だ。そりゃあ焦りもするだろう!」
どうやらレオナルドの一方的な片思い、という単純な関係性ではないらしい。
「へー、そうなんだ。じゃあさ、そんなに私が他の人にご奉仕するのが嫌なら、あなたが金のウサギを捕まえてくればいいんじゃない?」
「むっ、それはそうかもしれんが……」
「決まりだね。それじゃあ頑張って。一応期待してるから」
またしても軽くあしらわれてしまったレオナルドのことが段々と不憫に思えてきた。強く生きて欲しい、と心の中で秘かに応援する。
その後、参加者たちが見守る前でウサギたちがゲージから放たれる。VIPルームの権利を握る金のウサギも飛び出した。他のウサギよりもぽっちゃり気味で、大きな体を揺らしながら必死に走る姿が愛らしい。ただあの様子だと他のウサギよりも簡単に捕まってしまいそうで、本気であのウサギを捕まえるつもりなら早めに勝負をかける必要がありそうだ。
ウサギたちが身を隠すのを待つあいだ、参加者たちは係りの者より特別製の腕時計を受け取った。これを通じて、ゲームの終了を音でお知らせしてくれるらしい。また現在地を知らせる機能が組み込まれているらしく、もしも島で迷子になってしまった場合、この時計を頼りに係りの者が探してくれる手筈となっている。そのためこれから決勝までの間、入浴時と就寝時以外はつねに身につけておいてほしいとのこと。ロブも左の前足に時計を巻き付けた。
それから待つこと数分。
ルチルがゲームの始まりを宣言した!




