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ひよっこ錬金術師はくじけないっ! ~ニーナのドタバタ奮闘記~  作者: ニシノヤショーゴ
12章 ひよっこ錬金術師、先生となる
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関わったのが運の尽き③

 閃光。感電。そして──

 女は雷に打たれたかのように髪の毛を逆立てながら痙攣し、その場にばたりと倒れ込む。さらに美しかったブロンドヘアーはみるみるうちに白くなり、肌からも艶やハリが失われていく。老婆のふりをしてミスティを騙した女は、皮肉にも本物の老婆へと姿を変えられてしまった。


「な、これはいったいどういうことだい!?」


 訊きたいのはこちらのほうである。

 なにがどうなっているのかさっぱりわからない。

 そもそもニーナたちはここに駆けつけてからというものの、ほとんど何もしていない。相手が勝手に自滅しているだけである。


「アンタっ! いつまでもそうしてないで、早くこいつらを捕まえな!」


 女はしわがれた声で叫んだ。大声を出すだけでも老体には堪えるらしく、肩で息をしている。


 ──ドスンッ!


 ようやく亀裂から抜け出すことに成功した男が勢いを付けて床上に戻ってくる。そんな衝撃を与えたらまた床が抜けてしまうのではないかと、ニーナはいらぬ心配をしてしまうけれど、その不安は予想外の形で的中する。なんと今度は天井の一部が崩落し、ちょうど真下にいた男の頭上に降り注いできたのだ。同時に、天井裏に住み着いていたであろうネズミやらも落ちてきた。


 しかも運の悪いことに、男はちょうど部屋の中央にいた。つまり、火のついたランプの真下だった。落下の際に男のこめかみを掠ったランプは肩にぶつかった衝撃で割れて、衣服に火が燃え移る。さらに男の足もとにまで火が燃え移ってしまった。


「うおっ! 熱っ! ど、どうすれば!?」


「落ち着きな! まずは上着を脱いで、それから服をはためかせるようにして風圧で火を消すんだよ! それでもダメならバケツにくんでおいた水をぶっかけてやるんだ。ほら、アンタたちも見てないで手伝っておくれよぉ!」


 えぇ……

 どうして自分たちが、とニーナもシャンテもロブも思ったが、確かにこんなところで火事になると周りの住民にも被害が及んでしまう恐れがある。他の人に迷惑をかけるのは本意ではなかったし、それにもう相手は完全に戦意を喪失してしまっているように見える。これ以上争う必要もなさそうだ。


 そんなわけで、ひとまずニーナたちは協力して消火活動を手伝うことにした。







「ふう、びっくりしたけど大したことなかったね」


 ランプから燃え移った炎は、バケツの水をかけることで簡単に消すことができた。ロブの魔法も出番なし。慌てて家を飛び出したので<バケツ雨の卵>は手元になかったが、あっても必要なかった。そういえば<七曲がりサンダーワンド>の出番すらもなかったな、とニーナは手のなかの杖を見ながら思う。


 ミスティの足を縛っていたロープを、シャンテの槍が切り裂く。フレイムスピアも扉を八つ裂きにするのとロープを切断するぐらいしか、活躍の場面がなかった。別に戦いたかったわけじゃないし、誘拐犯を徹底的に懲らしめてやりたかったわけでも無い。ミスティが怪我なく無事に戻って来てくれることが一番なのだが、それでもどこか拍子抜けしてしまった感は否めない。


 男はポーションの効果が切れたようで、いつの間にか元の姿に戻っていた。その一方で、女の方はというと老婆の姿のまま。このあとも元の若々しい姿に戻れるかはわからないらしい。というのも、女によると、杖は借金取りまがいのことをしたときに金の代わりに手に入れたものらしく、貴重品ということもあってこれまで使用したことは一度もなかったそうだ。呪いの杖ということ以外ないはなにもわからないらしく、解呪方法も知らないと言う。いい気味ね、とシャンテが吐き捨てるように言ったが、気力まで老いたのか、女はなにも言い返してこなかった。


「あの、助けていただいてありがとうございました。本当に、いつもいつも迷惑をかけてすみません」


 ミスティは心苦しそうに頭を下げた。


「やだなぁ、なにを言ってるんですか! 当然のことをしたまでです。シャンテちゃんから事情も訊いてますし、ミスティさんが謝ることは何一つありません。あっ、でもでも、マルくんのことは褒めてあげてくださいね。ミスティさんを助けようとすごく頑張ったので!」


 ニーナはそう言ってマルのことをミスティへと手渡す。愛犬のケガにミスティは悲しい顔を見せるものの、すぐに慈愛に満ちた表情でマルに頬を寄せて、ありがとう、と言った。その言葉は魔法の道具を使わずとも届いたはずだとニーナは思う。


 ──あっ……


 頬を伝う涙。いま、ようやく自分は助かったのだと実感できたのだろう。零れ落ちるしずくをマルがぺろぺろと舌で拭う。短い間だったとはいえ、一人ぼっちで相当心細かったに違いない。助け出すことができて本当に良かったと、その姿を見て改めて感じた。


「これで一件落着なのかしらね。あとは騎士に任せて……って、どうしたの兄さん、そんな難しい顔して。似合わないわよ?」


 ニーナはロブへと視線を止める。そのつぶらな瞳はじっとミスティのことを見つめていた。

 ただその顔つきは、普段女性のことを目で追うときの緩み切った表情とはどこか違っていた。


「んー、そのなぁ、ミスティにちょっくら訊ねたいことがあって」


「私にですか?」


「そうそう。その右手につけてる指輪のことなんだけどな、それってどこの誰にもらったものか、もうちょい詳しく教えてくれねーか?」


 あれ、とニーナは首を傾げる。確かこの前ミスティ本人が「家族からお守り代わりにもらった幸運の指輪」だと説明していたような。その話におかしな点はないように思うけれど、それでもこのタイミングでもう一度同じような質問をするということは、なにか引っかかることでもあるみたいだ。


 それに、とニーナは口元に手を当てて考える。

 これまで気にしてこなかったが、ロブの言葉を受けて、ニーナにはその指輪が段々と怪しく見えてきた。とても幸運をもたらしているようには思えないのである。むしろその逆。不幸をもたらしているのではないかとすら思えてくる。家族からもらったものを疑うのは気が引けるけれど、でももし、彼女の両親すらも騙されていたのだとしたら? 両親が娘を想って持たせた指輪が、実は呪われた品物だったとしたら?


 一同の視線がミスティに集まる。

 ミスティはためらいがちな表情を見せたあと、ゆっくりと薄い唇を開いた。


「実は……この指輪は両親からもらったものでは無くて、旅の途中に見知らぬ女性から頂いたものなんです。たぶん商人だと思われる、身なりの良い黒髪の女性だったんですけれど」


 黒髪の女性って、まさか……!

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