ロブさんをデッサン!②
ミスティがためらいがちに服に手を伸ばし、それを広げてみせる。左右の手のなかでぶら下がる衣服は妙にだらんとして見えた。色も灰色なのか白なのか、まだら模様がくっきりとせずぼやけていて、お世辞にも出来がいいとは言えない。そしてなにより二つの耳の形が歪で、サイズも左右で微妙に異なっていた。
「え、なんかだるんだるんじゃね?」
ニーナが思っても言えなかったことをロブがさらっと言ってのける。
さらにロブは、これってどういう現象なんだ、とニーナに質問した。
「恐らくですけど、発明品をイメージする力が足りなかったんだと思います」
「ぐるぐる混ぜるときに魔力と一緒に脳内イメージを送るんだっけか? あれってよくわかんねーんだよなぁ。液体状のものならともかく、形のあるものを型にはめるわけじゃねーのに、<神秘のしずく>を垂らしたらいきなり完成品ができあがるわけじゃん?」
「そうでしょうか? 確かに科学や工学を志す人たちは同じように不思議だと言いますが、ロブさんなら理解してもらえると思うんです。ほら、ロブさんだって氷の刃を作り上げたりするじゃないですか。あれも脳内イメージを反映させて作り出してるんですよね」
「ああ、なるほどな。あれと一緒ってわけか。でもチョーカーはうまく錬成できたのに、こっちだけうまくいかないのはなんでだ?」
「たぶんですけど、チョーカーは単純な構造をしているから想像しやすかったんじゃないでしょうか?」
「じゃあ<空飛ぶドッグウェア>は?」
「うーん、確かにあれは可愛らしいデザインをしてましたよね」
ニーナは口元に手を当てながら原因を探る。うまくいかなかったのは今回だけ。だとしたら、単純に<ドッグイヤーパーカー>のイメージがまだ固まっていなかっただけかもしれない。
ただこのとき、ニーナはもう一つ気になることがあった。いままで気に留めなかったことだが、思い返してみれば、ミスティのレシピブックにはあるべきはずのものが一つ欠けていた。
「あの、いまさらですけど、この紙に色鉛筆で<ドッグイヤーパーカー>を描いてもらえませんか。できればいろんな角度からお願いします」
「い、いまからですか?」
「そうです。あっ、調合道具は私が片付けておきますので、ささっと描き上げちゃってください」
ニーナはミスティを椅子に座らせると、彼女の前に紙と色鉛筆を用意する。ミスティは困ったような表情を浮かべていたが、やがて黒い鉛筆を握って手を動かし始めた。
ところが、ミスティはほどなくして静かにペンを置いてしまう。
「おや、もう描き終わりました?」
「いえ、それが……」
「やっぱり、絵を描くのは苦手ですか?」
ミスティは目を伏せたままコクリと頷く。
初めてミスティのレシピブックを見せてもらったとき、文字ばかりがずらりと並んでいて、まるで勉強ノートのようだと感じた。錬金術師を志したのが遅かったこともあり、とにかく学んだ知識を書き連ねているようだった。だからスケッチが少ないことを特に不思議に思わなかった。オリジナルレシピに挑戦した経験が少ないようだったので、スケッチを必要とする機会がそもそもなかったのかもしれない。
「<空飛ぶドッグウェア>を作成したときは、どうやってイメージを固めたのですか?」
「体を覆う部分は、もともと家にあったドッグウェアのデザインをほとんどそのまま使わせてもらったんです。そこにニーナさんたちが映る記事を見て、<天使のリュックサック>の羽のデザインを真似してみたといいますか」
「すでに世の中にあるものを組み合わせて足りないイメージを補っていたんですね」
その方法は決して間違いではない。むしろ賢いやり方だとニーナは思う。
ただ、このままだとこの先が厳しい。特に自由な発明を成し遂げていくのであれば、イメージ力は必須。そもそもデザインを流用しすぎると、そのうち誰かから訴えられてしまうかもしれない。
「これは特訓が必要そうですね」
「すみません……」
「なにも謝る必要はないですよ。まあもっと早く苦手だと正直に話して欲しかったなとは思いますけど。でも、いま足りないことに気づけたなら、あとは補うだけです。ということで今からさっそくデッサンの練習を始めてみたいと思うのですが、なにを題材に描いてもらおうかな。初めは簡単なお題がいいと思うんですけど……そうだ、ロブさんにモデルになってもらいましょう!」
「え、俺、簡単なの? 構造が単純なの?」
「いやその単純というか、フォルムが素晴らしいといいますか、色もピンク一色でいいといいますか……つまり要約するとイケメンってことです!」
「そっかー、イケメンかー。それじゃあ張り切ってモデルを務めないとなー」




